プロローグ(その3)

   

 二人で暮らしている家で父が子犬を飼い始める以上、私も協力する必要が出てくるはず。

 まずは「犬をどこで飼うか」という問題だ。


 今の家は、私が外国で働いている間に父と母が住み始めた家だ。二階建てで、一階に父の寝室、キッチン、リビング、風呂などがあり、二階は母の寝室と仏間ともう一部屋。この「もう一部屋」は、大きな荷物などを置いて半ば物置部屋となっていたのだが、私が転がり込んだ時点でベッドとエアコンが設置され、私の寝室になっていた。

 そんな構造の家で……。

 父は「玄関に飼育ケージを置く」と言う。さらに玄関前の廊下を子犬のスペースにするという。


 本来トイプードルは室内犬として飼われる犬種のはず。例えば漫画やドラマなどでは、小型犬が飼い主の部屋で一日中ずっと過ごしたり、一緒のベッドに入って寝たりするシーンを見たことあるが……。

 父の中で元々の「犬や猫は不潔」という考えは変わっておらず、外も出歩くような犬なのだから、人間が暮らすスペースに自由に出入りさせたくはないようだった。

 まあその点は私も同感であり、自分が寝ている部屋まで犬に入られるのは遠慮したい。だから「玄関に飼育ケージを置く」のも「玄関前の廊下を子犬のスペースにする」のも賛成だった。

 しかし、その「玄関前の廊下」全てを犬用にするという方針には、強く異論を唱えた。


 問題の廊下は風呂やキッチン、リビングなどと繋がっており、それらはドアで仕切られているから良いとしても、階段とは仕切りが一切存在しない。それこそ、私が眠っている間に犬が二階まで上がってくるかもしれないではないか。

 いや、風呂だって問題だ。風呂の前の廊下を犬が走り回っていたら、風呂場へ行けないような気がする。あるいは、風呂で一日の汚れを落として出てきた直後、もしも廊下で犬にじゃれつかれたら、また体を洗いたくなるではないか。


 これらの説明は父も受け入れてくれて「玄関前の廊下全て」ではなく「玄関前の廊下の一部」ということに決まった。

 ではその「一部」をどう区切るか。私がネットで検索するとペットフェンスなるものが見つかったので、早速購入。

 犬は開閉できないが人間は出来るようなスイングドア付きで、なかなか便利そうなフェンスだ。伸ばせば全長三メートル、部分的に折り畳んでコの字型にも出来る仕様なので、玄関の周りを覆うにはピッタリだ。


 このフェンス購入が、私の「協力」の第一歩だったのだろう。

 犬が我が家に来る数日前にフェンスは届き、それを設置。この時点で既に「犬が苦手」という気持ちよりも「もしかしたら私にも懐いてくれるかも」という期待の方が大きくなり、私もワクワクしていたのだが……。

   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る