#24 魔王の報復

「それで・・・」


「ん?」


呪術師の娘の声に魔王が反応した。


「それで、昔あなたを殺した私を、報復しに、、、殺すために現れたという事ですか?」


精一杯強がった言葉を投げかけたが、娘の声には力強さはなく、

ようやく死ねるかもしれない、というどこか期待が込められているようにも感じた。


「いや、別に。ここに来たのはたまたまだし。」


「え?」


魔王の言葉に、娘は思わず聞き返した。


「いや、だって、俺を殺したのはお前じゃなくて魔眼の女だし、

むしろお前こそ普通の人間としては生きられなくて、色々苦労したんじゃないか?」


恐らく、村の住民たちとの間にあった事は知らないだろうから、

ただ年を取らない体になってしまった事を言っているのだろう。


どちらにしても、魔王の言葉に娘は激しく感情を揺さぶられた。

久しぶりに聞く優しい言葉に、呪術師の娘は涙が止まらなくなった。


「お前、泣きすぎだぞ。別に殺したりしないからもう泣くなよ。」


魔王はどうしたら良いのか困ってしまい、泣き止まない子供をあやしているようだった。


魔族には親、子供というものが無い。


稀に、人間だったものが死ぬ間際、誰かへの強い恨みや、

叶えられなかった事への執着から闇堕ちし、魔族になる事もあるが、

通常は、人間の負の感情が集まって、ある程度大きくなると自我を持つようになり、それが魔族となる。


だから子供をあやすなんてものを知る由がない。

恐らく人として生きた7年間の記憶の中にその光景があり、無意識にそれを真似たのだろう。


「だって、まさか魔王に、しかも自分が殺した魔王に慰められるとは思わなかったから。」


そういって魔術師の娘は、スカートについてる右のポケットからハンカチを取り出し、

泣きながら思い切りズビーーーッっと鼻をかんだ。


「それで、殺すつもりが無いのなら、

どうして皆がいなくなるのを見計らって声を掛けてきたんですか?」


「いや、転生して人間になった理由を調べるため、

あの村に行こうと思っているんだけど、お前も何か知らないかと思って。

逆に俺が教えてやれる事があれば情報交換できるだろ?」


なるほど!と呪術師の娘は魔王に言いながらふと思った。


「ん?人間に転生って?誰が???」


「いや、俺今人間の子供だから。」


「え?魔族の子供に見えますけど???

そんな魔力の塊みたいな人間、大人だっていませんよ。」


「いや、そうなんだけどな」と続けて、魔王は現在の自分の状態を説明した。


元々転生して人間になったが、さきほどの店主に殺された事で魔族の力が覚醒した事、

でも今のままでは魔族の身体にはなれない事など、呪術師の娘はキョトンとした顔で話を聞いていた。


でも確かにあの時の魔王と喋り方や雰囲気がだいぶ違うし、

今はまさしく人間の子供そのものという感じだな、とは思った。


「それに、あの村が今どうなっているのか、魔界が今どうなっているのか気になるからさ。」


そう言った魔王の言葉に娘はピクッと反応した。


「あの村は・・・あの村はもう滅んだそうです。」


「『そうです』って、お前はその時村にはいなかったのか?」


「はい、私はあの事件の後村を追い出されたんです。」


娘はそういうと、あれからこの町に辿り着くまでにあった事を話した。


涙をこらえながらうつむき加減に話す娘の頭を、

「そうか、辛かったな」と魔王はポンポンと軽く叩いた。


呪術師の娘は、また、暫く涙が止まらなくなった。

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