第15話

▫︎◇▫︎


 時は少し遡りアイーシャが国を出た2日後、つまりアイーシャの多くの作品が燃やされた次の日、ディアン王国では異変が起こり始めていた。


「クロード殿下!大変です!!太陽が昇ってきません!!」

「クロード殿下!我が国のみ闇に覆われてしまっています!!」

「そんなもの言われなくても分かっている!!」


 王太子でありこの国で最も強い魔力を持つクロードは焦っていた。昨日の有頂天な気分はどこにいったのやら、今日は異常なまでにおかしなことが次々と起こっている。

 太陽が隠れ、闇がを覆うなど、前代未聞だ。


「クロード殿下!川が氾濫したことにより洪水が!!」

「クロード殿下!火山が噴火を!!」

「クロード殿下!地震により大きな地割れが!!」

「クロード殿下!突然の竜巻により色々な場所で倒壊が!!」


 それに、次々と災害が起こっている。まるで、何か大切なものに見放されてしまったようだった。


 クロードはふと祖父たる先代国王が言っていたことを思い出した。アレが生まれた時から、災害が多かった我が国の災害がぴたりと音沙汰もなく治まったと。不思議なくらいにぴたりと止んだのだと。だから、アレと自分の婚姻が決定したのだと。

 クロードは気がついた。アレがこの国から居なくなって、アレが作ったものを燃やした途端にこのような惨状になっていると。


 ーーークロード殿下!クロード殿下!クロード殿下!クロード殿下!クロード殿下クロード殿下クロード殿下クロード殿下クロード殿下!!ーーー


 嫌になるほど自分の名前が呼ばれる現状に、クロードは辟易した。


「ライミー、お前どうにか出来ないのか?」

「無茶いわないでよ。災害は魔法では止められないわ」


 クロードは苛々とした口調でライミーに尋ねた。だが、隣にいる国で2番目の魔法使いたるライミーはのんびりとお茶を飲んでいる。そしてあろうことか、あら、このお茶あんまり美味しくないわね、なんて言っている。クロードの苛々はどんどん募っていく。


「お前!そんなのんびりしてないで、国の危機を救うために頭を回したらどうだ!?」


 クロードはプツリと音を立てて切れた理性の糸を結び直そうとすることもせず、感情のままにライミーを怒鳴りつけた。


「はぁ!?そういうアンタこそどうなのよ!?偉そうなことを言っているけれど、なんか案でもあるわけ!?」

「そ、それは………」

「ほら、ないんでしょう!?なら、アンタこそ頑張ったらどうなのよ!?」


 クロードはぐっと言い詰まったが、やがて余裕綽々の表情を浮かべた。


「あるぞ、この災害を収めて平和を呼び寄せる方法ならな」


 ニヤリとした微笑みに、ライミーは本能的危機を感じた。


「アイーシャを連れ戻す」

「なっ!!あんなのを連れ戻すわけ!?そもそもアレは魔力なしの無能よ!?連れ戻して何になるって言うのよ!?」

「アレが生まれてからこの国には災害が1度も起こっていない。何が言いたいか分かるな?」


 1度目を見開いたライミーはその後、下卑た笑みを浮かべた。


「ふふっ、それじゃあ探し出して飼い殺しましょうか。大丈夫よ。ちゃーんと躾けたらいいんだから」

「そうだな」


 愚か者達の気持ちの悪い笑い声が、助けを求めてきた人で溢れかえっている部屋に不気味なまでに響き渡った。

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