9月(その2)

   

 トリミングの際シャワーを浴びせたら水が黒くなった、とトリマーさんに言われたことがある。おそらくは頻繁に庭で遊んでいたために、土のところで寝転んで体が酷く汚れたのだろう

 玄関やその近くの廊下だけならば少しくらい汚されても構わないけれど、毎日のように部屋へ入れるのであれば、話が違ってくる。だから二階へ上げるようになってからは、なるべく庭で遊ばせなくなった。

 ただし、困るのは土のところで暴れ回って汚れることだけ。散歩程度ならば大丈夫だし、玄関の内側で――ケージの周りで――遊ぶことも今まで通り続けていた。


 ケージの周りで遊ぶといっても、そろそろ犬用おもちゃにも慣れてきて、いつも少し遊んだだけで飽きてしまう。

 玄関の近くをフェンスと段ボール箱で区切っていることは最初の方で述べた通りだが、その仕切りとして使っている段ボール箱の方が、おもちゃよりも面白いらしい。最初に箱を開封した部分と、その際に少し穴が空いたところ、さらに子犬がガジガジ齧って作ったもうひとつの穴。それらを使って遊ぶのだ。

 子犬にとっては、潜って遊べる秘密基地みたいな感じだろうか。


 玄関前での遊びに関しては、いつのまにか、私の入浴直前にも行うのが恒例になっていた。

 どうせ体を洗うのだから、犬にペロペロ舐められても大丈夫。そう考えて相手をしたら、そのまま習慣化されてしまったのだ。

 うちでは父はシャワーのみなので、私が入浴の際、まず準備として毎晩浴槽を軽く洗う。するとケージの中で休んでいた子犬が、風呂場の水の音を聞きつけて、スクッと立ち上がる。他にも準備のため私が何度か廊下を往復すると、もう子犬は四本の脚でなく、後脚だけで立って「遊ぼー!」とアピールしてくるのだ。


 これを無視して私が風呂に入れば、子犬はワンワン鳴き始める。夜遅くに吠えられると近所迷惑だろうから、三十分か一時間くらい付き合うのが日課となった。

 いくつかのおもちゃをフル活用して飽きさせないよう努力しないと、子犬は段ボールを齧り始める。齧るだけならば良いのだが、紙片を口に入れて食べてしまうのが困る。あまり酷いと私が抱きかかえて、動きを制限するのだが……。

 結局は、最後に抱きかかえて撫でてやるのが一番良いようだ。


 こうして子犬が眠くなるまで付き合わないと――遊ぶ時間が足りないと――、入浴中に「ワン!」と吠えられてしまう。

 とはいえ、私が「遊ぼー!」アピールを無視して入浴した場合は何度も鳴くのに対して、遊んだけれど少し遊び足りない時は、一度か二度吠える程度。その状況でいくら鳴いても無駄なのは、子犬の方でも心得ているらしい。これも犬の学習能力の一種なのだろう。

   

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