第7話 とある王女の告白
わたくしには、最愛の人がいます。
シュウ・ハルミントン。
黒い髪、黒い瞳の辺境伯の息子です。
めんどくさそうな表情。少し猫背気味なお姿やあまり背が高いわけでもないのに、なぜか魔術の才能だけはピカイチで、学院始まって以来の天才だなんて言われています。
ただあまりシュウ様の実家……ハルミントンの領地運営はうまく行っていないみたいです。
そのためシュウ様は特待生として学院に通っています。
学院に通う者の9割が貴族なこともあり、その中でもあまり貴族としての立場が強くないシュウ様はそれなりに学院生活でご苦労をなさっているようでした。
少し困った表情でクラスメイトからの嫉妬に対処していることもありました。
初めは王族であるわたくしはそれくらいしか知りませんでした。
そんなシュウ様だからこそ……こんなにもわたくしの心をかき乱すのかもしれません。
そのことに気がついたのは、いつだったか。
いえ、そのことを自覚したのはいつだったのかと表現するのが正しいのかもしれません。
あれは確か……。
そうです。
錬金術の講義のことでした。
手が滑って調合の配分を多く劇薬に投入してしまいました。
きっと寝不足で夜通し巷で流行っているラブロマンス小説を読んでしまったのが原因でしょう。
眠たい眼を擦ってなんとか退屈な錬金術の調合をしていたのがいけなったのだと思います。
そのことに気がついたときには遅かったのです。
ぐつぐつと煮えた鍋から青白い煙が立ち登ってしまいました。
「あっ」
青白い光が一瞬にして、視界を覆いました。
『キー』と金切声のような甲高い音が耳に入ってくると同時に突風がわたくしの身体を包んで――ああ死ぬのだと思いました。
でも良かったです。
あの当時、王女のわたくしは腫れ物を扱うかのように周りから浮いていました。
だから幸いなことに錬金術の講義では近くに誰もいませんでした。
さすがに王女である私のドジで民を死なせてしまうわけにはいきませんからね。
それなのに……いつまで経っても爆発がわたくしを襲うことはありませんでした。
「……?」
瞳を開けると、周囲の時が止まっているではありませんか。
正面を見ると鍋から爆発がちょうど引き起こされています。
しかし周囲に光を散逸している場面が、まるで切り取られているかのように止まっていました。
右を向くと遠くの方で教師が驚きで両目を見開いて、手を伸ばしています。
おそらく、爆発音に反応して何かしらの魔術を行使しようとしているのでしょう。
そして左を向くと——彼がいました。
ガシガシと黒い髪をかいてから、少しぶっきらぼうな声で言いました。
「オフィリア王女、怪我はないよな?」
「ええ」
「それは重畳だ」
「その……ありがとうございます」
「いや、巻き添えを喰らって死にたくないだけだから勘違いしないでくれ」
「そうですか……それでも、ありがとうございます」
王女のわたくしにこんなにも興味なさせげに返事されるとは思ってもいませんでした。
てっきり『助けてやったのだから褒美をくれ』などと要求されるのかと思いました。
でもシュウ様は何も要求することなんてせずに粛々と爆発の元凶を対処し始めました。
なぜでしょうか。
意味がわかりませんでした。
時を止めることができる貴重な魔術の使い手であることを王族であるわたくしに隠さずに使用してくれました。
それだけではありません。
口止めもすることなくただ普通の女の子としてわたくしに接してくれたように思えてしまいました。
だからこの時……わたくしはシュウ様のことをもっと知りたいと思ってしまいました。
後日、シュウ様に婚約者がいることを知っていたはずなのに――
それでもわたくしはきっとシュウ様と結ばれるのだと、なぜだかそう確信していました。
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