46. 地球の構造

 なぜコンピューターと女神が関係あるのか? 英斗には皆目見当がつかず、レヴィアの方を向く。


 レヴィアはチラッと英斗を見ると目をつぶり、無言でうなずいた。なんと、レヴィアも魔王のバカバカしい話を受け入れてしまっているのだ。


「ちょ、ちょっと待って! ここはコンピューターの中だって? 僕たちはゲームの世界にいるってこと?」


 英斗は混乱した。確かに不老不死とか不可解な出来事ばかりのこの世界。明らかに異質であるから何らかの仕掛けはあるのだろう、とは思っていたが、この世界全部がコンピューターによって合成された世界とはバカバカしい、冗談めいた話だった。


「我も独自にこの世界を調べておった。結論は魔王の言う通りじゃ」


 レヴィアは肩をすくめ首を振る。


 英斗はレヴィアの手を取ると、


「いや、ちょっと待ってくださいよ! 見てください、ほら、プニプニですよ、プニプニ! こんなのコンピューターじゃ合成できませんよ」


 そう言って、やわらかなレヴィアの小さな手のひらを揉んだ。


「お主が言っとるのは地球のしょぼいコンピューターのことじゃろ? この世界を作っておるのは桁違いに高性能なコンピューターじゃ。このくらい造作もないわい」


 レヴィアはそう言って英斗の手を振り払う。


「そ、そんな……」


 英斗はがく然として手のひらを眺める。指のかすかな動きに追随ついずいして盛り上がる手のひら。その皮膚の奥で縦横無尽に走る血管。これがコンピューターによる合成とは到底思えなかった。


 しかし、紗雪が受精卵から再生された様を思い出せば、それはコンピューターによる合成という話の方がしっくりくるのもまた事実である。


「わ、分かりました。この世界はコンピューターによる合成。そうかもしれない。でも、ここの魔物がなぜ日本に行っても動いているんですか? コンピューターによる合成像が地球上でも動くって矛盾してますよ」


 レヴィアはクスッと笑うと、


「地球がなぜ特別だなんて思うんじゃ?」


 と、返した。その瞳にはある種の諦観ていかんが浮かんでいる。


「はぁっ!?」


 英斗は耳を疑った。生まれてきて十六年、日本が仮想現実世界だったなんて一度も感じたことはなかった。どこまでもリアルで、高精細で、ち密な世界。それが全てコンピューターによる合成像だったなんてとても認められない。


「いやいやいや、地球上には高度な観測装置もあって、厳密に世界はリアルで破綻してないって話ですよ? そんな訳ないじゃないですか!」


「そんなの観測装置の所だけ精度上げて終わりじゃ。結局は人間に違和感のない精度だすだけで何の問題もないんじゃから」


 レヴィアはウンザリしたように首を振る。


「そ、そんな……」


「そんなことはいいから人類復活の方針を決めろ。我も協力してやる」


「ほ、方針って……」


 英斗は困惑した。なるほど、地球がコンピューターによる合成だとしたら、昔のバックアップをリストアするだけでみんな元通りに復帰するだろう。それは確かに可能だし現実解だ。そしてそれがコンピューターシステムの管理者アドミニストレーターならできるというのも筋が通っている。


 しかし、そんなことを認めてしまっていいのだろうか? それはつまり、自分はゲームの中のキャラクターに過ぎないということを受け入れることだ。確かな肉体をもってリアルな世界に自立していると考えていた自分にはもう戻れない。


 くぅ……。


 英斗は目をギュッとつぶるとうなだれた。


 そのやり取りを見ていた紗雪は、カツカツと近づき、そっと英斗の手を取り、


「英ちゃん……。悩むのは後でいいわ。早く地球を……日本を元に戻さないと」


 そう言って英斗を見つめた。


 すっかり憔悴しきった紗雪は顔色も悪く、泣きはらした目が痛々しい。


「そ、そうだな……。管理者アドミニストレーターに会って直談判……。どうやるか考えないと」


 英斗はギュッと紗雪の手を握り返し、魔王を見下ろした。


 魔王はふんっ! と鼻を鳴らし顔を背ける。


「女神以外に管理者アドミニストレーターはいないのか?」


 英斗が聞くと、魔王は面倒くさそうに答える。


「そりゃぁたくさんいるよ。でも、この星系の担当はいつもの女神、ヴィーナだ。他の担当に声かけたって権限持ってないから無駄だろう」


「女神と会う方法は金星に行くか、人類を滅ぼすかしかないのか? 他にあるんじゃないの?」


「あったらもうやってるよ!」


 魔王は吐き捨てるように答えた。


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