#11 黒い花火

町の中心部が爆音と共に黒い大きな光を放ち、まるで打ち上げ花火のようだった。


まだ夕陽の光が辺りを赤く照らしているのに、そこだけが暗く闇に覆われ、

闇色なのに眩しく感じるそれは、やはり光っているのだ。


小さな商店があったその場所は、もはや瓦礫の山と化していた。


「ふむ、生きているのか。中々強運の持ち主だな。」


瓦礫の中から這い出て来たあの店主を見て魔王は言った。


店主は、店を閉める準備をしていたところ、あの黒い光に襲われたようだ。


爆音を聞きつけ、周りには少しずつ人が集まり始めていた。


「お、お前、昼間の小僧か!生きていたのか!?」


地面に這いつくばりながら店主は言った。


額には血が流れた跡があり、ペッと吐き出した唾にも少し血が混ざり、全身もぼろぼろだった。

その後身を起こして地面に座り込んだ所を見ると、命に別状は無さそうだ。


「これは復讐ではない。制裁だ。」


「な、なんだと!何を言っている!」


「これは私怨ではなく、正義の鉄槌だと言っているのだ。」


魔王は胸の前で腕を組み、フハハハッと笑った。

まるでまいったかと言わんばかりの、正義のヒーローぶる子供のような仕草だ。


店主は理解が追いついていなかった。


何故自分の店がいきなり爆発したのか、何故この少年が生きているのか、

そして何故この少年が爆発したこの瞬間、此処に居合わせたのか。


頭に浮かぶ疑問はいつまで経っても結びついて線になる事は無く、

点のまま頭の中に散らばっていた。


「お前は日頃から弱い者に暴力を振るっているようだからな、

これ以上被害者が増えないように成敗しに来たのだ。」


魔王は組んでた腕を解き、右手で店主を指差しながら言った。

そうだそうだと周りからは賛同の声が聞こえて来た。


怪我をしているとはいえ存外平気そうな店主を見て助けようとしない所を見ると、

どうやら町の人々からも相当に嫌われているようだ。


「この爆発はお前の仕業だと言いたいのか?」


「その通りだ。私がやったのだ。」


地面に座り込んだままの店主を上から見下ろし、

魔王は再度胸の前で腕を組み、誇らしげに答え、そしてこう続けた。


「生きていたという事はそれがお前の運命なのだろう。

それなら敢えて命までは奪わない。だがこれ以上被害者が増えるのは見過ごせない。」


そう言い終わると右の手のひらを店主に向け、再び手のひらに黒い光を集め始めた。

そして黒い光がソフトボール程の大きさになったところで店主に向かって放った。


「ぐわーーーーーっ!」


店主は両腕に激痛を覚え、たまらずあげた叫び声が辺りに響いた。


座り込んだ店主の両腕はだらんとぶら下がり、

肩から下は自分の意思では動かせないようだった。


「お前は木の棒が好きなようだから、両腕を木に変えてやった。

これから死ぬまでその木になった腕を見て、自分の悪行を悔いて生きろ。」


そう言い終わると魔王の身体は闇に覆われ、そして消えた。


その場には、木になった両腕を見て泣き崩れる店主と、

目の前で起きた光景に驚く人々の混乱だけが残された。

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