剣術大会と山での暮らし。~俺、器用貧乏なんですよ。外伝~

さんまぐ

剣術大会。

長年の謎。

第1話 ガットゥーの地に着く器用貧乏。

ガットゥーの地に剣術大会用のコロシアムと豪華な宿屋、そして工房と病院が出来た。

あまりの急ピッチで各地の貴族からは手抜き工事を疑われたが闘神の部下達とミチトが力を貸していた事が判明すると納得の早さだとなった。


こうして出来上がった剣術大会専用の街にミチト一家、シヤ一家、イイヒートとアメジスト、カラーガ一家、サルバン家、フラとライ、サンフラワー、ナハトとナノカ、ナハトが来るのでミトレとエスカ、そしてアプラクサス達が前乗りをする。



「ようこそおいでくださいました」と言って恭しく出迎えるロリー・ガットゥーとイイーンダ・ガットゥー。

そして息子のイイテーロ・ガットゥーとロワ・ガットゥーが横に立っていてキチンと挨拶をする。


好々爺の顔で「よくあの短期間でここまでやり遂げました。見事です」と褒めるアプラクサスに「ありがとうございますアプラクサス様。全ては闘神様と部下の皆様のお力添えのお陰です」と返すロリー。


その横ではシック・リミールが「いやはや、ミチト君やウシローノ君達の力添えがあったとは言え、ここまでの結果は君の有能さの賜物だよロリー・ガットゥー。是非とも今度はリミール派の集まりにも来てくれたまえ」と声をかける。

これは正直ありがたいのでロリーも熱が入り「ありがとうございます!」と言ってしまう。



そんな会話中にイイテーロとロワがミチトの前にきて「ミチトおじさん」「抱っこして」と甘えてくるとミチトもそれを喜んで「ああ、また大きくなったね」と言って2人を同時に抱きかかえる。


その姿を見ていたエスカは「ミチトの子供好きは昔から変わらない…。でもあれは本心だったのかしら…。強制されたのが今も残っていて」とかつてのスティエット村での出来事を思い出して陰鬱としてしまうとアクィが「平気です。ミチトの子供好きは本当ですよ」と貴い者の顔で話しかける。


話しながらミトレはイイテーロとロワを見て「やはり貴族のお子さんというのは身のこなしが違うね」と言い、横のラミィを見て「ラミィちゃんはキチンとしていて偉いね」と言葉を送る。


「お任せくださいお爺様。あの2人はラミィより少し早く生まれましたが同い年。ラミィはキチンとやり遂げてスティエット家として恥をかかせません」


皆が雑談をしながらコロシアムを一度見てから宿屋を目指す。

そんな中、ロリーがイイテーロ達に熱い眼差しを向けるとイイテーロが「ミチトおじさん。お願いがあるの」と言いロワが「ご相談したいんです」と話しかけた。

子供からのお願いと相談とあって「ん?どうしたの?」とミチトが聞き返すと「お願いしてはダメですか?」とロワも聞く。


「んー…、俺ってお金ないからお金のことならアプラクサスさん達に言ってね」


これは冗談ではない話で個人での保有財産であれば国庫に匹敵する大金持ちのミチトだが本人は金銭に無頓着でよくわかっていない為に「金がない」と言っていて、聞いているアプラクサス達は「金額によってはディヴァント家に催促しよう」と思っている。


「お母様がため息をついているんです」

「悩みがあるみたいなんです。聞いてあげてください」


「えぇ!?俺?俺でなんとかできるかなぁ?」

ロリーの悩みを聞くと言う事態にミチトは渋い表情になるがここでイイテーロ達は攻勢に出る。


「後、僕たちのお願いは天空島からまた落ちたいです」

「ダメですか?」


「天空島から落ちたいの!?いいよ!今すぐやろう!」


ミチトはちょろい。

メロとタシアを筆頭に子供達の名前を出されれば大体のハードルは無くなる。

それには敵わないが天空島からの落下訓練も十分にハードルが下がる。


ニコニコ顔のミチトに対してイイテーロとロワが「でも…、早くお母様の悩みも無くなって欲しいんです」「お母様が辛いと天空島からの訓練が楽しめません」と言えばミチトは「それは大変だね。大丈夫だよ。俺は器用貧乏だからね。お金の事はアプラクサスさん達、女性でないとわからないことも俺には4人の奥さんも居るしメロも居るからね」と力強く言う。


その言葉にリナは「ライブ、この先もこれを使われるとアレだね」と言い「うん。ミチトにお願いが殺到するから注意させよう」とライブが言う。


ロリーは「子供達に心配をかけていたなんて」とわざとらしい事を言いながらミチトに頼んだのは、ひとつ目はガットゥーで王都の剣術大会と同じ賞品だとしょぼいのでなんとかならないかというものだった。


「んー…、何か希望ってあります?」

「希望…ですか?」


「はい。元々って何を与えるつもりだったんですか?」

「麦とお金と剣です。それをランクを変えて3位まで用意しました」


相場が分からないミチトは「アプラクサスさん?」と確認を取るとアプラクサスが「王都ではお金と剣です。剣士でなくとも剣を売るか家で勲章のように飾る物も居ます」と説明をしてくれる。


