第33話

▫︎◇▫︎


 大臣達は、緊急招集の理由が『王太子の婚約者について』であることに目が飛び出るほどに驚いた。どんなに進言したとしてものらりくらりと躱してきたの婚約者についての議題だ。皆一様に早く真実が知りたくて早馬を飛ばして王城に駆けて行った。


 とある大臣が疲れ切って到着すると、そこには汗をかいて息を切らした大臣が皆集合していた。ソワソワした大臣達は、国王と王太子、そして婚約者となる女性が来るのを今か今かと待っていた。


「国王陛下、王太子殿下のおな~り~!!」


 大臣達は興味津々に顔を上げたい気持ちをぐっと押さえ込んで、頭を深々と下げた。


「皆面を上げよ。今日はいきなりの招集をかけて悪かった。だが、この愚息の考えが変わらぬうちにさっさと婚約を結ばせてしまいたかったのだ」

「私の我儘により苦労をかけてすまない。だが、私は彼女に執心でね」


 王太子が浮かれたように言ったことで、大臣達は目を見開いた。今までこの天才王太子がこのような雰囲気になっていたことはあるだろうかと必死になって思案した者もいたほどだ。


「では早速私が望む女性を呼ばせてもらう」


 王太子が頷くと、衛兵によって先程国王や王太子が入場してきた扉が開かれた。

 そして、その扉から夜空のような漆黒のきらきらと輝く髪に、大粒のサファイアのような鮮やかな青色の瞳を持った少女が入場して来て王族顔負けの美しすぎるカーテシーを披露した。


「皆さま、お初にお目にかかります。イスペリト公爵家が娘、アイーシャ・イスペリトと申します」


 顔を上げて、とろけるような微笑みを浮かべたアイーシャは、女神の歌声のように美しい声で挨拶をした。

 ほうっとした溜め息と共に、大臣達はサイラスは意外にも面食いであったことに驚いた。


「………イスペリト公爵家には娘はいなかったと記憶していたのですが………」

「はい、先日養子に入りました。わたしは元イスペリト公爵令嬢のエミリアの娘ですわ。ディアン王国の王太子に先日魔力無しであるが故に婚約破棄をされましたので、祖父母を頼らせていただきましたの」


 自分の娘を王太子の婚約者にしたかった大臣の意地の悪い言葉に、アイーシャは困った声音で答えた。憂い顔で話すアイーシャに、大臣達は納得した。隣国たるディアン王国は魔力至上主義の王国だ。そこで魔力無しともなれば、まともな扱いなど受けていなかったであろうことは簡単に予想ができた。そして、上位精霊の幾人とも契約していたエミリアの娘ならば、優秀な精霊使いであるということも簡単に予想できた。


「アイーシャは精霊の愛し子であり、王家の血を引くイスペリト公爵家の娘だ。私の婚約者にするのに何も問題はあるまい」

「勉学や作法はいかがなのです」


 未だに必死になって食い下がる大臣に、サイラスは呆れた表情を見せた。


「この国の深い歴史や貴族の名前における勉学については身につける必要があるが、作法の方は先程も見てもらったとおり問題ない。元々次期王太子妃として育てられているために外交に参加できるように世界中の国々にまつわる大まかな知識は頭の中にあるし、アイーシャは全ての国の言語をマスターしている。ここまでできて、まだ文句がある者はいるか?」


 サイラスはそう言いながら、顔を僅かに赤くしているアイーシャの腰を恥ずかしそうに抱いた。


「い、いいえ………」


 アイーシャを引き摺り下ろそうとしていた大臣は悔しそうに返事をした。


「では、彼女を私の婚約者に決定しても問題ないだろうか」


 サイラスの声に、大きな拍手が起こった。そして、今この時よりアイーシャはサイラスの婚約者に内定した。アイーシャは幸せそうでいて、嬉しそうに微笑んだ。


「サイラスさまの婚約者という尊き立場、フェアリーン王国のため、誠心誠意努めさせていただきます。不束者故、ご指導ご鞭撻の程、どうかよろしくお願い申し上げます」

『こちらこそよろしくお願いいたします』


 娘を嫁がせたかった大臣以外は、皆一様に顔を輝かせてアイーシャに尊敬の眼差しを向けていた。

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