★12月14日 (穂乃香からの手紙⑧)

 私はそれでもその宿屋に興味を持ったので、支配人さんに挨拶をし、自転車を引っ張りながら、そこを目指しました。ミーニャはこの街でとても可愛がられている事に驚いていました。もしかして街の宣伝大使みたいになっているのかも、と心の中で得意になっていました。なんと言ってもミーニャは私のネコです。

 私達は途中、紅く色付いた木々の並んでいる公園の横を通り過ぎました。ミーニャは私の行先を知っているかのように、少し先をトコトコと歩いています。やがて宿屋が目に入ってきました。あの本の挿絵で見たのとそっくりの、まるで妖精の住んでいそうな、おとぎ話の中の建物みたいでした。

 でもそこには、もう入りきれない位のたくさんの人達がそわそわ、イライラと待っていたんです。色々な国の言葉が行き交っていて、中には小さな子どももいます。

 宿屋の主人と思われる体格の良い男の人が来てこう言いました。


「ここで泊まりたいのかい? それなら台帳に名前を書いて。今、三十人待ちだよ」


 それが冗談なのか本気なのか。この街全体がテーマパークで、宿屋の主人も自分の役のセリフを言っているんじゃないかって気がしてきました。でも確かに受付の台帳には、色々な文字の名前が並んでいるんです。私はとてもここには泊まれないと諦めました。それで、さっき目に入った公園で休もうと思い、引き返したんです。ミーニャも後をついて来ます。

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