エピローグ
「おっ、大きいですぅ。怖いですよぉ倒れてきますよぉ」
帝都ディアマンティナ。その歩道を歩きながらジャムはため息をついた。
右肩がやけに重いのは
ジャムは他人を救うための力で、賢者の石に水の夢を入れた。寄生主のいなくなった生命の水の失敗作が新たな寄生主を探さないようにしたいと願ったことで叶えられたのだ。
無事、賢者の石に寄生させディアマンティナに戻って来たのだが——遠目から城塞が見えた辺りから胡蝶は騒ぎっぱなしだ。ディアマンティナに入ってからは特に。
「いや、倒れてこないからさ」
「倒れるですっ」
「大丈夫だってば。五百年経ってるんだよ?」
「知らないですよ、そんなこと〜」
ジャムの肩にしがみついてくる胡蝶の方は必死である。
身寄りもなく、カルチャーショックの激しい胡蝶からはしばらく目が離せないだろう。
「ジャムさん! あ、あの空を飛んでるあの魔獣はなんですかッ襲って来るですかわたし戦えるです‼︎」
「わー違う違うあれは飛行船‼︎」
「ヒコウセンっていう魔獣なんですね⁉︎」
「だから違うってば襲ってこないし安全だから‼︎ ていうか魔獣ってナニ⁉︎」
胡蝶との常識の差がありすぎてこちらまで混乱してくる。
飛行船を魔獣と勘違いして攻撃しようなどとんでもない。けれど、その気持ちもわからなくもない。突然大きな物体が空を飛んでいたら敵だと思うのだろう。五百年前にはそういう空を飛ぶ魔獣というやつと戦っていたのかもしれない。
「ね、ねえ胡蝶。ところでさ、胡蝶って幾つ?」
とりあえず今は胡蝶の気をそらすことにする。
「ふえぇ? 年齢ですかぁ?」
「そうそう。一応ここに住むには申請がいるからさ」
「わたしは二十歳ですぅ〜」
「……え?」
震える声で告げられた内容に固まる。ハタチ?
「って俺より年上? うそだろ……」
小柄で愛嬌のある幼い顔立ちの、この胡蝶が? ジャムよりも年上?
「やーねジャムったら。女の子見る目ないわねぇー」
そう言ってパフィーラはクスクス笑っている。
(俺、こっちのほうがショックかも……)
絶対に胡蝶はジャムより年下だと思っていたのに。
ということは、まさかパフィーラも……。
(はは、まさか……ね)
たらり。冷や汗を流し、ジャムはその考えをふり払う。
怖い怖い、それは本当に怖い。
「ええええ〜ん。目が回りそうです〜」
目が回りそうなのはジャムの方だった。これからしばらくは、頭を悩ます日々が続きそうである……。
【第二話 水の中の都 完】
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