第21話 それじゃ全身鎧の不審者だ

 イクトは<グラニ>の中で敷地内の光景に圧巻していた。

「見事なまでの田園風景だな」

 軍事施設ぽい外見を裏切る中身は文字通りの農村である。

 授業の歴史アーカイブで見た平成の農村に近い。

 広い田畑に耕運機などの耕作機械が走る。

 一方で離れた位置には工業ブロックと思われる建造物もあるときた。

『スゴーいよ、ここ。軽くサーチした程度だけど、生産と消費のバランスがしっかりとれたコロニーが形成されているよ。電気や上下水道も整えられている。どうやらソーラーパネルや外にある滝から電力を生成しているみたいだね』

「坊さん一人でできることじゃないな」

『うん、間違いなくMA05<ギョクリュー>の性能あってこそのコロニーだと思う。けどコロニーを維持し続けているのはそこに住まう人たちの努力の結果だよ』

 機械が不確定要素の<思う>を出すのは如何なものかとイクトは半眼となる。

 ともあれ着目すべきはコロニーではない。

「正規ドライバーだと思うか?」

『情報不足だね。なりゆきか、誰かに託されたかはお坊さん当人から聞いたほうが早いよ』

 話しているうちにコロニーの中央部にある本殿にたどり着いた。

 コロニーが金属壁に囲まれていながら、本殿は歴史と歳月を重ねた純一〇〇%木造建築である。

「見る限り相応に歴史のある寺ときた」

 本堂前に<グラニ>を停車させたイクトは搭乗ハッチを開く。

<ラン>をハンドルの専用ポッドから外すのを忘れることなく、そのまま外へと身を乗り出していた。

「おうおう、熱い歓迎なこった」

 石畳に脚をつけた時、四方から歓迎の視線を受ける。

 この手の環境はよそ者を嫌う風潮が強い。

 誰の目も力強く語っている。

 和尚に手を出せばどうなるか、分かっているのかと、殺気すら混じっていた。

『イクト、とりあえずヘルメットだけでも外して素顔を晒したほうがいいと思うよ? それじゃ全身鎧の不審者だ』

 右手で掴んだ<ラン>からの指摘にイクトは一言多いと苦笑する。

 長い間、纏い続けたことから眼鏡は身体の一部です、との感じでヘルメットもまた一部だと感じていたからだ。

『というわけでソリッドスーツパー、痛った痛ったた!』

 不穏な電子音声を発する<ラン>をイクトは瞬時に力強く締め上げた。

 気を利かせたつもりだろうと、イクトからすれば奇をてらったほうだ。

「おっまっえっ! 今ソリッドスーツパージって言っただろう! パージってあれだろう? 分離だろう! こんな人の密集した場所でソリッドスーツのパージなんてしたらどうなると思ってんだ!」

『ババ~ンって一気に脱げるから一つ一つ脱がなくて楽じゃん! どうせさスーツ脱いでもパンツイッチョーじゃなくて味気ないジャージなんだし問題ないじゃん!』

「このバカAI! なんでもかんでも最短ルートを選びすぎなんだよ! 戦闘時と非戦闘時ぐらい切り替えて使い分けろ! 後、俺は無事でも周囲の人たちが無事じゃないっての!」

 危うくファーストコンタクトがワーストコンタクトに陥りかけた。

 一気にソリッドスーツを分離させようならば飛び散ったスーツの部位が周囲の人々に直撃する。

 スーツ内に循環するエネルギーを爆薬代わりにして弾き飛ばすため、砲弾の直撃を受けるようなものだ。

 戦闘において<ラン>は瞬時に情報を分析して最適化するのだが、非戦闘時においては必要な余分すら省く傾向があるときた。

「長いつきあいじゃないが、お前が戦闘に極振り特化したAIってのは改めてよ~く分かったよ!」

『はぁ? なに今更なこといってんの? ボクは<アマルマナス>と戦うために作られたちょ~凄い超AIだよ? バカなの? あ~キミ、やっぱりバカ、痛ったい! 痛い! 割れる! ワレチャウ~! ワレル~!』

 周囲の困惑した目などお構いなしにイクトは<ラン>の球体ボディを締め上がる。

 ギリギリミチミチと不穏な音と悲鳴が<ラン>よりする。

「人間でも学習すんだからAIも学習しろってことだ!」

『あ~分かった! 分かったから! 話が進まないからここは手打ちにしようよ! みんな見てるよ~! あ~ボク、手がないから手打ちにできないや! どうしよう!』

 喚き散らす<ラン>からの提案。

 毎度の一言の多さに、ひとまず深呼吸でイクトは自らを落ち着かせて冷静となれば、<ラン>握る力を緩めた。

「よ、よろしい、です、かな?」

 笑顔であるがホウソウはやや表情を凍てつかせている。

 周囲の人々も困惑を隠し切れていないが、イクトは下手な緊張が解けたからヨシとしてヘルメットのロックを解除すれば脱いだ。

 ヘルメット内には長期の着用に対する防臭・抗菌・温度自動調節の機能が盛り込まれている。

 もし汗をかこうとすぐさま内部素材が吸収し分解、臭いや菌を無害化。

 だから脱いだとしても流れる風がこもった熱気と汗を撫でるシーンは起こらなかった。

「カアン人、だったのか」

 誰かが驚き気味に呟いた。

 同郷同族だったからか、イクトに向ける警戒の目が緩む。

 正確には似て非なる異なる世界の人間なのだが、話がこじれるため沈黙を貫いた。

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