12月24日 祝祭の星飾り

 今日のヴェルトルートは新月。冬の神であり夜の神であるエルフト神を讃える祝祭ですから、お祭りも月のない真っ暗な夜に始まります。なので毎年日付が違うんですよ。


 会場に明かりはありません。儀式の進行を担う灰色の衣の神官達だけが、最低限の弱い光を放つ魔石のランタンを持っています。


 ゴーン……と厳かに、紺の刻の鐘が鳴りました。と、その音が消えるか消えないかという時に、不思議な楽の音が聞こえ始めます。「風の竪琴」という、風で弦を震わせるタイプの楽器ですね。弦の張られた板が至るところに吊るされていて、それをほら、あの壇上にうっすら見える線の細い神官、あの人が指揮棒から魔力を飛ばして奏でています。つめたくやわらかな風と共に何十という和音がサラウンドで聞こえてくると、音楽に呑み込まれたような気持ちになってきますね。


 その音に、気の神官達が歌を重ねます。スティラ=アネスでは音楽は風の領域にあるものとかんがえられていますから、冬の祝祭は音楽会でもあるのです。


  フラス=ティエ・ナ=ロサ・イズ・ヴァール

  風の彼方より来たりて天へと昇る

  叡智の神にして冬の神

  エルフトの祝福を今受け取らん

  冷えた風が思考を澄ませ

  我ら世界の真実を垣間見ん

  ユス・アルエ=ティア・ハツェ


 耳の良い方でも何重唱なのかちょっと数えられないくらいの複雑な合唱は、風の神の祝福を願う祝祭の始まりの歌です。この後に気の神殿長の祝福の挨拶があって、神官達や有志の音楽家達のコンサートが始まります。じっくり楽しんでいきましょう。とはいっても夜明けまで続くので、好きな曲を聴いたら食事休憩をとったりしましょうね。向こうで大地の神官達が熱々のスープを用意してくれています。


 朝まで存分に美しい音楽を楽しんだら、夜更かしをしてそろそろ眠たくなってきましたし、お土産をもらって帰りましょう。今日の記念に、庭園の木に飾られていた星飾りをひとつずつもらえるんです。あれ、昨日来た時に気づきませんでしたか? 「数多の星々スティラ=アネス」神殿ですから、お祝いの時はこうして小さな木製の星をあちこちに飾るんです。今日は気の祝祭ですから、気の神の灰色……というよりは銀色でしょうか? 少しキラキラしたグレーですね。星の造形も、祝福を表す繊細な蔓草紋様が彫り込まれていて綺麗です。素朴なお土産ですが、ひとつひとつ神官達の手作りなので、大切にしてあげてくださいね。


 気の祝祭、おめでとうございます。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る