第六話 異世界の医療【前編】

 朝倉は大慌てで駆け出し、すぐに人を連れて戻って来た。

 連れてきたのは女性だった。それも、なつのが墓場で遭遇した女性だ。


「あなたは」

「葛西由紀さん。地球では医者だったんだ」

「違うわ。医大に通ってただけで医師免許は持ってない」

「この世界じゃ免許なんて関係無いだろ。それより彼女を診」

「無責任なこと言わないで!!」


 葛西は突如大声を上げた。

 悔しそうに唇を噛み、ぶるぶると全身を震えさせている。


「免許は医療を施すに足る知識と技術を持ってる証なの! 試験合格しておめでとうってものじゃないの!」

「けど手当しないと」

「馬鹿言わないで! 素人が中途半端な治療をすれば死ぬことだってある! だから免許が必要なのよ! 私は免許がないの!」


 その時、なつのは彼女の言葉を思い出した。


『ここに埋葬されてるのは私に殺された地球人。名前も知らない人ばかりよ』


 無免許で医療を施せば、死に至ることもあるだろう。


「免許がないうちは二度と治療はしないって決めたの。もうたくさんよ!」

「あの、でもちょっと手当するくらいなら」

「そうね。あの時もそうだった。ちょっと手当するだけって。でも……それで……」


 震えるその姿からは嫌がらせで拒否しているのでも、見殺しにしたいわけでもないことは痛いほど伝わってきた。

 とても無理強いをできる雰囲気ではなかった。

 けれどこうしている間にも月城の脚からは血が流れ出て、痛みに顔を歪ませている。


「っ……!」

「あ、と、とりあえず痛み止め飲む? 薬持ってるよ」

「あ、ありがと……」

「駄目よ!!」


 わずかだが、地球で着ていた服のポケットに薬が入っていた。

 それを取り出し飲ませようとしたが、葛西はなつのの手を叩いて薬を弾き飛ばした。


「何するのよ!」

「地球とこっちは身体の造りが違うの! 地球の薬はありえない遺物。身体が拒否反応を起こすのよ!」

「諒さんは地球人ですよ!」

「同じよ! 自然から発生する魔力は呼吸で体内に取り込まれる。五年もすれば肉体はこっちの人間と同じになる」

「えっ」

「見なさい」


 葛西の見ている先は月城の脚だ。

 流れてる血に目をやると、よく見ればそこには魔力珠が浮かんでいる。

 それはこの世界でしか採取できない物だ。


「あなたはもうこっちの世界の人間よ。薬を飲めば死ぬわ」

「え」


 何故そんなことを知っているのだろうか。

 そんなことはやってみなければ分からないことだ。

 やってみなければ。


「なるほど。あんたの処方で誰か死んだのか」

「し、篠宮さん!」

「そうよ! 私が殺した! 私が殺したの!」

「殺す方法が分かってるなら上等だ。その逆をすれば生きる」

「……は?」


 篠宮は二ッと笑って葛西の肩をぽんっと叩いた。

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