魔法が嫌いなあなたへ

@yukinosakura

魔法部はじめましょう!

第1話 高校生活の始まり (1)

 人と関わるのがめんどくさい、これまでの俺の行動指針を一言で言えばそうなるだろう。店など事務的な会話だとしても人に話しかけたりするのはやりたくないし、多くの人間が集まる学校だって本当は行きたくない。


 そうは言っても社会を生きていくためには人と話すことは必要だし、めんどくさいからという理由で学校に行かないなどすれば、将来普通に生きることさえ難しくなるだろう。だから必要最低限の関わりは持つがそれ以上のことはしなかった。


 親友なんて呼べる人間はいないし、互いにある程度の距離を持った友人はいるが、彼らと自分の時間を潰してまで遊びに行くなんてもってのほかだ。


 そんなわけで人と関わらなきゃいけない現実が嫌いで、アニメや漫画の世界に現実逃避ばっかの、他人から見たら目立たない人生を歩んできたわけだが俺にはひとつだけ周りの人間より目立つものがあった。


 それは俺が他人よりかなり多くの魔力を持っていたということだ。これがなかなか曲者で一般論で言えば魔法は強く嫌われている。小学生の頃は周りの子供から露骨に敵意を向けられたものだ。まあ周りの成長と共に露骨な敵意はなくなったものの、白い目で見てくる奴は必ずいた。


 この経験が俺が他人と関わることを嫌う理由になっているのかは考えたことはあるが、周りの人間に影響されて自分の人格が形成されたと考えるのが嫌なので関係ないと思うことにした。まあ何にせよ俺は周りの人間以上に魔法は嫌いだったし、そんな魔法のせいでこんな高校に入学させられるというのはつくづくついてないものだ。


 俺は新入生に向けて壇上で喋っている校長の言葉を聞き流しながらそんなことを考えていた。


「ーー最後にこの魔道高等学園はみなさんが今まで学んできた環境とは大きく異なると思います。中でも生徒の自治性というものに重点を置いており、生徒会が主軸となった学園となっています。その環境に慣れるのには少し時間がかかるかもしれませんが、やがて皆さんが社会で活躍できる人間になることを願っています」


 校長のそれらしいが頭に入ってこない話が終わり一同皆拍手をする。


「続いて生徒会長からの言葉」


 おそらく教員と思われる司会の男性が式を進めていく。その言葉を受けて一人の男子生徒が壇上に上がった。


「魔道科2年、生徒会長の京極です。この学園について聞いている方もいるかも知れませんが改めて私から皆さんにいくつかお話をさせていただきます。まず魔道科のみなさんへ、将来多くの方が社会で人の上に立つことになると思います。その時に魔法、頭脳どちらも優れた人間であるためこの学園で多くの事を学んでいただきたいです。また魔術科の方は自らをよく理解し、勉学に励むように。そして魔法科の皆さんへ、あなたたちは生徒会則を守ってください、魔道学園だからと言って魔法が自由に使えるなんて思わないように。以上です」


 それだけ言うと生徒会長は自分の席に戻っていった。彼の言葉から魔法科は始めから下に見られているのがよく理解できた。


「以上をもちまして魔道高等学園入学式を終了いたします」


 司会のその言葉で入学式は終了し、各クラスの担任の指導によって順次新入生は退場となった。


「じゃあE組の人は教室に移動するので私についてきてください!」


 俺はE組だったので担任は今声を上げた若い女性教員であった。彼女の指示を聞き教室に向かって周りの生徒が移動を始める。


 魔力が高いからってだけでこんな場所に連れて来られるのはたまったもんじゃない、とは言うもののここでやっていくしかないので諦めて指示に従う。


 教室に着いたら席に座るわけだが一番左列の後ろの窓側席となった、このことは暫定だが今日唯一の嬉しいと思える事だ。なぜなら後ろと左に人がいないと言うのはそれだけ人に接する機会が少なくなることを意味するからだ。そうなると問題は右に座っている人間だが見るからにおとなしそうな女なので席替えまでは気楽に過ごせそうだ。


「みなさんの担任になった千羽理恵です。これから一年よろしくね、それじゃーー」


 千羽と名乗った女教員はそう言うと、この学校についての簡単な説明を始めた、ただ言ってることは俺がネットで少し調べたことと変わらずまとめると、この魔道学園は魔法の使用が国からの許可制である日本で特別に許可されているものの、実際に常に使えるのは魔道科の生徒、その中から選ばれた生徒会、その下で活動をしている風紀委員で、魔法科は二年生から受ける魔学という授業でしか使えない。また生徒会則という校則とは別のルールが存在し魔法科はそれに抵触してはいけないらしい。


