12月13日【大活躍】
大きなリュックサックを背負ったなっちゃんが、再び配送センターに姿を現したときの、配送員たちの喜びようといったら、それはもうたいへんなものでした。まるでこの場所にだけひと足早く、クリスマスがやってきたかのようです。
配送員たちは、たくさんの奇妙な生きものたちが、目をきらきら輝かせて、なっちゃんの後ろで出番を待っているのを見ました。そしてそれらがみな、配送センターのお仕事を手伝ってくれるのだと知って、それはもう、涙を流さんばかりに大喜びしました。
実はここに辿り着くまで、ミトラたちはあらゆるものに興味を惹かれ、あっちへ寄り道こっちへ寄り道、たいへんな回り道をしたのです。
ですからなっちゃんは、まだ午前の早いうちだというのに、もうへとへとになっていたのですが、配送員たちの喜ぶ姿を見ますと、そんな疲れはどこかへ吹き飛んでしまいました。
さて、いったいどんな素敵なお仕事が待っているのかと、うきうきそわそわ、体を揺らしているミトラたちに、配送員のひとりが呼びかけます。
「それでは早速、お仕事を割り振りますので、みなさんそれぞれ、得意なことを教えてください」
ミトラたちは、配送員の前に一列に並んで、得意なことを自己申告します。それを聞いて配送員は、手に持った書類の束をぱらぱらめくって、どこのお仕事を任せるか、考えます。
「ふむ、あなたは手先が器用なんですね。でしたら、プレゼントの包みにリボンを結ぶお仕事を、お願いします」
「ふむ、あなたは鼻がきくのですね。でしたら、迷子のプレゼントを探してもらいましょう。これだけプレゼントが集まれば、配送センターの中で、どこにいったか分からなくなるものもあるのです」
「ふむ、あなたは声が大きいのですね。でしたら、皆さんへのお知らせを伝える役をやってもらいましょう。大きな声で、大切な連絡事項を、みんなに伝えるんですよ」
そんな中で、なんの得意なこともない、と言ってきたミトラもいました。毛玉のようなミトラと、大きな石壁のようなミトラと、芋虫のようなミトラです。
『ふわふわなことが、とりえです』『じっと動かないことは、とくいです』『ぼく、葉っぱをたべるのは、じょうずだよ。でも、それいがいは、ぜんぶにがて。ぼくたち、帰ったほうがいいかしら』
「いいえ、いいえ。ぜひここで、役に立ってください」
配送員は、そう言って、なんの得意なことのないミトラたちにも、お仕事を与えました。
「ふわふわなことがとりえなら、寒そうにしている人のところへ行って、温めてやってください。体が冷えると、手先が鈍くなって、お仕事が進まなくなります」
「じっと動かないことが得意なら、お部屋の真ん中で旗を持ってじっとして、目印になってください。あっちこっち忙しく走り回っていたら、お部屋の中でも、方向を見失いがちです」
「それから、申し訳ありませんが、葉っぱを食べるお仕事はありません。葉っぱを食べること以外、全部苦手なのでしたら、ときどき誰かの肩に乗って、応援してあげてください。応援されると、やる気が出ます」
そうしてミトラたちは、みんな、お仕事を手に入れたのです。
「さあみなさん、クリスマスまで、あともう二週間もありません。しっかり、てきぱき、働きましょう!」
配送員長の号令と共に、配送員たちや、なっちゃんや、ミトラたちは、意気揚々と自分たちのお仕事に取り掛かりました。
ミトラたちは大丈夫かな。なっちゃんはしばらく心配していましたが、しかしすぐに、ミトラたちの心配をしているどころではなくなりました。
昨日よりもたくさんのプレゼントが、配送センターに届いています。その宛先を読んで、正確に仕分けをしなければなりません。
氷砂糖ヶ原は冬の国。ドングリ樹海は秋の国。イチョウ谷も秋の国。イチジク町は……どこでしょう? なっちゃんは、辞書よりも分厚い住所録をめくって、イチジク町を探します。
「イチジク町、イチジク町……あった、夏の国。あれ? でも、イチジク町って、秋の国にも同じ名前の町があるなあ」
なっちゃんが悩んでいますと、文字勉強中の配送員が「住所のそばに、しずくの形をしたシールが貼ってあるでしょう。それは梅雨地区をあらわすシールです。ですから、夏の国にあるイチジク町に送る荷物です」と、教えてくれました。
「同じ名前の地名がいくつかありますから、そういうところに送るときは、送り主がシールを貼ることになっているんです。ときどき貼り忘れがあって、迷子になっちゃう荷物もあるけれど」
「ありがとう。よく知っているんですね」
「ぼく、ここでの仕事は長いですから。ほかにも、分からないことがあったら、訊いてください」
配送員は、白い頬を少し赤らめて、言いました。自分が誰かに何かを教えるなんてと、恐縮しているような、それでいて誇らしくもあるような、そういう様子でした。
「覚えることがたくさんあって、楽しいです」
なっちゃんが言いますと、配送員は「ぼくもです」と答えました。
「フキコさんがいたときは、魔法でなんでもやってくれていましたけれど、あんまりあっという間にお仕事が片付きますので、ぼく、文字を覚える暇もなかったんです。魔法に頼らずにお仕事をするのは、忙しくって大変ですけれど、ぼく、今年はこれまでで一番たくさん、文字を覚えられる気がします」
それを聞いて、なっちゃんは、ああそうか。と思いました。
なにが「ああそうか」なのかは、なっちゃんにもよく分かりませんでした。けれど、とにかく、なっちゃんは納得したのです。そういうものなんだな、と思ったのでした。
それからは、なっちゃんと配送員は、互いに教えたり教えられたりしながら、仕分けの作業を進めていきました。
ミトラたちは、なっちゃんが心配していたよりずっと、しっかりとお仕事をこなしました。プレゼントの山が崩れないように支えたり、崩れてしまった山を元に戻したり。疲れてしまった人にお茶を届けたり、クリスマスキャロルを歌って場をなごませたり。
割り振られたお仕事をこなして、それからついでに、割り振られはしなかったけれど、やれば出来そうなお仕事を、ちょっとやってみたりしていました。
夕方になって、配送員長の「今日はもう、あんまり働きすぎなので、おしまい!」の号令がかかったころには、みんなくたくたに疲れていました。けれどそれは、もう一歩も動けない、といった重たい疲れではなくて、さあ明日もやるぞと思うような、軽やかな疲れなのです。
『ねえねえなっちゃん。ぼくたち、だいかつやくだったよねえ』
配送員長からひとり一杯配られた、甘いホットチョコレートを飲みながら、イヌのミトラが言いました。
イヌやネコが、ホットチョコレートを飲んではいけないのでは。と、なっちゃんは心配したのですが、『ぼくたち、イヌやネコじゃないよ。ミトラだもん』と、彼らは主張したのでした。
たしかに、ホットチョコレートをぐびぐびと飲み干せる芋虫なんて、見たことも聞いたこともありませんから、彼らはやっぱり、イヌやネコや芋虫に似ているだけで、ミトラというまったく別の生きものなのでしょう。ですから、ホットチョコレートも美味しく飲めるのです。
それはともかく、ホットチョコレートはたっぷり甘くて、芯から体を温めてくれました。そしてイヌのミトラの言う通り、ミトラたちは、大活躍なのでした。
「みんな、おつかれさま」
なっちゃんが言いますと、『なっちゃんもね』と、ミトラたちが言いました。
明日もきっと、素晴らしく、大活躍するでしょう。
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