#16 魔族の呪い

小さな小屋から出てきたのは、成人前と思われる若い娘だった。

見た目からすると、14・5歳というところだろうか。


身なりはその辺にいる町の娘と変わらない。


「呪術師?」


いつの間にか憲兵たちは町長の周りに集まって来ており、

その中の一人が娘を指差し言った。


顔は町長を向いていたので、町長に尋ねたのだろう。


「呪術師。」


町長はニッコリ頷いた。

娘もニッコリ町長と憲兵たちを見ている。

憲兵たちは、黒いフードは?と言いたげだ。


「何か御用ですか?」


呪術師の娘は町長に用件を尋ねた。


「実は、、、」


町長は例の店主を娘の前に突き出し、

木になった店主の腕を指差しながら事の経緯を説明した。


娘は暫くじぃーーーーっと目を凝らし店主の腕を見ていたが、

急に何かに気付いて店主から飛び退いた。


「あわわわわっ。こ、これ、魔族の呪いですよ。それもとんでもなく強力な。」


魔術師の娘には、店主の両腕に残る魔王の魔力が見えたようだ。


(ほほぅ。この娘、どうやら本物のようだな。私の魔力に気付くとは中々見所がある。)


町長と憲兵たちにこっそり付いてきていた魔王は、様子を見ながら感心していた。


しかし、魔力を視認できるとは言え、その部分に相当集中しないと確認できないようで、

魔力で完全に気配を断ち、町長の背後に立っている魔王には気づかないようだった。


(それにしても、何処か見覚えがあるなぁ。。。)


本物の呪術師というのは、もれなく魔族に近しい者である。


体に魔族の血が流れている、魔族が転生して人族になった、など様々な理由が考えられるが、

長い間身近で魔力に接する事がなければ魔力が体に染みつく事は無いし、

魔力が体に合わないと長期間魔力と接しても馴染む事がないため、魔力を有する人族は稀なのだ。


普通の人族では魔力を持てない事を考えると、この娘もただの人族ではない。


「こんな呪いを解ける人なんて呪術師にはいません。

呪術師の力は魔力によるものなので、魔族の呪いに対抗できる人間なんていないんです。

それくらい、呪術師の魔力と魔族の魔力には天と地ほどの大きな隔たりがあるんです。」


つまり、店主や町民が口にしていた幼い子というのは魔族という事か。


明かされた真実に町長や憲兵たちはざわざわと騒ぎ始め、

真実を知った店主は、私は魔族に手をあげたのか。なんという事をしたのだ。。。とより一層顔を青ざめた。


結局、一兵卒に過ぎない下級の憲兵たちでは手に余るという事で、

王都帰還を禁じた上官に決断を仰ぐという事でこの場は収められた。


そして、世話になったな、と僅かばかりの硬貨を呪術師の娘に与えると、

町長と憲兵たちは町の中央部へと戻っていった。


「おい、お前」


自分の小屋に戻ろうとしていた呪術師の娘は、背後からの声に止められた。

振り向いて辺りを見回すが、誰もいない。娘はじぃーーーーっと目を凝らし始めた。


「これなら見えるか?」


そう言いながら魔王は魔力を緩め、気配を断つ能力を解いた。


すると、娘の目の前に急に強大な魔力を纏う子供が姿を現すこととなり、

呪術師の娘はあわわわわっと思わず後ずさった。


「ま、魔族の方が私に何の用でしょうか?」


その強大な魔力から、娘は目の前の小さな子供が魔族であると悟った。

実際には人族の子供に魔族の魂が入っている訳だが、娘には等しく魔族に見えるようだ。


「お前、昔魔王を殺した事があるだろう???」


小さな魔族の子供は、急にそんな問い掛けを投げて来た。


ふいに受けたその一言に、「な、な、、、」と言葉にならない声を発し、

驚きの表情を浮かべた呪術師の娘はみるみる顔を青ざめていった。

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