根源の力

 ケット族、別名猫獣人。

 特徴的な小柄の体系を生かした、敵を翻弄する柔軟性と素早い攻撃を得意とする一族。

 猫耳と尻尾が生えている萌えキャラとしての確立。

 プレイヤーが仲間にしたいランキングで、エルフや吸血鬼に次いで最も人気があった種族の一つじゃないか。

 それはかつて、NPC 争奪戦があったほど。けど、


「人は胡散臭い噂ほど信じやすいからな」

「やっぱりきみも、この国に居てはいけない魔族なんだね」


エン・ケット族。

 その特徴は尻尾や耳、体が一部黒い毛で覆われていること。

 それと不幸の象徴とされていることだ。

 おかげかよく他種族から爪はじきにされる。

 中には童話で悪魔役として登場したせいで余計に。

 所詮、物語は物語。

 なのに人はどうして信じ込むのか。

 まぁ当然プレイヤーは無視して仲間にするんですけどね。


【可愛いは正義!】


「敬語は必要ないよ。同じ冒険者仲間なんだから」

「……そんで。何が目的?」

「いきなり砕けまくったね。それと目は合わせないのかい?」


いやだって?

 リーフさん耳以外にもなんか体系がアレだし?

 自然と目が下に……いやこの場合は上に?

 どの道凝視しそうになるし。

見てたらその……あれだし?

 女子から見て不快だろうし?


「……何が目的」

「目が泳いでいるし、顔も少し赤いよ? きみは中身まで男の子みたいだね? ……襲わないでね?」


 クスッとからかい交じりにリーフが頬を上げた。

 こいつさっきからほんと勘が良い奴だな。

 そんな斜めの絶妙感覚でそんなこと言われたら。

 恥ずかしがるような表情で言われたら!


「お、襲う訳ないだろ!」


 クッソ可愛いなぁおい!

 激情を理性で押さえつけ、おれは誤魔化す様に叫んでいた。


「えー、それで目的だっけ? ないよそんなの。しいていうなら恩返しかな」


リーフは腕を伸ばすと、重力に逆らわずベッドへと自由落下した。


「恩返し?」

「うん、ホントだよ? 魔術の使い方を教えてくれないかなー。まさか同室まで許可してくれた相手に教えてくれないはずないよねー。なんて考えてないよ」


 顔だけ持ち上げたリーフ。

 口調がわざとらしい。

 素直にそれが目的だから誘ったって言えばいいのに。


「おれは魔術士じゃないんだけどな」


 ベッドとは対面にある、机に備え付けられた椅子へとおれは腰掛ける。

 確かに最初は誰だって魔術から入る。

 おれも最初はそうだった。

 けど呪術を使うようになってからは、魔術も他秘術の可能性も全て捨てさった。

 少々特殊な妖術を抜いて。


 一瞬だけ【火符】【水符】を具現化させて見せる。


「そこ気になってたんだよね。陰陽道って魔族と相性最悪じゃなかったけ?」


 リーフも陰陽師の真似をしているのか指で札を挟む仕草をする。

 そりゃな。

 わざわざ陰陽道ではなく、呪術と区別しているんだから違うに決まっている。

 霊力は人に対して益になる力。対して呪力は人に害となる力。

 九字も切れんし、言霊も発しないし、破邪を司る【金】も使えない。

【火】だって、本来は浄化だからあんまり力を引き出せない。


「おれにできるやり方でいいなら。無論安全は保障する」

「おー! いいね、教えて」


 食い気味にリーフは体を起こす。

 札の使い方しか教えないから大丈夫だろ。

 陰陽道があるくらいだし、もう初見殺しにもなりゃしない呪術だし。

 それらひっくるめて、先ずはマナと力の関係性からだ。


「まずマナと力を明確にしておこう。マナについてどこまで知っている?」

「えー、私を無知だと思っているのかい?」


 何やらジト目を向けてくるリーフ。

 おれは「なら答えられるよな」と返答する。

 至って真剣だ。

 お互いマナについての理解力に、どこまで差があるか分からないから。

 一度頷いたリーフは観念した様子で口を開いた。


「マナとは力だよね? 私達は魔力や霊力で特殊な術を行使している」

「正解。じゃあ、マナとは何?」

「えっ……」


リーフの目が泳いでいる。

 考えているな。

 クイズを出題する側って、きっと内心クッソ笑顔だよなぁ。

 だって今おれが笑みが零れそうで仕方がないんだからな。

意を決した様子でリーフが口を開いた。


「マナ? 真名。静か。店での立ち振る舞い。空気中に漂っている物。力」

「半分違うのが混じっているな」


 リーフはベッドの布団をトントンと叩く。

 それからおれの目を見つめながら口を開いた。


「……根源的な力……かな?」

「正解」

「引っかけかと思った!」


抗議するかのように、リーフは両手でベッドを叩いて叫ぶ。

引っかけとは一言も口にしていないんだけどな。


「うっわぁ……、引っ張りたいほど良い笑顔」


そんなに頬緩んでたおれ?

いかんいかん、おれの顔は感情に素直だからな。

 話を戻すために、おれは頬を手で回すようにこねる。

……なんか肌に手が吸い付くな。


「よく秘術って耳にしないか?」

「あー、動物と植物をひっくるめて生物というように。魔法や魔術、神聖術に特魔術に武闘術など全てをひっくるめて秘術って言うね」

「それね、聖力だとか妖力だとか魔力だとか、色々あるけど根源的には全て同じマナからできている。だからそういう名前になっているんだよ」


 簡単に言えばいろんな術のフォルダーを作りすぎた。

 だから秘術というフォルダーを作って、そこに全部入れちゃおうって奴だな。

 開拓されていくたびに世界は広がる。

 新しい大地にて、新たに発見された神秘の力を扱う者。

 だから秘術使い。

 反対に聖力だとか妖力だとか呪力だとかをすべて纏めてマナと呼ぶ。

 これ、いつの間にかそういう仕様になった。

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