「成る程」と言ったミチトは「でも俺が手出しして次回に手を出さないと揉めません?」と気にするがロリーは気にすることなく「それは闘神の気まぐれで処理しますし、それに今回は…」と言ってナハトを見ると「弟さんも出場してくださるそうですし、あのイイテーロの背丈くらいある剣は闘神様のお造りになられたものと聞きますし…。やはり出場者達も欲すると思うんです」と言う。


ミチトと言えば「えぇ?俺の剣って別にそんな価値無いですよ?だったら四つ腕魔神の剣とかどうですか?今なら在庫が50振りはあったはずですよ?」と言いながら出してみせる。


あまりの光景に皆がドン引きする中、シックが「ミチト君、その剣一振りでここに居る全員が1週間はここで最上級のもてなしをうけられるからね?」と説明をしたのだが、ミチトは「え?そんなにするんですかこれ?」と言って最後に取り出した剣を見せていた。



結局ミチトの落とし所として優勝者はミチトに白明石で剣を作ってもらえる権利、準優勝で四つ腕魔神の剣。そして本来の優勝者用の剣は3位以下の商品になった。


「イイーンダさんは四つ腕魔神の剣は欲しいですか?」

世間話のように聞くミチトに「あはは、ありがとうございます。でも本来は剣技も習いましたし、この子達が生まれた時に剣も鍛えましたが才能がないみたいで、今なんて魔物の討伐も農工具のフォークの方が得意なんですよ」と少し恥ずかしそうにこたえるイイーンダ。



「あ、じゃあ作りますよ」

ミチトはサクッと黒明石でフォークを作ると「四つ腕魔神の剣と同じ能力なんで魔術師とも戦えますからね」と言って渡す。

これはガットゥーの家宝になってしまう程でイイーンダは「ありがとうございます!ロリー!行ってくるよ!」と走り出そうとする。すると「ダメよ」と言って襟を掴むロリー。


この流れが理解できないアプラクサスが「ロリー・ガットゥー?」と聞くとロリーは申し訳無さそうに「すみません。主人はスティエットさんに貰ったフォークを使いたくて麦の所に行きたいんです」と説明をした。


重鎮達がきていてもこのマイペースさには呆れてしまうがマイペースで言えばミチト達も変わらない。



アプラクサスが呆れているとシヤが前に出てきて「ロリーさん、麦の仕事を少しでいいからシーナとヨンゴにもやらせてください」と頼む。


「は?トウテ君?」

「王都には麦の仕事がない。トウテは漁業とか山の獣を狩ったりするからシーナとヨンゴに経験させたいんです」


シヤは目配せするとシーナとヨンゴは「シーナも麦のお仕事してみたい!」「俺の麦はパンにして食べたい!」と言う。シーシーはその後ろで生まれたばかりのヨンシーとシローを抱きながらロリーに頭を下げている。

そしてミチトも「ああ、確かに。麦の仕事って珍しいからやりたいよね。アルマとマアルはやる?ロゼは?コード達もお願いしようか?」と言っている。


ここでロリーはひとつ失念していた。


ガットゥー領では当たり前すぎる麦だったが王都やトウテのように麦を産業にしていない土地からすれば麦ふみも収穫も珍しい。


「…スティエットさん?」

「はい?」


「おひとつ伺いますが、もしこれが麦体験とかの企画で、収穫後であれば麦わら帽子の製作体験や、トウテ君の言った麦ふみなんかが体験できたらガットゥーまで着たくなりますか?」

「ええ、出来たらヨンゴの言ったパン作りや出来たらパンケーキ作りもやれたら嬉しいですね」



ロリーは一瞬で目の色を変えると「アプラクサス様!」と言う。

何を言いたいか察したアプラクサスは「好きにしなさい。ガットゥー領の税率は変えません」と呆れ顔で返すとロリーは「わかりました!それでは皆様は一度宿屋に行かれましたら麦体験をされる方は農場までご案内します!」と燃え上がった。


ミチトもさっさと天空島から落としたいので「あ、じゃあイイテーロ達を天空島から落としますから麦畑の位置だけ教えてください」と言ってメンバーの選出を始める。


「アルマとマアルとイイテーロとロワと…うちの子達は決定だし、シヤは?」

シヤは頷きながら「落ちる」と言うと「シーナ!ヨンゴ!行くぞ!」と言った後で、シーシーを見て「…シーシー、ヨンシーとシローはどうする?」と聞く。シーシーからすればどうして生後間もない子供を超上空から突き落とそうという気になるのか理解できないので「まだ早いよ!」と返すと子供達を守るように抱きしめた。



微笑ましく見ていたリナが「じゃあシーシー、ヨンシーとシローは私達も見るからのんびりしなさい」と声をかける。


「リナさん?悪くない?」

「悪くないわよ。シーシーは散々トウテに帰ってくるとうちの子達と遊んでくれたじゃない」

それでも申し訳無さそうにするシーシーにライブが「シヤがシーナとヨンゴにかかりきりだから疲れちゃうよね」と言って無理にでも休ませようとした。



ミチトは天空島から突き落とすメンバーが決まるといそいそと転移をしようとするがロリーが「まだお願いがあるんです!」と言ってミチトを止める。


そのお願いはミチトを辟易とさせて、代わりにアクィとライブが「私がやるわ」と言うものだった。

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