 まあ生徒会則さえ守れば大丈夫らしいのでもともと人とあまり関わらずに面倒を起こさないことを優先している俺からしたら問題ないだろう。


「じゃあ今日はこの辺で解散となります、あと立川君髪を染めるのは生徒会則に反するから黒に直しなさいね」


 帰宅となる流れの中で千羽先生は髪を金髪に染めた立川という男にそう言った。


「何でですかー?」


「生徒会則で禁止されてるからよ、これは立川くんのために言ってるのよ」


「近いうちに直しときまーす」


 立川は直す気があるのかないのかわからない態度でそう話を終わらした。目立ちたいのか知らんが髪を染めるなんて俺には理解できない、見るからに俺が苦手なタイプだ。今後俺が彼と友人になることはないだろうし喋ることもないかもしれない。


「それじゃあみんな明日からよろしくね」


 千羽先生は最後にそう締めくくり本日の行事は終了し各自帰宅を始めた、放課後となれば普通は雑談が聞こえてくるものだが魔法科の生徒は日本全国から集められているので顔見知りなんて誰もいないのだろう、皆この日は無言で教室を出ていった。

 

 まあ明日以降は緊張もほぐれ会話も聞こえてくると思うがその中に俺が加わる日は来ないかもしれない。同じ時間に解散になったであろう他のクラスの生徒も帰宅の流れに加わり、階段を降り昇降口までたどり着き靴に履き替え校舎の外に出る。

 

 俺は自宅から通っているので校門に向かって進むが生徒の中には自宅から通えず寮通いの奴らも結構いる、彼らは校門ではなく校内にある寮へと帰っていくのだった。一人暮らしというのはなかなか面倒そうなので実家が通える範囲にあって助かったといえる。


 帰宅したら自分の部屋に直行する。別に親と関係が悪いとかいうのはないがあまり子供に干渉してくる親ではないのでこの行為が咎められることはない、親であっても関わるのがめんどくさいのでそんな親にはある意味感謝している。


 部屋に着いたらベットの横になり昨日のアニメの続きを見る。結局この時間が人生で一番好きな時間であった。


 翌日になり皆決められた時間までにきっちり教室に集合する。その光景を教室の後ろから眺めた時、なんともまあ人間というのは真面目で機械的な生き物だという感想を抱いた。


「おはようございます、今日は自己紹介と係決めとあと教科書配布とかいくつかのことします、じゃあさっそく自己紹介していきましょうか、まずは私から」


 千羽先生はそう言うと新年度恒例と言える自己紹介を始めた。内容は三年前に教師になったこと、初めてクラスを持つこと、担当科目は国語であること、魔力は一般人並みしかないことなどまあ普通の自己紹介だった。

 

 優しそうという印象を受けたが裏を返せば生徒になめられそうな教師という感じだ。高校生にもなって学級崩壊させるようなやつがいるとは思いたくないが昨日の立川とか言うやつの態度を見る限り怪しいところもある。まあ例え学級崩壊になったとしても俺には関係ないしどうでもいいが。


 その後自己紹介は生徒側の番になり五十音順に発表していくが自己紹介というのは少なからずそいつの人となりがでる、だから関わってもいい人間と関わりたくない人間をここで見ることは大切だ、似たような趣味のやつがいれば暇つぶし程度に話せるしな。


 俺の番はすぐ回ってきて自己紹介に必要な最低限度の情報を入れ事前に決めていた内容を言う。


「音宮透です、部活は入る予定はありません、趣味は漫画、アニメです、一年間よろしくお願いします」


 こういう自己紹介の場所では馬鹿にされるからと漫画やアニメの趣味を隠す奴もいるが、他人の目を気にして自分に嘘はつきたくないし、そういう奴らが関わって来なくなるならかえって好都合なので俺は隠したりしなかった。


 その後も自己紹介が進んでいき、隣の席の女の番になった。


「来栖紗月です、部活はまだ決めてません」


 やはり第一印象から受けた大人しそうという印象通りの内容だ、どこか自信なさげな話し方から内気な性格なようにも思える。まあこれなら彼女と関わることもないだろう。俺の意識が彼女から離れようとした時だった。


「す、好きなことは魔法です! これからよろしくお願いします!」


 その言葉は教室の空気を一変させた。

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