大会議室のアナウンサー:4

「これは前の会議でも指摘したところだから改善方法を盛り込んでいると思うけど念のため言っとくけど、まず水川さんが説明したコンテンツマーケティングだが、確かにターゲット層を明確にしてそのターゲットにあったコンテンツを日々情報発信していくのはいい方法だと思っているし、それがSEO的にも効果が上がることは僕も分かっているけど、問題はその運用方法だよねェ、単発的で短期的なコンテンツにとどまらず、それを長期的に継続してコンテンツを出し続けるといったことが、果たして今のうちの人員に出来るか、そこがリソース的にも厳しいと思うし、もし仮に外注するならそれはそれで費用が発生するよねェ? 僕は前回の会議で資料を見てるから分かるけど、毎日一記事コンテンツを発信しようとしていて、それを外注するつもりなんだろうけど、そうするとまあァコストが上がりすぎるし、その回収シミュレーションもあまり現実的じゃなかったよねェ。SEO面でのキーワード選定やコーディング、AMP対応もするんだろう? そこはどう考えているのか、それをまず聞きたいねェ」

 長巻が早口で一気に話した。

「何やら専門用語がたくさん出てきましたね! しかもかなりの早口だ!」

「あぁ、これは『マシンガントーク』ですねぇ。スネーク長巻はよく使う技です」

「絶え間なく話し続けることを意味したあの『マシンガントーク』ですね! 確かに前回の試合で彼が窮地に立った際にも『マシンガントーク』で逃げ切ろうとしましたね!」

「そうです。まあ通常の攻撃技ですね」

 牛飼のテンションとは反対に、甲斐は落ち着いた様子で解説をする。

 迷彩服を着た軍人の格好をした小さな長巻が水川側に向かってマシンガンを乱射している。

「これは防げるのかぁ!?」

「この件は、私から説明させていただきます」

「おおっと!? ここで玲奈課長の出番だ! 一体何を出すんだ?」

「前回、長巻さんにご指摘いただき、プランを少々変更しました。当初は毎日更新を考えていましたが、運用面のリソースから二日に一回の更新へ変更しました。また外注先への依頼も技術面のサポートのみにすることで費用を抑えることにしました。そのプラン内容をこちらのスライドで詳しく説明いたします」

 若松がプロジェクターに詳細資料を映し出す。これは前回、長巻との会議の際にはなかった資料だ。若松は長巻の質問に対し丁寧に説明していく。

 若松の手元でカードが光り出す。カードは横に十枚一気に並んだかと思うと、それぞれから軍用のトレーラーが四台、トラック二台に、ジープ三台、さらには戦車一台が一列に車列を組んだ。

「こんなにたくさん! カードコピー技ですね! 甲斐さんこれは何でしょう!」

「防御技『理論武装』ですね」

 牛飼と甲斐の後ろの液晶モニタには大きく「防御技『理論武装』」とテロップが表示される。

 トラックの荷台から迷彩服を着た小さな若松たちが降りてきて、軍用トレーラーに向かい、作業を始める。

 軍用トレーラーの天井部を開き、中からT字型の支柱を高く伸ばし一番高い部分からロールスクリーンをすばやく下まで降ろして壁をつくった。

 長巻が打った弾丸は、軍用トレーラーの壁に当たり、コテンと力なく落ちたのだった。

「これはすごい! 玲奈課長の防御技が水川選手を守った! さすが課長だあー!!」

「くう。そうか、分かった」

 長巻が口をへの字にして腕を組むと黙ってしまった。

「スネーク長巻が尻尾を巻いたぞ! 蛇だけに!」

「私からも質問いいかな?」

「おっと、ここでデーモン伊達が出てきたぞ!」

 水川が「どうぞ」と促すと、伊達が話し出す。手元にはすでに複数のカードが光り出して何やら大勢の群衆が現れ始めていた。

「サイトリニューアルの話だけど、会社ロゴを見ても分かるように、コーポレートカラーはオレンジなのですが、君たちが提案したページカラーは青がベースになっているのはなぜでしょう? それからデザイン重視ってことだけど、そうなるとコーディングやSEO面がおろそかにならないかな? あと案にあった『お問い合わせはこちら』の電話番号の文字は大きすぎませんか? こんなに目立つと電話での問い合わせが増加するんじゃないかな? 知っていると思うけど、カスタマー対応は基本メールだから電話が多くなるのは困るんだよね。大丈夫なの? そもそもこのサービス会社って有名なの? こんなに改修箇所盛り込んだら費用も高いんじゃないの? 任せて大丈夫なの?」

「質問が多い! さすがの『理論武装』も耐えられないか?」

「デーモン伊達、三枚カード出してきましたね」

「なんと! 三枚合わせ技ですか! それは一体どんな!?」

「『矢継ぎ早の質問攻め』と『重箱の隅』、そして『そもそも論』ですね」

 伊達の手元のカードからは戦国武将の格好をした勇ましい小さな伊達が現れた。伊達は大きな三日月型の会社ロゴマークをつけた兜をして馬に乗っている。腰には大きな日本刀を携えていた。

「甲斐さん、説明を! 解説をお願いします!」

 甲斐の説明によると、経営面での――つまり費用に対して意見を言うはずの社外取締役の伊達が、サイトの運用やデザインといった細かいところに口出しをしてきたという、まさに重箱の隅を突くような質問を、一つのみならず矢継ぎ早に複数投げかけた上、終いには「そもそも」とリニューアルの前提を蒸し返すような発言をしてきた、というのだ。

「『3D』カードのように否定発言の多いデーモン伊達らしい攻撃技ですね」

「これは回避できるのか? しかしこのデーモン伊達の姿、伊達政宗に失礼じゃないのか!」

 牛飼は伊達の甲冑姿に文句をつけた。

 その武将伊達の後ろには、矢を持った兵の軍勢が姿を現した。武将伊達が「放て!」と勢いよく掛け声を上げると、背後の兵たちが「おーっ!」と一斉に矢を射る。中には重箱を投げてくる兵もいた。

 若松は『理論武装』を使い、伊達の質問に丁寧に返答していく。

 放った矢や重箱は、軍用トレーラーの壁に当たり落ちていく。

 戦車による砲弾も放ち、武将伊達の軍勢はやられていく。

 ここまでは若松の『理論武装』で対応できていたが、その次に「そもそも」と巨大な文字が飛んできた際には、軍用トレーラーの壁では防ぎきれなかった。

「なんということだ! 玲奈課長の『理論武装』カードが打ち破れてしまったーー!」

「さすが『カード破りのデーモン伊達』ですねぇ」

「さぁ、どうする! 若松・水川ペア、反撃はあるのか!?」

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