第23話 超大型モンスターの発見


「くっ。水に足を取られて戦いにくいですわね……」


 ファルスの町をってから少しして。

 リドたちは大型モンスターが巣食うと思われるサリアナ大瀑布を目指していた。


 奥地へと進むにつれてリドたちの足場はほとんどが水でひたされ、現在は膝上ほどの水深があるだろうか。

 まだ最奥までは距離があるものの水量は豊富であり、国内一と評される大瀑布に迫っていることを否が応でも実感させられた。


 先陣を切って戦っていたエレナは既にずぶ濡れである。


「ミリィさんは平気ですか?」

「はは……。私も服の中までビチョビチョですね。でも、ファルスの町の皆さんの安全を確保するためにも、頑張らないとですから」

「……そうですわね。華麗に大勝利を決めて気持ちの良いお風呂に入るとしましょう」


 ミリィの言葉に、エレナは望むところだと口の端を吊り上げる。


「エレナも初めて会った時に比べて凄く強くなったよね。今はレベル71なんだっけ?」

「はいですわ。師匠から授かったスキル効果のおかげで、今では片手用刺突剣レイピアで岩だって砕けるようになりましたの」

「おお、それは凄いね」


 エレナがリドから授かった【レベルアッパー】というスキルは、モンスターを倒す度にレベルという戦闘能力の水準が上昇していく効果を持っていた。

 戦闘を重ねる度に強くなるスキル効果もあり、今やエレナは熟練の冒険者をも上回る力を兼ね備えている。


 もし世間に知れ渡れば絶賛されるようなスキルであるし、このようなスキルを授与できる神官となれば万雷の喝采を浴びそうなものだ。その逸材を排斥するなどという愚行をしでかした人物は大罪に値すると言えるだろう。


 もっとも、左遷された当の本人は、自分がスキル授与を行った人が喜んでくれているのは神官冥利に尽きるな、などと呑気なことを考えていたが。


「けど、さすがにこれだけ水深があると動きにくいね。どうしようか? 《ソロモンの絨毯》に乗って戦ってみる?」

「そ、それは遠慮しますわ、師匠。ある意味水の中よりも戦いにくそうですし」

「吾輩もそれは御免だ」


 エレナとシルキーが引きつった表情を浮かべ、リドの提案を断った。

 どうやらラストア村からファルスの町へと移動した時のことがトラウマになっているらしい。


 ここに来るまで、リドたちは30体ほどのモンスターと戦闘になっていた。


 エレナは愛用の片手用刺突剣レイピアで、ミリィは湿地帯の植物を【植物王の加護】により操作し、それぞれ現れたモンスターを撃退。

 二人でさばききれないモンスターは、リドが《アロンの杖》を用いて処理するという態勢である。


 なるべくエレナとミリィの戦闘経験も増やしておいた方が今後のためになるだろうという、シルキーの提案によるものだ。


「それにしても、進むほどモンスターの数も増えてきてるね。やっぱりサリアナ大瀑布に何かがあるのは間違い無さそうだ」

「吾輩の鼻でも感じるしな。強い力を持ったモンスターの匂いだ。何がいるかまでは分からんが」


 水に浸からないようリドの頭に乗っていたシルキーも、相棒の言葉を肯定する。


「シルキーさんのお鼻って便利ですわね。下手な探知系スキルとかよりも使い勝手良さそうですわ」

「鼻が利きすぎて面倒なことも多いがな。借りた外套の袖を嗅ぐ奴みたいに、自分の好きな匂いだけ選ぶこともできんし」

「外套の袖?」

「わぁあああっ! シルちゃん、それは言わない約束っ!」


 突然慌てだしたミリィを見て、エレナとリドは怪訝な表情を浮かべた。

 幸いにもシルキーの発言の意味するところは二人に悟られなかったと分かると、ミリィはほっと胸を撫で下ろす。


 そうして緊張感の無いやり取りを交わしながらも、一行は湿地帯の奥地へと歩を進めた。


   ***


「近いな」


 結構な距離を進んだ辺りで、シルキーが鼻をひくつかせながら呟く。

 巨大な滝も目に映る位置まで一行は到達していた。


 滝の始点が見えないほど高く、その位置から降り注ぐことで生じた水沫すいまつがリドたちの髪や顔を濡らしている。

 その景観はまさに圧巻の一言だった。


「あれがサリアナ大瀑布か」

「凄い迫力ですね。水しぶきが雨みたいです」

「待ってください師匠。滝壺の辺りに何かいますわ」


 エレナが指差して、一同はその先を凝視する。

 そこには、滝の水沫に隠れるようにして巨大な黒い影が鎮座していた。


 風向きが変わり水の幕が払われると、その場にいた影の正体があらわになる。


「な、何ですか、あれ!?」


 ミリィが押し殺した叫び声を上げ、リドとエレナ、シルキーも目を見開く。


 姿を現したのは、巨大な蛙型のモンスターだった。


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