Discussion・レディぼの思い人
龍星君がどう思ってるかを教えて、って――?
目をキラキラさせながら顔を近づけてくる親友に、私はしばらく何も言えなくなる。
「いや、目の前の人の気持ちしか分からないのに……」
「あ、そうか」
やっぱり天然か。
って?
「純ちゃん、龍星君好きだったの?!」
純ちゃんが言う、
彼は、会社のことばかり考えていて、人間関係、特に恋愛に興味が無い冷徹な男として知られている。だから、あんなにイケメンなのに、友達が少ないのだ。
純ちゃんが告っても、龍星君は「フッ」と鼻で笑い、返事もせずに去って行くに決まってる。
「でもさ、やってみる価値はあるでしょ? ね」
「……」
私は返事をせずに目を閉じた。鞄の中にこっそり入れてきたカチューシャを付けて。
確かに、やってみる価値はあると思った。できる方がエスパー・カンナに近づくし。
脳裏に電撃が走るような衝撃があり、龍星君のスーツ姿が写し出される。
「及川? 知るか、んなもん。俺は色恋に興味はない」
いつものおじいちゃんの声が聞こえた。
――何だ、行けたじゃん。
私はそっと目を開けた。
「どう、だった?」
「見えたけど……ダメだった」
さっきの“お告げ”を彼女に伝えると、純ちゃんは小さな涙を流した。
「……」
「行こか」
私は慰めるつもりで、明るい声を出したが、純ちゃんは泣きながら無言で自転車を起こしただけだった。
いつも通りの授業が過ぎ、給食の時間がやってくる。
「今日の給食サイコロステーキだねぇ」
私は何気なく、前に並んでいた
「あ、そうね。アタイの今日のコンディションにピッタリだわ」
ルカちゃんはかなり気が強く、男勝りな性格で少々暴力的だ。一年のときは男子と教室で乱闘したことがあり、そのことが影響で”レディース暴走族”略して「レディぼ」と呼ばれているのだ。それでも、女子には結構優しい。私とは同じダンス部でもある。
「ところで冨野。アンタ超能力持ってるって?」
ギクッ……なんで耳元に話しかけてくる彼女はそれを知ってるの。
「二組の及川から聞いた」
純!! なんで話してんの!!
「及川に対する九条の感情を読み取ったんだろ? なあ、アタイも調べてくれねぇか? 藍川のことなんだけど……な? 冨野ならやってくれるよな?」
無理とは言わせてくれない雰囲気に、私はコクコクと頷くしかなかった。
ダンス部の居城、多目的ルーム。
私とルカちゃんは、この話のために早めにやってきた。
「でさ、早速やってくれんだよなぁ? 冨野?」
さすがはレディース暴走族。すごい圧をかけてくる。
「もちろん。ただ、正直に言うからさ、もしダメでもキレないでよ?」
「分かってるっつーの」
「で、藍川勝太君のことだよね?」
「そ」
運動も勉強も人並みにでき、顔も結構“イイ感じ”なため、かなりモテるのだ。
「その藍川君に告りたいから藍川君の思いを教えて欲しいってことね」
「そうだ。早速頼む」
「……じゃ、行きます」
長く話してると他の部員が来るため、さっとまぶたを閉じた。
深呼吸をして精神を整える。
ビッ!
と脳に衝撃が走り、申し訳なさそうな学ラン姿の藍川君が見えた。神様の声が脳内に反響する。
「宮田さん……悪いけど、俺は色んなのに告られてる。俺はみんな好きだから、誰かを選ぶなんてできないんだ。だから、これを受けられない。でもまあ、せっかくだから仲良くしようや」
あぁあ……。
私はしばらく呼吸を整えた後、目を開け、静かな多目的ルームを見回した。
「あ、いた」
ルカちゃんは部屋の端っこの方で黙々と練習していた。
「あ、できたか? 冨野」
「うん……ごめん」
私はゆっくりと藍川君、正確に言うと神様の言ったことを話した。
「……そうか。やっぱダメだったか……お前、行けるよ、恋愛相談。この能力を使ったらな」
「え? なんで?」
「アタイはそれが気になってな。お前を試してみたんだ。藍川が好きってのは嘘だ。っしゃ! 早速、このことを宣伝してやるよ。一回三百円で行けるんじゃないか?」
お金稼ぎ?! いや、ダメでしょ。
「その日の朝に払って、診断。どうだ? これは及川が考えたんだ」
あぁ、純がそそのかしたのか。ったく……でも、私の駄菓子屋で使うお金は枯渇してきている。
糸引き飴が引けなくなるのは最悪だ。まあ、悪い話じゃないだろう。
「……いいね、それ。やっちゃうよ。だから、手伝って」
「やっぱそう来たか! っしゃ! 今日は部休んで及川に会いに行くぞ!」
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