57.エレベーターは上昇する

 ふと気づくと、俺はエレベーターの中にいた。エレベーターはうなるような音を立てて、上昇している。普通のエレベーターである。


 鏡があって、見ると澄んだ紺色の髪した少女が、制服を着て立っていた。髪の色は違ったが、俺はこれが誰だか知っていた。名前はエスだ。


 エレベーター内には俺ひとりだけであった。


 エレベーターは上昇している。

 だが、俺はこのエレベーターがどこに到着するか知っていた。


 基地はどうなっただろう。サン、ミイミヤ、ディーはどうなっただろうか。そもそもいったいどれくらいの時間が過ぎたのだろうか。俺はどれくらいの時間、目覚めていなかったのだろう。


 腕も足もちゃんと元通りになっている。管理AIは約束通り、俺の体を新しくつくってくれたらしい。


 エレベーターは上昇を続ける。うなるような音がかすかに聞こえた。俺は天井を見つめた。これからどうなるのだろう。エレベーターを降りたら、なにが起こるだろう。わからなかった。ただ、なにかが起こる、ということが、終わりにならなかったということが嬉しいことに思えた。あいつの、管理AIのゲームは終わったが、ゲームは終わってもその中の世界は続くのだ。


 なにが起こるかは、どうなっているかは、わからない。

 だけどそれは、エレベーターが到着したら、わかることだろう。





終わり

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