第6話 二年後

クールかわいいサーシャ師匠と二人で秘密の特訓を初めてから2年が経過した。


2年間、ほんとに色々あった。


サーシャは色々とズレているところもあるが昨日の夜もやはりズレていた。


サーシャがオムライスにハートマークを書いてその真ん中にフォークを突き刺して、俺の目を睨むように見てきて


『どうぞ。お召し上がりくださいです』


と言ってきたこと。


(これはなに?俺の命を狙っているということなのか?お前の心臓なんてこんなふうにいつでも刺せるのだぞ、ということ?)


と頭を悩ませたいたけど。こんな日常も、もうすぐ終わることを俺だけが知っいてた。


原作のレイヴンさんの12歳の誕生日は最悪の誕生日になる。


家に盗賊が押し寄せるからだ。


今日はその一週間前。


俺はさっそくそれを阻止するために動き出していた。


事件が起きた当時の俺と妹は学園に行っており助かったが、今回俺は休んで家の防衛をするつもりだ。


これを阻止できなければブラッドフレアの経営する孤児院に俺と妹は放り込まれることになる。


それは避けなくてはならない。


「一週間後盗賊が来る、という話ですが。盗賊はどこから来るのかは分かっているのですか?」


サーシャの言葉に首を横に振った。


まず盗賊が急に現れたことを考えると家に侵入されるまでは何処にいるか、とかは分からない。


それに下手に手を打って盗賊の行動パターンを変えてしまうのは嫌だ。


「敷地内で迎え撃つつもりだよ。侵入経路は把握してある」

「……大丈夫なのでしょうか?」

「リスクもあるが。これは君のためためでもあるんだよ」

「さ、サーシャのため、ですか?」


珍しく驚いたような顔をするサーシャに頷く。


ブラッドフレア家では未だに俺を始めとした子供に剣術を教えない、という方針が根強く残っている。


そんな中俺とサーシャがよく二人で離れに向かっている、という情報は父上に知られていた。


これまでは誤魔化してきたけど、流石にそろそろバレそうなのだ。

そこで俺は考えた。


「最終的にサーシャに教えて貰っていたことは打ち明けようと思ってる」

「だ、大丈夫なのですか?」


サーシャに考えていることを伝えた。

まず父上の目の前で盗賊からこの家を守りきる。


守りきれた場合俺が2年間力を付けてきた、という事実は無駄にはならないし評価されるはずだ。


少なくとも父上も俺の努力、剣の技術を無視や軽視はできない。


なぜならそれに命を助けられたからだ。


「で、評価されるのなら俺に剣を教えた君も同じく評価されるはずだよ」


少なくとも俺は父上にサーシャの事も評価するように言おうと思っている。


俺たちの家がまだ存続できるのはサーシャのおかげ、だと。


「もしかしたらメイドもやめれるかもね?」


俺としては寂しい話だがサーシャの剣の腕はすごいと思う。

その腕を活かしてメイドなんてやめてもいい。


「……」


いつものクールな目で何も言わずに見てくるサーシャ。

なんか余計なこと言っちゃったかな?


まぁいいや。


話題を変えよう。

本題だ。


「先に盗賊対策しちゃおっか」


盗賊が侵入してくるまでのことは分かっていないが侵入経路なんかのことは分かっている。


先にそこに罠なんかを設置するつもりだ。


「はい、なんなりと」


そう言ってスタスタと俺に同行してくれるサーシャを連れて家の外周をグルーっと回った。


盗賊たちは主にこの外周からブラッドフレア家に侵入してくる。


「ほら、見てここ」


そう言って俺はこの領地を囲っている壁の一部を指さした。


「老朽化しているみたいですね」

「そうなんだ」


ブラッドフレアは元々はそこそこの剣の名門だったらしい。


代々続く名門だったそうだ。


そのため家の周りもそうだがこういう外壁もところどころ崩れてきている。


「奴らはここを突き破って侵入してくる」

「盗賊の数は何人ですか?」

「4人組だ。全員手練だ」

「サーシャが三人受け持ちますです」


俺そんなに頼りなく見えるかな?

そんなことを思いながら首を横に振る。


「俺に四人任せる、くらい言ってみたら?」


苦笑いしながら言ってみたけど。


「さ、サーシャには……あなたをお守りする義務がありますです」


なるほど。

真面目でクールなのか。


どこまでいっても俺をお守りする、とかどうとか。

でもさ。

俺だって守られてばったじゃないんだけどな。


「たまには守らせてよ。サーシャのこと」


そう言ってみた。

キザっぽいかな?


でも俺もたまにはカッコつけたくなるのだ。


サーシャの反応を見るために顔を見てみたが


(あれ、もしかしてやばい?)


サーシャの顔が真っ赤になっていた。

鬼のように赤くなっている。


(お、俺が弱いくせに守るとか言ったから怒ってんのかな?プライド高そうだもんなぁ。サーシャ)


そう思いながら思考をリセットするように首を横に振った。


だめだ。

慣れないことはするものではない、ということだ。


サーシャはメイド属性持ちなだけで俺に気は無いし守られたくない。


そういうことだろう。悲しいけど。

ここからは真面目な話をしようか。


「俺が二人。サーシャが二人で、いいかな?」


コクリと頷くサーシャ。


四人任せろとか言いそうだったけど言わなかったらしい。


「じゃ、その手筈で」


そう言ってから俺は近所の武具屋を借りて作ってきたものを設置してみた。


「それはなんなのですか?」


そう聞いてくるサーシャに答える。


「トラバサミだよ」

「トラバサミ?」


そう聞いてくるサーシャの前で実演してみる。

その辺に落ちていた木の棒を真ん中に落とすと


パン!!!!!


両側の歯が閉まって木の枝が簡単に折れた。


「お、おぉぉ……」


珍しくサーシャが鉄仮面のような表情を崩していた。


この世界でトラバサミなんてものは聞いたことがないし初めて見たのだろう。


「これにさ。人間の足が入ればどうなるか分かる?」

「考えたくないですね」

「少なくとも挟まって動けないってわけさ」


木の枝みたいに折れたり切断まではいかないだろうが、身動きは取れなくなるはずだ。


「俺は盗賊とまともに戦う気は無いよ」


これは遊びでは無い。

向こうも侵入なんて手を使うのなら俺だってやれることはやる、ということだ。


「ふふふ……くくく、あははは。さぁ来てみろよ盗賊団。地獄を見るのはどちらかな」


トラバサミを見て俺の口から漏れた言葉はそんな悪役みたいな笑い声だった。



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