エピローグ

トマト魔神の抜け殻を見ながら香峯子はため息をつく。

「これの処理をわたくしに手伝えと?」

「そーですよ。てかこんなグロテスクにしたのお嬢様じゃないですか」

「……そうですわね」

 香峯子はトマト魔神の傍らに膝をついて隣で検分している五美を見る。

 五美はトマト魔神のつぶれたトマト頭を指で拭って匂いを嗅いでいる。

「あ、これケチャップだ」

 拭ったケチャップを舐めると次は身体に巻いているガムテープを剥がしにかかる。

「ピザを食べたくなりますわね」

 香峯子もガムテープを剥がすのを手伝いながらぼやく。

 トマト魔神ハニービーに遭遇してから、辺りに漂うピザソースの香りが強くなっていたのだった。

「マルゲリータですか?」

「照り焼きチキンですわ」

「ピザソースの香りかんけーないじゃないですか」

「ピザを食べたいという発想には関係してますわよ」

「ああ、確かに」

「それにしても――かなり巻きましたわね」

「魔神が相手なので念には念を」

 やがてガムテープを剥がし終えた二人は、所々溶けたメイド服を纏うトマト魔神を観察する。

「おー、トマトの枝が絡み合って人体の形をとってたんですね」

「全身緑タイツだと思っていましたわ」

「それだとただの変態ですね」

「変態といえばあの全身タイツは何処へ……?」

 香峯子は周囲を見渡すが毛布を掛けて寝かせていた全身タイツの変態の姿はどこにもなく、綺麗に畳まれた毛布が置いてあるだけだった。

「帰ったんじゃないんですかね」

「生きているのならなんだっていいですわ」

 それっきり全身タイツの話題には触れずに検分を再開する二人、検分のほとんどは五美がしているので暇になった香峯子は気になっていたことを聞く。

「トマト魔神ハニービーのハニービー要素というのは、あの羽虫の事ですの?」

「そう考えるのが妥当だと思いますよ」

「可愛さの欠片も無かったので改名を致しましょうか」

「勝手に変えていいもんなんですかね」

「さあ?」

「さあって……あ、そうだもうそろそろ回収班が到着するらしいですよ」

「なら早急に愛斗さんのもとへ向かいましょう!」

 と、その時、地面から巨大なドリルが突き出た、その全貌は頭がドリルで身体がモグラのロボットだった。それを二人は嫌そうな顔で見つめる。

 地面から這い出てきたロボットはトマト魔神の抜け殻を手に持つと腹部に空いた格納庫へ納めると地面に潜って行った。

「ちっ、帰るのが遅かったですね」

「どうにかなりませんのあのデザイン」

 げんなりとした雰囲気を払拭するように五美は明るくふるまう。

「愛斗君たちのとこにむかいましょーか」

「早く行きますわよ!」

 一瞬で機嫌の戻った香峯子は笑みを浮かべながら五美の手を引く。

 その年相応の笑みを浮かべる姿を微笑ましく思いながら五美は香峯子の隣に立つ。

「じゃあ、競争しましょうか」

「望むところですわ」

 そして並んだ二人は同時に駆け出すのだった。

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