第4話 引っ越し祝い

「有坂君。何食べたい?こっちのオードブル買う?」


「なんでもいいよ。祝ってくれるだけでも嬉しいし。」


「はー。あなたってほんと欲がないわね。主役なんだから我慢しないで好きなもの買いなさい。」


「そう言われても。全部おいしそうだし選べないよ。ピザも食べたいし、お寿司やステーキもいいな。」


「じゃあ全部買ってもいいよ。ピザに、お寿司に、ステーキも。」


「美鈴はもっと遠慮しなさい。そんなに食べきれないでしょ。」


僕たちはスーパーの総菜コーナーで頭を悩ませていた。

できるだけ豪華で僕の好きなものは全部買いたい星宮さん。

栄養バランスと食べきれる量を考えて購入したい月城さん。

夢にまで見たものが目の前に並んでいるせいで決めきれない僕。

このメンバーでは決められるものも決められない。

もうかれこれ三十分ほど同じ場所にいる。


「じゃあこうしましょう。それぞれが順番に好きなものを買う。ちょうどいい量になったらそこで終わり。」


「確かにそれなら量も制限できるし、カゴに入れているものを見てから買うからバランスがよくなるかも。」


「わかった。じゃあ最初は主役の有坂君から。」


というわけで意見はまとまったので僕はとりあえず一番気になっているステーキを取った。


「ああ。それだったらお肉のほうを買いなさい。私が家で焼いてあげるから。」


「いいの?」


「ええ。そっちのほうが安上がりだし美味しいしね。」


「うぐぅ。葵ちゃんが有坂君ポイントを露骨に稼ぎに来ている。」


「なによ有坂君ポイントって。ほら次は美鈴が選んでいいから。」


月城さんに対抗心を燃やしているらしい星宮さんは僕のほうを見てポンと手を叩く。


「じゃあ私の分は有坂君選んでいいよ。」


「こら。そういうことやるとまた面倒なことになるから自分で選びなさい。」


「うん。僕も後で好きなもの買うからさ。」


「仕方ないなー。うーん。」


あ、星宮さんの手が中華料理のコーナーに。辛いの苦手なんだよな。

あれ、やめちゃった。次は和食か。お寿司がいいなー。

よし、星宮さんがお寿司を取った。


ぽん


そこで月城さんに軽く頭をチョップされる。


「有坂君見すぎ。子供じゃないんだから。」


月城さんがため息を吐いている。星宮さんもお寿司をもって優しそうに笑っている。

視線で追っているのをバレていたようだ。


「いやそういうつもりじゃなかったんだけど。」


「あれだけ美鈴の指の先見てたら誤魔化し効かないわよ。」


「いいじゃん葵ちゃん。私もお寿司食べたかったし。」


「はー。まあいいわ。次は私ね。」


月城さんは迷わずシーザーサラダを取った。

やはり栄養バランスを考えているみたいだ。


「僕はピザかな。」


「じゃあ私はー。」


その時なぜか後ろから月城さんに目隠しをされる。

僕は見ないようにしていたのに。


「今見ないようにしていたのに。って思ったでしょ。目で追ってたわよ。」


「思ってないよ。ははは。」


眼で追っていたらしい。


「もー葵ちゃんくっつきすぎ!」


「美鈴が買えばすぐに手を放すから早く買いなさい。」


「じゃあこの小さいオードブルでいいや。色々入ってるし。」


僕は月城さんの手から解放された。


「じゃあ私はこれで。よし。結構いい量になったわね。」


月城さんがカルパッチョをカゴに入れると確かに三人分として十分な量がある。


僕たちは会計を済ませてスーパーを出た。


「それにしても不思議なものね。同じ学校なだけで話したこともない男の子だったのに、こうして一緒に引っ越し祝いすることになるなんて。」


「そうだねー。有坂君が引っ越してこなかったら有坂君とは話すこともなかったかもしれないね。」


「うん。」


どうして星宮さんは自分を偽って学校で生活しているんだろう。

期待されている自分を演じているってどういうことだろうか。

幸せそうな星宮さんの笑顔を崩したくなくて彼女に聞くことはできなかった。


「それで、誰の部屋でやるの?」


「僕の部屋でいいよ。なにもないし、女の子の部屋に入るのってなんか気まずいし。


「了解。じゃあ荷物を置いてさっそく準備に取り掛かろー。」


アパートについた僕たちはそのまま僕の部屋に入ることにした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る