3、強襲の游星

 葵と詩音の二人が深海と対峙し始めたころまで遡る。


 その頃、ユメはプラネットにまたがり、来るはずの深海を待ち受けていたのだが一向に深海どころか、詩音らとも合流しないことを訝しみ、連絡を取ろうとしたところ、詩音らと同じく、連絡手段を破壊されていた。

 狙撃を受けたユメはすぐさま二人と合流すべく、プラネットを走らせる。それを追うように、狙撃の応酬が襲い掛かってきた。

 こちらが進路の主導権を握ろうにも先回りして、狙撃が待ち構え、直撃こそしないが、一定の範囲からの脱出が困難になっていた。


「しつこ……」


 どうしても振り切れない、どこかに誘導しようとしているというよりかは、どこかに行かせないような狙撃に行き詰っていた。

 そこに、転機が訪れる。

 一瞬狙撃が止んだかと思うと、鈍い音が地面を伝い走行中のユメが感じ取る。


「しおちゃんの緊急救援要請エマージェンシーコール!?」


 これは詩音班で取り決められているそれぞれが緊急事態に陥った際に使う連絡手段。


 詩音の救援要請の手段は、音だ。


 右人差し指インデックスは右手の中でも聴力に秀でている。そこから派生して、彼女は金属バットで音をだし反響探査エコーソナーの要領で広い範囲の索敵や、特定の周波数の音を増幅させて広い範囲に伝えることが出来る。

 普段のバットの使い方と違い、わざと不自然にバットを叩きつけるなどで詩音の索敵範囲内の仲間に助けを求めるのだ。


 急ぎ音の方向へと進路を向ける。

 その道中、なぜか狙撃の雨は一度も無かった。



♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦



 例えば、ショベルカー。実物で見ると思いのほか大きいそれは、多分、近くで見たとき、あるいは実際に動いているところを見れば分かるだろう。万全を尽くし過ぎるほどに安全に気を使っているわけが。それゆえに特殊な免許が導入されている理由も。

 深海はそれを痛感していた。


「人に向けるもんじゃないだろッ!!」


 先ほどまでは辛うじて対人戦の体裁はあった。 

 だが、これは流石に違う。自分が使っているユニットと同列に扱うべきものではない、この機械プラネットは。


 何とか躱す。


 躱した先で、プラネットの拳が地面に触れる。その揺れが身体に伝わると同時に土や砂が舞い上がり、抉られる。

 柔らかい地面ならまだわかる。が、景観の為に置かれた岩が、まったく同じ末路を辿ったとあれば、話も変わってくる。

 拳を額で受けるとか、手持ちの武器で受け流すとかは考えない方がいい。

 まさに重機のようなパワーが、人のような身軽さで襲ってくるのだから、いよいよ手に負えない。


「…………」

「マジかっ!」


 さらに追い打ちをかけるように、破壊と暴力の荒らしの中で淡々とその身を晒し、回避で手一杯の深海に攻撃の手を加えるユメが参入してくる。

 体重こそ軽いが、葵と同じ左薬指エンゲージ、その瞬発力から放たれる攻撃は的確に急所を狙う。


「…………」


 その視線は一切、深海を外そうとしない。

 呼吸を忘れているのかと思うほどに静かな呼吸で、防戦一方の深海を追いつめる。


「無言止めろ!」


 たまに見せる隙に潜り込ませる触手すら、意に介さない。

 その動きは、葵の零距離戦闘に似ているが。簡単に超至近距離を捨てる。

 かと思えば、呼吸を縫って急接近を許している。

 せめてもの救いはユメ自身の攻撃性能が低いことだろう。

 とは言え、金属でできた右腕からの攻撃も、プラネット程ではないにせよ生身でガードするには些か重い。それを数が減った触手に対応を任せると考えれば肝が冷える。


「おい! 狙撃手シャープシューター!! そろそろいいだろ!!」

「……?」


 深海は通信機インカムを使い、遠く離れた相方に連絡を取る。

 「そろそろいいだろ」そのセリフに、ユメは(おそらく)怪訝そうな顔をする。


『お前が調子に乗ってるみたいだから、少しお灸を据えてもらおうって思ってたんだよ。それに、今後のための良いスパーリングになったんじゃない?』

「お前なぁ!」


 そういえば、プラネットで走行中に狙ってきた狙撃手は光、テールランプを頼りにしていたはずだが、公園に入ってから


『大きい声を出すなよ――


 狙撃手のその声は、ユメには聞こえていないはずだが、何かを察知したプラネットが深海への攻撃の手を止めて、ユメの前に立つ。何かから守るように。

 その瞬間、轟音が鳴り響き、プラネットの巨体が浮いた。


「……は?」


 それは突如として上空から飛来した。

 自由落下じゃない、明らかに指向性を以てプラネットに直撃したと分かる。

 それは見たこともない機械だった。あえて既存のものに当てはめるなら飛行機、にしては小さい。それこそプラネットの走行形態と同程度。あるいは船と形容してもいいだろう。それでも乗り物にしては小さい。

 金属板に全身を包み、前方と思わしき部分は新幹線のように流線型だ。 


『じゃあ、貰ってくよ』


 そう深海に告げた狙撃手の声に呼応し、機械はその正面部分を今度はユメに向ける。

 構え――る間もなく、ユメは強い衝撃と共に近くの建物が遠くに見えるほど遥か上空に舞い上がっていた。



♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦



 ユメとプラネットが吹き飛ばされ取り残された深海は、一呼吸したあと、公園を後にしようとする。

 その道中で自分がノシた二人が目に入る。

 少し悩んだ後に、さっき拾い直した自分のスマホを取り出し、どこかへ電話を掛ける。


「あーもしもし……はい救急です。公園で誰か倒れてるんで、救急車をお願いします。はい……場所は新宿区弁天町の――」


 通話を終え、再び、二人を見やったあと、スマホを地面に落とし、踏みつけぶっ壊し、改めて、公園を後にするのだった。

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