1章1-2 退学同盟編

1-12 理事長

 4月10日 木曜日


 赤羊荘の食堂で朝食を取った後、優子、アリス、アキラ、椿姫の四人は揃って登校し始めた。まだ慣れたまではいかないが、友達もできて、魔法の勉強もできて、優子は学校生活が少し楽しくなってきていた。


 今日の放課後はまたた部活見学に行ってみようと思っている。先輩の玲華とシオンはおもしろい人たちで気に入ってた。カサノヴァはアレだが。

 アキラ曰く部活は青春の代名詞なのだそうで彼女も決闘部への入部を待ち望んでいた。椿姫も強くなりたいと決闘部での練習を楽しみにしている。


 そんな夢の希望を抱いた入学したての新入生たちが旧校舎へと向かう。すると旧校舎に近づくにつれて重機の駆動音が聞こえてきた。

 気になって早歩きになる優子たちを出迎えたのは旧校舎を取り囲む工場のフェンスと重機だった。昇降口は立入禁止のテープで封鎖されており、0組の生徒たちは旧校舎に入れずに外で立ち尽くしている。


「なにこれ!?」


 アキラがビックリして声を上げる。これから三年間青春を過ごすはずの学舎が封鎖されていれば誰でも驚く。


「見ての通り、このボロい旧校舎を解体しようとしているのだが?」


 黄色いヘルメットを被った理事長が現れてアキラの疑問に答える。


「じゃあわたしたちどこで授業受ければいいんですか!?」


「貴様ら0組は授業を受ける必要はない。なぜなら今日で退学だからだ」


 唐突に理事長の口からそんなことが告げられる。それを聞いた四人は信じられずに唖然とする。まだ入学したばかりだし、落第もしていないのに退学などおかしい。


「これからこの旧校舎を取り壊してここに新校舎を建てる。そこではアーク自治区からの転校生が授業を受けるのだ。出来損ないの0組に使う経費は勿体無いからな。貴様ら0組を廃止してアーク自治区の優秀な生徒を迎え入れるのだよ」


 先日アーク自治区のサイタマ市合併が決まった。この魔法学園にアークから転校生が来るようだ。しかしそのために今いる生徒を退学させるなんて言語道断だ。アキラが理事長に抗議する。


「理事長でもそんなこと勝手にできるわけない! 退学なんておかしいよ!」


「おかしくない。私は理事長だぞ。私が退学と言ったら退学になるのだよ」


 魔法至上主義者の理事長の権力なら、0組生徒を強制的に退学させたという事実も揉み消せるのだろう。


「もう貴様らはこの学校の生徒ではないんだ。とっとと敷地から出ていけ」


 羽虫を追い払うようにシッシッと優子たちを退ける理事長。優子はこんな時どうすればいいかわからず、あわあわしていると、アリスが理事長に声をかけた。


「理事長、少しよろしいでしょうか」


「ん? 君は確か降神アリス。そうか、そういえば君も0組だったな。降神の若き当主が高校中退とは残念でならないよ」


「0組が学校に残るべき優秀な生徒だと証明できたら、退学を取り消していただけますか?」


「突然何を言うかと思えば。優秀な生徒かどうかは入学試験の結果でわかりきっていることだろう。君たちが0組なのは優秀ではないからだ」


 アリスが理事長に何か提案しようとしたようだが突っぱねられる。まともに取り合ってもらうことすらできない。


「0組を廃止するのは予算削減のためでもあるのだ。もう解体工事と新校舎の建設工事は決まっている。キャンセルはできん。魔法の力を利用した儀式建築だからな、それぞれの建築工程を行う日付、時間が決まっていて、解体は絶対に今日から始める必要がある。旧校舎は過越に則って造られた儀式建築だ。同様に解体も過越の日付に則り行わなければならん。

 工期をズラせば、全く別の儀式を用意せんといけんから出費が膨大に増える。貴様ら無能のために時間も金を用意するわけないだろう」


 子供相手に難しい言葉や専門用語を使い語って気持ちよくなっているのだろうか、ベラベラと捲し立てるようにアリスに訳を説明する理事長。儀式建築とは魔法の起源となった神話や聖典に則って建立する建物のことで、過越は聖典にある災いから子供を守った出来事だ。現在ではそれに準えて、儀式、祭りを行う記念日となっている。

 現在は魔法暦116年だが、西暦通りに数えれば2014年にあたり、2014年の4月10日はその儀式、祭りの準備をする日である。この日に解体を開始し、過越の祭りの始まりである14日に新校舎の建設も開始するつもりなのだろう。


「そうですか、残念です」


 アリスはそう言って会話を終えた。アリスにはまだ余裕がありそうだ。この状況で他にも何か手を残しているらしい。


 昇降口に集まった0組の生徒たちが仕方なく赤羊荘に帰っていく。優子たちもそれに続いて赤羊荘へと戻った。

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