【完結】初彼女を寝取られた俺に校内一の銀髪碧眼美少女が派遣された話

浮葉まゆ

第1話 不幸は重なるもの

『私たちもう終わりにしましょう』


 あまりにも無機質にて無情な音声がスマホから零れてきて、俺――東雲陽しののめひかるがその言葉をすくおうとしても脳がそれを拒否した。


 高校二年生になる俺にとって生まれて初めて付合った彼女からのお別れ通告は対面ではなく電話越しだった。


 スマホのスピーカーから聞こえてきたその言葉を頭の中で三度復唱してやっと自分が振られたのだと理解した。


 ゴールデンウィークも終盤に差し掛かった土曜日の今日は彼女とデートの予定だった。


 待ち合わせ場所に時間を過ぎても現れないので心配して電話をかけたのに別れ話を切り出されるってどういうことなのだろう。ごめん、今起きたところって言われる方が何倍もましだ。


「ど、どうしたの? 急にそんなこと言われても理由わけわからないんだけど」


 振られた奴なら一度は言いそうなテンプレ返事を聞いた彼女はつまらない映画の感想でも聞かれた時のように答えた。


『やっぱり、私無理なの陽みたいにオタクで陰キャで変に理屈っぽい人』


 ついさっきまで彼女だと思っていた子から浴びせられる侮蔑の言葉。


 なんで? どうして? という思いだけが自分の中をビリヤードのブレイクショットのように駆け巡っている。


「えっ⁉ たしかに俺は陽キャじゃないけど、俺のそんなところを含めて好きになってくれたんじゃないの?」


『ううん、付合っていくうちに変わってくるかなと思っていたんだけど、やっぱり変わらなかったから。だから、もう終わりにしたいの。これで私たちの関係はお終い。一応、クラスでは最低限の会話はしてあげるけど、それ以上は話しかけてこないでね』


 彼女からの一方的な通告が終了すると同時に電話はプツリと切れて、こちらから再度かけようとしても着信拒否されているようで繋がらなかった。


「まじかよ。なんで……」


 彼女、いや、今しがた振られたので元カノとは高校に入学してから出会った。


 俺の一目惚れだったけどヘタレな俺はすぐに告白したり遊びに誘ったりすることは出来ず、勇気を振り絞りながら少しずつ少しずつ距離を詰め、年明けにやっと告白にたどり着くことだ出来た。友人からは外堀を埋めているつもりが本丸まで埋まっていると言われたほどだ。


 しかし、付合って三カ月にして一方的に終わりを迎えた。昔から三カ月目は一つの関門なんて言うがまさにその通りだった。


 自分の何がそこまで悪かったのかがわからなかった。努めて紳士に、それでいて会話も弾ませようといろいろとネタを仕込んだりしながら彼女が楽しんでくれるように頑張ったつもりだった。おしゃれだって少ない小遣いの範囲でなんとか頑張ったつもりだった。


 考えれば考えるほどどうして振られたのかがわからなくなり目の奥や背中が熱くなるのを感じた。息の吸い方がわからないような感じで、息を吸おうとしても胸が膨らまず、喉の奥に何かが詰まっているような感覚に襲われた。それでも何とか倒れたりしないで堪えることが出来たのはここがターミナル駅の駅前広場だったからだ。


 こんなところで彼女に振られたことがショックで倒れて救急搬送されでもしたら一人暮らしを許してくれた両親が心配して連れ戻されるかもしれない。


 少しばかりの羞恥心を握りしめてなんとか広場の隅に立ち、意識的に気持ちを落着かせようと呼吸をすることに集中して冷静を保った。


 広場にはさっきまでの俺と同じように待ち合わせをしているカップルの片割れと思われる人が多くいる。彼らが彼女と腕を組みながら街に繰り出していく姿を見ることはとても今の俺に耐えられるものではない。


 あー、マジで死にたい。振られたことはショックだ。でも、連休が明けたら同じクラスの元カノとは嫌でも顔を合わすことになる。どんな顔をすればいい。


 これからクラスで彼女の顔を見る度にこの傷がじんじんと痛むのだろうと考えるだけでさらに憂鬱になる。


 とにかく一刻も早くここから立ち去らねば、正常な精神を保てないと思って、若干の眩暈をもよおしながらもよたよたと歩いて、自分の住んでいる下宿へと戻った。


 もう今日は何もしたくない。好きなマンガもラノベもゲームも何も見たくない。ただただ布団の中で時間が過ぎていくのを感じるだけしかできない思っていた。


 しかし、不幸とは弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂というように重なるもののようだ。


「うそだろ……」


 俺は一人暮らしをしている下宿の前まできて呆然と立ち尽くしてしまった。だって、俺の住んでる木造二階建てのおんぼろ下宿にトラックが綺麗に突っ込んでいるのだから。


 もともと、かなり古い建物でトイレを流せば隣の部屋どころではなく、建物全体に音が轟くほど壁は薄く、アメフト選手が五人くらいでタックルすれば倒壊してしまいそうなほどボロイ。


