#22 呪術師の娘6

そして私の旅が始まった。


新しい場所に行って暫く住み、

いつまでも年を取らない事を住民に怪しまれそうになったら、また新しい場所へ行く。


そうやってこの200年、小さな町や村を転々としてきた。


旅を始めてから数年経った頃、

私が幼い頃生贄として育てられたあの村が滅んだ事を、風の噂で聞いた。


少し複雑な気持ちにはなったが、不思議と涙は出なかった。


旅していく中で、優しく接してくれた住民、親しくなった住民も居たが、

みんな私を残して死んでいった。


親しくなった人達の死を幾度となく見送り、

その度に私の胸は、取り残された寂しさに苦しくなった。


これは呪いだ。


生贄としての責務を全う出来ず、あの村を見殺しにした私への罰だ。

いつまでも変わらないこの姿は私に一生付き纏い、見る度にそれを思い出させる。


私は段々と、出来るだけ小さな町や村の、出来るだけ中心部から離れた外れで、

出来るだけ人と関わらないようにひっそり暮らすようになった。


そんな時、もう一つの事実に気が付いた。


他の人が見えない物が見えるのだ。


ぼんやりとした黒い影のような物が見える。

それは魔族が残した魔力の残骸だという事を、何故か私は知っているのだ。


魔力が認識出来るようになったからか、

ある程度のものならば、この黒い影が払えるようになった。


そして魔力が見え始めた頃、私しか聴こえない声がする事に気付いた。

時期が同じ事を考えると、魔力が見えるようになった事と何か関係があるのだろう。


ただ、この声は、時折聞こえるだけで、

こちらの問い掛けに応えてはくれない一方通行のものだ。


だから、今のところ何の役にも立ってないし、特に邪魔にもなっていない。


そして、生きる術を知らなかった私は、

魔力が見えるようになったのを良い事に、呪術師になる事を決めた。


他に特別な才能も無いし、こんな私が少しでも人の役に立てるなら、

少しはあの村の供養になるのでは無いかと考えた。


行く先々では、他の呪術師に会う事も多く、

出会った先輩たちに呪術師について色々と教えて貰った。


私が見える黒い影は、やはり魔力の残骸である事や、

その呪いの主の魔力より強い魔力があれば、呪いを払える事など、

今後呪術師として生きていく事を決めた私にとって、とてもありがたい情報ばかりだった。


しかし、私にしか聞こえない声については、知っている呪術師は誰も居なかった。


今は特段困る事は無いしおいおい何かわかれば良いかな、と思ってはいるが、

声が聞こえ始めて既に150年近く経つが、未だに声の正体はわかっていない。


最近では、魔力を得るために必要なものでこういうものだ、と言い聞かせ始めていた。

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