Discussion・ゲイの悩み

 はぁー。

 私はすっかり毒づいていた。何でこんなことになるんだろう。世の中って残酷だ。


 あの後、超能力を一気に使いすぎたのか、呼吸困難になった私は真緒ちゃんの車で送ってもらった。

 そして、メンバー全員が私に詰め寄ってきたのはその明後日のことだった。

 なんと、あずきちゃんはメンバーの断りなしに、藍川君に告白したらしいのだ。当然、返事は「考えておく」なぜか私がインチキを言うから本当にそうなってしまったじゃないか、と責められる羽目に。


 それ以来、あの五人とは完全に縁を切られることになった。人生史上こんなことは初めてだ。

 だが、実際に答えがその通りになったという三例目が出来たおかげで、いよいよ客が多くなってきた。噂では、私はエスパー・カンナならぬ“エスパー・ミカコ”と呼ばれているらしい。

 どうすればこれに対処できるかなぁ。肩にかかる負担が重くなり、思わず吐息を漏らす。


 さて、今日の夕方は八人という大勢が相手だった。そのうち、藍川君に思いを寄せる人物が五人、龍星君が一人、クラスメイトの他の男子が一人、そして他校の子が好きな子が一人だった。

 藍川君好きと龍星君好きは、超能力を使わずに全員フラれるということにしておいた。少し酷いことをしてしまった気がするが、こうでもしないと私はダメになる。

 続いて、大野おおの君という顔と性格の良いバカ男子が好きな子。これはさすがに超能力を使わざるを得なかった。

「やったっ! ありがとう、ミカ。明日告白してくる!」

 ディスカッションを済ませた彼女はキャーキャー高い声を出しながらちるどれんを出て行った。

 最後は他校の子。他校の子は何かと厄介だ。名前とか性格、学校を色々聞かないと見えない。

 その子から話を聞いてみたが、結局見えなかったため、保留って言われてたよ、と言っておいた。


「やっと終わったかい」

「んー疲れた」

「なんか食べていき。お金貰わないから」

 菊さんはどこまでも優しかった。たくさん集まってきても、何で集まっているかは聞かない。それでも、何か分からないけど頑張りな、と言ってくれる。

 今日は小さなドーナツを食べることにした。こういう時は甘いものに限る。

「あと何人やればいいのかな……」

 思わず独り言が漏れた。と、その時だった。

 ガサガサガサと外の植え込みが大きく揺れた。


「なぁ、冨野さん!」

「えあうひょあえぇっ?」

 思わず、変な声が出てしまった。目の前には小柄なかわいい系の顔をしている男子が。

「僕、太田伸次おおたしんじって言うんだけど、ちょっとアレ、見て欲しいんだ」

 藪から棒にこんなことを言われると思わずフリーズしてしまう。でも、この男は知ってるぞ。太田君はLGBT、いわゆるゲイで、一度大野君に告って、話題になったことがあった。当然悪い方で。

「あんた、ゲイらしいけど、合ってる? 三組からどんどん噂来るけど」

「……そっか、知られてるんだ。それで僕のこと侮辱するのか。冨野さんはゲイを差別しないと思ってたのに……」

 うぐっ。そんなことを言われると私の良心が揺らぐ。

「いや、私は差別なんかするそこらの下民とは違うからさ。見てあげる」

「そう来なくちゃ。あのさ、早速だけど」

 切り替え早いな。

「僕はさ、ちょ田井たい君が好きなんだよね……」

「え? 田井君?!」

 田井颯介そうすけはタイソーと呼ばれる、大して顔がいいわけでもないバカ男子だ。

 バカがゆえに好かれるのだろうか。私は好きになれないけど……。

「お願い! ちょっと見てくれない?」

「……明日で、良い? ちょっと疲れた」

「んー、ま、いいよ。じゃ、明日よろしく! バイバイ」

 この心の痛みはまだ、彼には言えない。




 次の日、私は田井君の顔を観察して、太田君のことをどう思っているかを念のため、導き出すことにした。

「お、ミカちゃんじゃん」

 と、なんとあっちから私を見つけて声をかけてきた。

「え、田井君」

 と、私はジーっと田井君の顔を観察する。

「ねえ、太田君どう?」

「あいつか? んだな……」

 と、少し考えこんだ。心の声が少し聞こえる。

「ゲイは別にいいけど、正直あの性格好きじゃねぇな……嫌いな方、か?」

「まあ、あんま好きじゃないな」

 おじいちゃん声の後、田井君の本音が聞けた。

「あぁ、そう……」

 と、続いてまたしわがれ声が耳に届いた。

「やっぱ俺はミカちゃんの方がな」

 目の前に電撃が走ったような衝撃を受けた。

 昨日、そんなことを感じたけど、まさかホントに田井君は私のことが……? 私には、すでに俊ちゃんがいるのに。

「田井君、私はすでにいるから、ごめん」

 なにかウズウズしてた田井君を前に、思わず私は言ってしまった。

「え」

 そのまま、教室へスタスタと早歩きで戻ることにした。太田君には、悪いけど上手いこと言おう。

 あんな奴、もう顔も見たくない! 私は俊ちゃん一筋なんだから!

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