 そんな我が下宿である大沼荘にトラックが突っ込めば今は倒壊こそしていないもののいつ倒壊するかわからない。


 大沼荘の前には住人や大家さんそれに近所の人が警察の事故処理の様子を呆然と見ている。


 俺は大家さんに声を掛け、外出していて無事だったことを伝えた。行方不明の住民が見つかったのだから安心したりほっとする様子を見せるかと思ったけど、大家さんは意外と冷静な様子でそうかいそうかいとだけ言った。


「今日から俺、ホームレスなのか」


 ほとんど無意識のうちに呟いた言葉は大家さんに聞こえていたようで、それなら心配ない。近くに別の物件があるからそっちに引越してもらっていいよとのことだ。


 どうやらホームレスは回避できそうだけど、この大家さんが所有する他の物件って大丈夫なのだろうか、大沼荘よりぼろかったらどうしよう。もしかしたら事故物件とかかもしれない。


 あと、不幸中の幸いだったのはトラックが突っ込んだ部屋が空き部屋で、けが人はいなく、俺の部屋の中の物も被害が無かったことだ。


 そして、一時間もしないうちに誰が手配したのかわからないが、引越し業者と名乗る人たちがあっという間に俺の荷物を運び出し、徒歩圏内にある新しい物件へと引っ越し作業を始めた。


 連休終盤の土曜日という引越し業者が忙しそうなときに急遽手配が可能だった業者だからだろうか聞いたこともない社名だ。リーダーのように指示を出している人は金色の短髪に耳にはピアスが三つ以上、指にはゴールドやシルバーの指輪までしている。普段は絶対にこの仕事をしている感じではない。高価な物はないが無事に引越し先まで荷物を運んでくれるか心配だ。


 俺は教えられた新しい物件の住所をスマホに入力して徒歩で新居へと向かったのだが、教えられた住所にある建物は明らかにおんぼろの大沼荘の代わりというような物件ではなかった。


 駅から徒歩五分、七階建ての鉄筋コンクリートのマンションで築三年。オートロックに宅配ボックス付き。


 大沼荘では六畳一間のような部屋だったのに四十五平米超の1LDKである。もちろん、風呂・トイレ別で日当たりも良好。さらにシューズインクローゼットに納戸付き。


 どう考えてもおかしい。同じ大家の物件とは思えない。しかも賃料は前と同じでいいと言っていたが、どう考えても相場は五倍くらい違う気がする。


 俺が呆気にとられて阿呆のような顔をしていると、あの怪しい引越し業者のリーダー格の男性がその見た目に似合わないイケボで声を掛けてきた。


「いやー、少年は住んでいる下宿があんなことになって災難だったね。でもね、人生いつまでも辛いことが続くわけじゃないからね。僕もいろいろなことがあって今はこうしているけど、いい時もあれば悪い時もある人生だものって思うよ」


 どうしてだろう。悪い時もあると言ったときにこの人が刑務所に入っている姿を想像してしまったのは。


 俺の少ない荷物の運び込みはあっという間に終わり、引越屋さんが帰った後、急に広くなった新しい我が家は落ち着かない。もともと大した荷物の量ではなかったので部屋がすかすかだ。


 彼女に振られたショックは下宿にトラックが突っ込むというあまりにショッキングな光景に幾分中和されていた。きっとアドレナリンが多く出て、振られた感傷に浸かっている場合ではなかったからだろう。


 あれだけふて寝を決め込んでいたのに少しは荷物の整理をしなくちゃという気持ちが湧いてきたその時、ピンポーンとインターホンが鳴った。


 もう新聞や宗教の勧誘が来たのだろうか。それならさっきの怪しい引越屋さんが個人情報を流したに違いない。


 来客なんてあるはずがないと無視を決め込んでいるとピンポーンと再びインターホンが鳴る。


 面倒くさいが何度も鳴らされてはこちらもイライラが募ると思って玄関を開けてしまった。


 そこにはクラスメイトの夜見美月よみみづきさんが旅行鞄とスーツケースを持って立っていた。


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 リメイク作品ですが途中からは独自ルートにしたいと思っていますので、過去に読んだことがある方もお楽しみに!

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 次回更新は12月2日午前6時の予定です。

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