第3話 味方どこ?

「さて、どうすべきか」


レイヴンの家の名前はたしかブラッドフレアだったな。


だから俺のフルネームはレイヴン・ブラッドフレアとなるわけだが。


「どうすればいい……」


俺だけがこの後の展開を知っている。

ブラッドフレアは盗賊に襲撃されて両親を殺される。


あの親バカの父上も母上もみんな死んでしまう。


なによりも最後は俺も死ぬ。

作中のどのキャラよりも惨めに死ぬ。


悪魔と契約までしたのに最後まで悪魔はレイヴンの活躍を見守るだけ見守って最後は魂を奪われ悪魔に死後も弄ばれ続ける。


これを悲惨と言わずになんと言えばいいのか俺には分からない。


「だが、家の中では監視の目がな」


ブラッドフレアの家は常に監視されているようだ。

メイド達は父上を第一に動いており俺が剣術の練習をしたりすればソッコー告げ口されるだろう。


女々しいヤツらだ。

と思いながらどうするかを考えるが。


「幸いこの部屋は監視外……だな」


唯一、俺専属のメイドであるサーシャが入ってくる以外この部屋に監視の目はない。


つまり練習するならこの部屋、ということになるが。


「こんな部屋じゃなんも出来ないよな」


剣を振り回して装飾を壊してしまえばそれこそ1発だし。


「待て……離れがあったな」


俺の家には今は使われていない離れがあったはずだ。


そっちに行ってみようか。


ガラッと離れの扉を開けるとムワッとしたホコリくさい空気が流れ出てきた。


「げほっ、げほっ」


長らく使われていない場所だったが。


「ここなら誰にもバレないだろう」

「何が、ですか?」

「わっ、わぁっ?!」


突如聞こえた声に情けない声が出た。

声の聞こえた方に目をやると


「さ、サーシャか。驚かさないでくれよ」

「なぜ驚きますのですか?」

「突然声をかけられたら驚くよ」


そう言いながら離れの扉を閉めた。


「なぜ閉めるのですか?」

「ホコリくさいからさ」

「用事があったのではないのですか?」


探るような目で俺を見てくるサーシャ。


俺専属とはいえ、やはり第一は他のメイドと同じく父上か。


あんなに親バカとは言え、メイドに言うことを聞かせるのは上手いらしいな。


「サーシャの役目はレイヴン様の監視です。それも業務内容なのです。分かりますですよね?」

「うぅ……」

「サーシャは大旦那様に拾われてここにいますです。大旦那様の意向に反することをするのなら報告する義務がありますです」


やはりそうか。

この家に完全なる俺の味方はいない。


サーシャに黙っていろと言っても俺のいいつけを破り直ぐに言いつけるだろう。


だって、この子は父上に拾われたから仕方なく俺の専属になっているだけだものな。


俺から反感を買っても父上から反感を買わなければどうでもいいと考えているはずだ。


「はぁ……分かったよ」

「サーシャの目の届く範囲では好きにはさせませんです」


その言葉に頷くとサーシャはどこかへ行くようだった。


「どこに行くの?」

「買い物です。メイド長が今日体調が優れないようで代わりに行ってきて欲しい、と大旦那様が」

「なるほど。じゃあ俺も付き添うよ」

「え?い、いいのですか?」


目をまん丸にして驚いたような顔で見てくるサーシャ。


「うん。いつも世話になってるしさ。たまには俺が手伝おうかなって」

「……」


俺のことを探るような目で見てくるサーシャ。


なんか勘づかれてるかな?


まぁいい。嫌われてもいいし嫌味っぽく返しておくか。


「ほら、サーシャに秘密の特訓を止められたから暇なんだよね」

「それは失礼しましたです」


悪びれる様子もなくスタスタと歩いていくサーシャを俺は追いかける。


頑丈な門を開けてサーシャと二人で街に向かっていく。


隣を歩くサーシャを見ながら思う。


(この子これでいて結構なカタブツだよなぁ)


メイドのくせに、と言ってはなんだけど。

メイドって初めから好感度MAXなイメージがあったから意外だ。


骨が折れそうだ、とか思いながら歩いていると店まで辿り着いた。


サーシャがメモを渡して買い物をしていく。

両手のカゴいっぱいに買い物をしていた。


「なにか持とうか?」

「私の仕事ですので、構いませんです」


そう言いながらも華奢な体で歩いていくサーシャと帰り道につく。


「俺の事嫌い?」


そんなサーシャに歩きながら聞いてみた。


「嫌いでした」


スパッと言うなぁこの子。


でも気になった。


なんで過去形……?


この子の敬語はところどころおかしいからその影響か?とか思うけど。


その時、


丁度俺たちの目の前にあった路地裏から犬が飛び出してきた。


直角に体の向きを変えて


「ガァァァァァァァァアッ!!!!!!」


サーシャに向かって飛びかかる。


「くそっ!」


一瞬にしてそこまで理解できた俺はサーシャを犬に噛みつかれない位置まで突き飛ばした。


「ガウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」


俺の左腕は鋭い痛みに襲われた。


(この!)


左腕を噛みちぎられそうな痛みを感じながらあえて左手を更に奥に突き入れた。


「っっっ!!!!!」


さすがに痛みを感じたのか飲み込もうとしていた俺の腕を吐き出すようにして離した。


そのまま


「キャウゥゥゥゥゥン!!!!!」


一目散に走っていった。


「はぁ……」


ズタボロで血塗れになった自分の腕を見てからサーシャに目をやる。


「ご、ごめんなさいです」

「なんで謝るの?何も悪くないじゃないか」

「で、でもサーシャがお守りしないといけないのです」

「気にしないでよ。体が勝手に動いただけさ」


そう言いながら突き飛ばしたせいで転がった物を拾い集めていく。

腕がズキズキ痛いが……ちぎれていないしそのうち治るだろう。


人間の体なんてそんなもんだ。


「よし、これで拾い集まったね」


そう言ってサーシャに帰ることを促す。


「ご、ごめんなさい。大旦那様になんと言えば……」

「俺が説明するよ」


そう言ってサーシャの背中を押して歩かせる。

そうしながら自分の服を破る。


「な、なにをしているのですか?服を破っては怒られてしまいますよ?」

「止血だよ」

「止血?お医者様しかできないことでは……?」


驚いているサーシャの横で俺は噛まれたところがこれ以上酷くならないように血管を縛るようにきつく布を巻き付けて止血する。


とは言え俺は前世でも一般的な人間だった。

そこまで詳しいわけではないが。血は止まっている。


とりあえずはこんなものでいいだろう。

さて、父上にする言い訳、考えないとな。

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