第38話 友軍

「よろしくお願いします」


オーボンヌ伯爵の私兵に挨拶すると怪訝な顔をされる。

シグヘイム子爵からの応援はたった4人でそのうち2人は女性、1人は子供だ。

不安しかないだろう。


「子供がこんなところに来るもんじゃない。遊びじゃないんですよ。…ランシア伯爵の名代も帰った方が良いでしょう」

「私もこの子自身も戦力にはならないけれど、この子は召喚士で戦力を召喚できる。私も元王女の護衛を投入出来るよ」

「…若様。私は若様とお嬢様の護衛のみ命じられました」


主旨が異なる とヤルマールが割り込む。


「うん。私が死んでは元の子もないのだろう? スタンピートに巻き込まれないよう頼んだよ」


にこやかに返すフレデリックに、無表情に礼を取る。態度には出ないが渋々といったところだろう。


大きな引っ掛き傷がついた鎧をまとった壮年の男性が近付いてくる。


「で、お嬢ちゃんが召喚するのは何だ? 強いヤツだとありがたいんだが」

「蜂です」

「…蜂? あんなちっこいの役に立たないだろう?」


明らかに落胆した様子で4人を見た。


「こっちは大きく。こっちは…手の平くらいの大きさで」


5枚、6枚と折形を宙に放ると5枚は小鳥程度の大きさに、6枚は人くらいの大きさになる。

異様に大きな体長のため、羽音が低く周囲を震わせるように唸っている。

肢先には鋭い鉤爪を持ち、大鎌のような顎をガチガチと鳴らし威嚇している。

―己は危険だから安易に近づくな…と―。


メリハリのある体色が毒々しいまでの鮮やさを持つオオススメバチだ。


オオスズメバチーインドから東アジアにかけて分布する大型種の昆虫。

体長は女王蜂が40 ~60 mm、働き蜂が27~40 mm程度で、日本に生息する蜂類の中のみならず、陸海空の全ての有毒生物中トップクラスの毒を持ち(オオスズメバチが持っている毒の半数致死量 (LD50) は4.1mg/kg)、かつ攻撃性も高い危険な種である。

飛行能力も高く、時速約40 kmで飛翔し、狩りをする時は1日で約100 kmもの距離を移動できる持久力も持つ。

世界的に人間を最も多く殺傷している生物は蚊だが、日本で最も多く人間を殺傷している生物はスズメバチである。

天敵は熊。そのため黒く、より速く動くものを優先的に狙う。


「小柄な5匹はスタンピートのコアを探してもらいます。破壊が難しいようならここまで運んでもらいます」

「持てるのかい?」

「自分の体重の50倍は持てますから…。ただ水の中にあるようなら無理ですね」


人間大の6匹はある程度まとまって傭兵が相手にしている魔獣を目指し飛んでいき、6匹は魔獣が多くいる方向を目指しバラバラに飛んでいく。


「…渡り人様の世界にはこんな蜂がいるのかな? 随分恐ろしい見た目だが…」

「お母さんの国でも脅威になっていた蜂だそうです。狂暴で指くらいの大きさだったと話していました」

「しかもかなり速いですね…」

「オーボンヌ伯爵が昨日のうちに傭兵に話を通してくれていたはずですけど…驚いて攻撃しそうですね」


呆気にとられながらそれぞれ感想を述べる3人。

大きい方の蜂たちは傭兵が相手にしていた魔獣に近づくと1匹が肢で抱えたまま飛び空に放り上げ、残りの蜂が毒針で刺したり四肢や首を強靭な顎で掻き切っていく。

何故か傭兵たちからも悲鳴が上がる。


「外殻が硬質だと顎や針が通らないので、硬そうな魔獣は皆さんにお任せします」


ミカエラが私兵たちに頭を下げる。


「…すごいな。しかし数匹だけで対応できるのか?」

「皆さんが見慣れてきたら増やします。オオスズメバチが他のスズメバチの巣を襲う時は大体500匹程度で襲撃を行いますから」

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