第七話 地球人集落シウテクトリ

 化け物による被害は色々あった。


 化け物の数は十数匹で、怪我人はルーヴェンハイト人ばかりだったのが不幸中の幸いだったといえるだろう。

 ルーヴェンハイト人が逃げ遅れた理由は避難という概念の無さだった。

 地球では避難訓練や災害時の対応がある程度知識がある。けれどルーヴェンハイト人はそういった訓練や教訓が無いらしく、逃げるというのがどういう行動をすべきかが分からないのだ。

 城を中心に避難場所を設けて避難訓練をしようとなり、元サラリーマンが中心に自警団を設立した。


 それ以上に驚いたのは、魔力を摂取することが治療になるという認識が無かったことだった。

 葛西が言うには、日常的の些細な怪我は呼吸で取り込む魔力で回復がされるらしく、そもそも怪我が命に関わるという認識すらないのだ。

 危機感も探求心も無いルーヴェンハイト人に勤勉な日本人は呆れ果て、葛西を中心に医療団が作ることになったようだ。


 そしてもう一つの問題は――


「わああ! やだー!」

「分かった分かった。ごみ袋だけ広げててくれ」

「うええええ」


 なつのと篠宮がやっているのは化け物の死骸処理だ。

 飲食店で働き調理ができる朝倉は、薬剤師のようなポジションで医療団に加わり活躍している。

 一方、仕事に追われ食事はコンビニとインスタントで生きてきたなつのと篠宮は全くの役立たずだった。

 できることは清掃くらいしかなかったため、こうして死骸収集をしている。

 けれど肉片は飛び散り血の海が広がり、そこにぶよぶよと浮かぶ魔力珠は気持ち悪さを倍増させた。

 とてもそれを拾うことなどできず涙目になっていたが、その時死骸からしゅうう、という音がし始めた。


「あれ?」

「どうした?」

「なんか音がしてて……あれ?」


 少しずつだが、化け物の肉体は収縮していった。

 どんどん小さくなり、収縮が止まった時なつのは目を見張った。


「鰐? 鰐ですよねこれ」

「だな……」

「地球から来るのって人だけじゃないんですね」

「だとしても何で化け物になるんだ」

「分かんないですけど、でもこれ鰐ですよ」


 なつのは何気なく死骸を覗き込んだ。

 その時だった。死骸が破裂し飛び散ったのだ。


「きゃあああああ!」

「向坂!」


 咄嗟に後ずさると篠宮が抱えてくれたが、服は血が沁み込み魔力珠がへばりついている。

 それはまるで地球で破裂した男と同じ様だった。


「なん、だ……?」

「……あ、タイムラグ?」

「じゃあこいつは地球から来たのか? けど一方的に来るだけならタイムラグはないはずだ」

「もしかしてこっち来ただけで死ぬ場合があるんじゃ……」

「かもな。死んでたら出会わないから誰も知らない」

「こ、怖いこと言わないで下さ――あれ?」

「ん?」

「あそこ。転がってるの人じゃないです?」

「本当だ。怪我人か?」


 死骸にまぎれるように一人の男が転がっていた。

 駆け寄ると、怪我はないようだが妙な服装をしていた。


「これ日本のスーツじゃないです?」

「ああ。そんな汚れてないし、来たばっかりかもな。おい」

「う……」

「よく無事だったな」

「そうですね。あんな化け物でくわしたら即死ですもん」

「……あいつらが襲うのはこっちの人間だけだ。地球人は襲われない」

「へ?」

「どういう意味だ。あんたどこから来たんだ。ヴァーレンハイトか?」

「違う……地球人集落シウテクトリだ……」

「地球人集落?」


 絞り出すようにそれだけ言うと、男は意識を失ってしまった。


「ちょちょ、死、死ん」

「生きてる。気絶しただけだ。医療団に運ぶぞ」

「はい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る