第2話 眩い光の中で
煌びやかに光を細かに乱反射し、まわりを宝石細工のように輝かせるシャンデリア。
緩く湾曲してホールへ下る、煉瓦色のカーペットの敷かれた階段を、クリストファー様のエスコートリードで一歩一歩下りていく。
背後の踊り場で、主催側の執事のひとりが、私達の名前を読み上げるのを聴きながら。
何回目だろうとも、酷く緊張する。
隣で私の手をひくクリストファー様の、ククと詰まらせるかのように喉の奥で笑うのが感じられる。
「まだ慣れないのかい? ランドスケイプ侯爵令嬢アンジュ──我が婚約者殿」
「⋯⋯ええ。多くの人に見られると、いつも酷く緊張するわ。例えどんなに取り澄ましても、ドレスの内側は冷や汗で酷いものよ。他の令嬢だって、そんなには変わらないと思うけれど」
実際はどうだか解らないけれど、人前で緊張する人は多いと思う。誰もが見られて平気だとか逆に快感だとか、度胸のある舞台女優みたいな令嬢ばかりだとは思いたくない。
「いつも、コンテストに出る着飾った愛玩犬のようにすましていたから、平気なのかと思っていたよ」
それは、本物のお嬢様のことだろう。或いは、アンジュお嬢様と言う婚約者が居るのにも拘わらず、クリストファー様に群がる肉食獣の如き令嬢達の事だろうか。
「まあ、そうやって震えを隠して僕の手を拠り所にする姿は可愛らしくて、目が離せないからいいけどね」
この方、昔からこんなに恥ずかしい事をスラス
──私だって、あの頃の私じゃない
大抵は主催者がパートナーの手を取りファーストダンスを踊るものだけれど、今夜の招待客に、王弟殿下と婚約者様がいらしたので、彼らがホールの真ん中で踊り出す。
「あのように、衆人環視の中でたったひと組だけ踊るなんて、どんな苦行かと思いますわ」
「それでも、慣れてもらわないとね。我が家は一応エルラップネス
父上母上がご存命の間は任せられるけれど、いずれは僕たちが当主としてファーストダンスを踊る時が来るんだからね」
賑やかで贅沢な催しが好きではなくても、社交能力がある、栄えた領地を正しく治めている事を証明するためにも、持ち回りで夜会を開くのが貴族社会。
経済力と統治力を見せつけ、互いに情報交換し、有利に交渉を進めるのが貴族。
解っていても、その一端に身を置いていても、未だ馴染めない。
王弟殿下と婚約者のダンスが終わると、演奏曲が誰でも踊りやすい初心者向けの定番のものに変わる。
「さあ、慣れなくても、僕らも踊ろう。仲の良いところを見せつけておかないと、うるさい人もいるからね」
私達の仲が良くないとうるさい人物。
一人はアンジュお嬢さまの父上ランドスケイプ
うるさいかどうかはわからないけど、エルラップネス公爵さまだとて、家同士の繫がりの為に婚姻契約を結んでいるのだから、仲良くしているに越したことはないだろう。
アンジュお嬢さまは、彼のどこに不満があると言うのだろう。それとも、不満はなく、ただ、他にも目を向けたいだけなのだろうか。
いずれにせよ、私の役目は、今夜終わる。
──さあ、ラストダンスを踊りましょう
煌びやかな光と、酒と香水の匂いに満ちた華やかな今夜の夜会は始まったばかり──
꙳꙳꙳꙳꙳꙳꙳꙳
明日からのカクヨムコンにエントリーしようと思って公開しました
応援、よろしくお願いします。(,,ᴗˬᴗ,,)⁾⁾⁾
150話くらいの長編になります
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