望杉香峯子は恋にかまけたい

坂餅

通学路に世紀末

 ある日のこと。

 望杉香峯子もちすぎかねこは自身のボディガードの望杉五美もちすぎいつみとの登校中。

「ぐっへっへっへ。やっと見つけたぜぇ」

 二人の前に、トゲトゲした服を着た、筋骨隆々のモヒカン男が立ち塞がったのだった。

「あら、今日はいかにも世紀末にいそうな方がお見えになりましたわね」

「あー、アイツはぽっぴんジャンプ山田ですよ」

 すかさず五美が香峯子に耳打ちをする。

「ぽっぴんジャンプ要素どこにありますの」

 呆れた様に息を吐く香峯子は、縦ロールにした煌めくブロンドの髪を指でクルクルとする。

 二人は顔を向け合い。

「ぶちのめします?」

 五美がけだるそうに香峯子に問いかける。

「そうですわね」

「りょーかいでーす」

 二人の意見が一致し、山田に再び目を向ける。

 手鏡を取り出してモヒカンを整えていた山田が慌てた様子で腰を落とし、ガオーポーズをとる。

「ぐっへっへっへ。お前の首を取れば出世間違いないんだよお! 基本給が上がるぜぇ」

 五美は舌をベロベロしながら器用に話す山田に冷たい視線を向ける。

「ひゃん」

 山田の首筋に冷たい視線が当たる。

 それが山田の怒りのスイッチを押したのか、山田の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。

「四月の朝はまだ寒いだろうがぁ!」

「同意いたしますわ」

「ありがとう、だからその首よこせぇぇぇぇッ」

 山田が地面を蹴り、凄まじいスピードで香峯子達に向かってくる。

 その瞬間、五美が人外の速度で山田に近づき足を払う。

 足を払われた山田はそのまま飛ぶようにして香峯子に飛んでくる――ことはなく、地面と平行になった瞬間、五美のすらりと伸びた脚がしなって見える程の速度で山田を蹴り上げたのだった。

「いきましょーか」

 まるで何事もなかったかのように軽い調子で言う五美に並んで香峯子は縦ロールを顎に当てる。

「会社員って大変ですのね」

「会社にもよるんじゃないんですかねえ」

「はあ、やっぱり愛斗さんには社会に出てほしくないですわ。ああ、早く愛斗さんに逢いたいですわ」

 香峯子は何を想像したのか、うっとりとした表情で頬を染めている。

「じゃあ早く学校に行きましょーよ」

 五美がせかすように香峯子の手を引く。

 香峯子は五美に手を引かれるままに学校へと向かったのだった。



 学校への校門をくぐると一面が真新しい芝生のグラウンドが広がっている。

 昨日、五美が着地した時、グラウンドに特大クレーターができてしまったため、グラウンドを芝生に改装したのだ。

 始業にはまだまだ早い時間のため、他の生徒の姿はほとんどない。そんな広々としたグラウンドの中を二人は並び、進んで行く。

 丁度真ん中辺りに差し掛かった時、五美の耳になにやら男の悲鳴のような声が聞こえてきた。

「あー、忘れてた」

 五美が空を見上げる。

 やがて香峯子の耳にも声が聞こえてきたのか、五美に倣い空を見上げる。

「そういえばそうでしたわね」

 その間にも声は近づいてくる。やがて先ほど打ち上げた、ぽっぴんジャンプ山田が悲鳴を上げている姿を認める。

「ここからがぽっぴんジャンプ山田の真骨頂ですよ」

「――⁉ まさか!」

 そんなやり取りをしていると山田がもうそこまで迫っていた。

「なあぁぁぁんちゃっっってえぇぇッッ」

 地面に叩きつけられる瞬間、叫んだ山田はぽっぴんジャンプで着地。ポヒュっという音を立てる。

 そのまま数回ぽっぴんすると何事もなかったように着地した。

「やっとぽっぴんジャンプ要素がでましたわね!」

「ぐっへっへっへ。これこそが、この俺、ぽっぴんジャンプ山田の真骨頂――「邪魔」

 話しの腰と山田の腰を折る勢いで、彼方まで蹴り飛ばした五美は香峯子に向き直る。

「とまあ、こんな風にぽっぴんジャンプ山田は高いところから落ちても平気なわけです」

「結構便利ですわね」

「てなわけで行きましょうか」

 再び二人は人の気配の少ない校舎へ向かうのだった。



 校舎に入った二人は教室ではなく生徒会室を目指す。

 生徒会室は校舎の四階にある。元々三階建ての校舎だったが、香峯子が生徒会長に就任したと同時に増築したのだ。

 屋上を丸々一部屋にしたため、かなりの広さをほこる。

 生徒会室に入った二人は室内のソファに向かい合って座る。

「早く来すぎてしまいましたわね」

 香峯子は深く息を吐き、ソファに沈み込む。

「……楽しみだったので」

 申し訳なさそうな表情を浮かべる五美を少し可愛いな、と思いながら香峯子は微苦笑を浮かべる。

「わたくしも早く愛斗さんに逢いたいので否定はしませんが……」

 五美はぬいぐるみの付いたキーホルダーなどが大量に取り付けているスクールバッグを漁り始める。

 程なくして大きなのっぽの古時計を取り出した五美は立ち上がり、部屋の隅へ置きに行く。

 振り子の音が室内に響く。

 黙々と書類仕事をしていた香峯子はペンを置く。

「うるさいですわね!」

 香峯子の悲痛な叫びが室内に響く。

「ですよねー」

 ポキっと振り子部分を折った五美は振り子をバッグにしまいながら時刻を確認する。

「まだ時間ありますねー。お嬢様、遊びません?」

「なにをして遊びますの?」

「それを今から考えましょう!」

「はあ、そういう遊びですのね。わかりましたわ」

 こうして二人は始業時間まで時間を潰すことにしたのだった。

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