第13話 はじめの一歩

「あの、そうすると明日から恋人同士という認識でいいんでしょうか」

「当然そうなるね。なんか拙い事ある?」

「いいえ、ないです。順子にははなしたいんですけど。構いませんか?」

「勿論。話してください。俺たちの良き理解者になって欲しいから。俺も矢吹には話しておきたいんだ。構わない? あっ! 男性だってことは言わないよ。お付き合いを始める事だけ。気まずいなら止めるけど」

「ううん。大丈夫」

そう言うと雪乃は残っていたプリンをたいらげた。それをじっと見つめる比嘉と目が合った。雪乃は照れ笑いをしながら隣に座っても良いかと尋ねてきた。

「おいで……」

比嘉は立ち上がり奥に座るよう促す。

膝が微かに触れたり離れたりする距離感にお互いの想いを感じていた。

「竜さん……僕ね、今日竜さんにこの事を話しながら自問自答しちゃってて。大切な人には素の自分を愛して欲しいし。でも、素の自分って何って? 判らなくなって、どちらかが嘘なのか……ううん嘘じゃないんだ。でも……」

比嘉は、雪乃を抱き寄せると、

「俺は、どんな君でも好きなんだよ。さっき話を聞きながら、何度も俺の目の前の可愛い子は男性なんだって言い聞かせたことか。それでも俺の心は、この子が好きなんだって叫んでいるんだ。そう……一生懸命正直に生きてきたこの子、ひとりで頑張って来たこの子をね。

でも、今日からは二人で生きていくんだよ。少しづゝだけど、今見ている景色も、これから見えてくる景色も変わって行く気がするんだ。

だからね、その時々で一緒に悩み、考えながら、納得してその景色を自分たちの人生の背景に加えてければ良いなって思うんだ」

「人生の背景……ですか。僕……僕……竜さんに出逢えて良かったです………」

比嘉は自分の胸に顔を埋める雪乃を更にきつく抱きしめる。

ふと、別れた妻の言葉が頭をよぎる。

「人を好きになるって、同性とか異性とかは関係なくて。互いに満たし合いたいっていう欲望が溢れてくる。その感情を幸せだって思える相手を大切にしていきたい」

確かにその通りだ。俺はこの胸で泣いているこの人と幸せになりたい。

積み重ねる事でしか得られない愛と絆。なら今度こそ手放さずに心を重ねていこう。

「大丈夫?」

頷きながら涙で濡れた頬に手をやる姿が愛しい。見つめあう瞳の中に互いの姿を

沈めていく。可愛い唇が微かに動く。

ああ……俺の完落ちだ。その唇を優しく塞ぐ。

これで良い……これが良いんだ。

比嘉は宝物を抱くように雪乃を腕の中に仕舞いこんだ。


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