第28話


「いらっしゃいませ、4名様でしょうか?」

「そうでーす!」


 終業式の後、夏休みに入ったお祝い……

 と、いうことで駅の近くにあるファミレスでいつもの4人と食事をすることになった。


 今日は午後から蒼にぃとゴロゴロニャンニャンする予定だったのに

 全校集会中に声をかけられて、流れて行くことになってしまったのである。


「みこっち、メニュー」


 スタッフに席へと案内されると、この4人の中で、一番活発的な鶴嶺梨花つるみねりかさんにメニューを渡される。


「あ、ありがとう……」


 受け取ると開いて注文するものを探していく。

 その中でもハンバーグステーキランチセットが目立つ様に載っており、お腹も空いているためかそれを注文することにした。

 ……問題はその先だった。


 ——ご飯の量どうしよう。


 蒼にぃと一緒なら大盛りと行きたいところだけど。

 このメンバーでそんなこと言ったら、確実にドン引きされるだろう。

 ……猫かぶって接してきた自分が恨めしく思ってきた。


「みこっち、決まった?」


 鶴嶺さんがメニューの上から私の方を見ていた。

 茶色がかったボブカットの髪型が印象的で、このメンバーの中でも活発的。

 ……何ていうか、姉御肌という感じがする人だ。


「うん、決まったよ」


 私が答えると、彼女は呼び出しボタンを勢いよく押していった。



「明日から夏休みかぁ、何してようかな」


 注文してすぐに声をあげたのは、赤羽根美都あかばねみとさん。

 黒髪のベリーショートヘアで、中学までバレーボール部に所属していたとかで、身長は170センチ以上あるためか

 男性よりも女性にモテてしまうと前にぼやいていた。


「どうせミトのことだから、母親の助っ人でバレーしているんじゃないの?」


 それに返したのは高田明日花たかたあすかさん

 赤羽根さんとは対照的に身長は150センチあるかないかの小柄な体格にお団子ヘアーが特徴的な人だ。

 ……それにしても何で、この小柄な体格なのに私がほしい物を持っているのだろう。


「それ、先週から言われているよ。 今週末に隣町のチームと試合があるから出てくれって」

「だってミトってずっとアタッカーだったし、いるだけで心強いじゃん」

「母さんには毎回呼ぶなよって言っているんだけど、ボケたふりして聞いてくれないんだよ」


 そう言って答える赤羽根さんだが、あまり嫌ではなさそうな表情をしていた。


「そういうアスカはどうなんだよ?」


 赤羽根さんはドリンクバーでもってきた、果汁100%オレンジを一気に飲む。


「これから祭典に向けて準備だよ」


 ストローでアイスミルクティーを吸い上げながら答える高田さん。

 ちなみに祭典というのは夏と冬に開催される同人誌即売会のことらしい。

 彼女はそこそこ人気のあるサークルに所属して、好きな絵とマンガを描いていると話していた。


 ——前に見せてもらったことがあるが、一言で言えば耽美というか自分の世界が180度変わりそうなイラストと内容だった。


「で、どうせリカは彼氏と暑苦しい夏を過ごすんだろ」

「あったりまえでしょ、この前、2人とも整備に出したし、この夏は走りまくるに決まっているじゃん!」


 赤羽根さんの皮肉めいた言葉に鶴嶺さんは真っ直ぐに返していた。

 ちなみに鶴嶺さんは年上の彼氏さんと一緒にバイクでツーリングをするのが趣味らしい。

 夏休みに入ったら、泊まりがけでいろんな所を廻ってみたいと話していた。


「「「で、みこっちは?」」」


 そしてすぐに3人が一斉に私の顔の方に向ける。

 急に3人が私の方を向いたので驚いてしまう。


「わ、私は……ないかな」


 蒼にぃがバイトじゃない日は朝から晩まで一緒にいるだけ!

 もちろんそんなことは口が裂けても言えないことだけど。


「おいおい、せっかくの夏休みだぜ? ぼーっと過ごすのは勿体無いだろ」

「ママさんバレーの助っ人しか予定がないのに言われたくない気もするけど」

「エロい絵を描いてるよりはマシだけどな」


 高田さんと赤羽根さんは対面同士で両手を合わせて押し相撲と始めていた。

 最初見た時はどうしようかと思ったが、鶴嶺さん曰く、「日常茶飯事なので放置していいよ」と言われたのでそのままにしていた。

 そして、2人が盛大にため息をつき、すぐに試合が不戦勝のまま終わりを迎えることに。


「そういえばみこっちって気になる人いないの?」


 興味津々の表情で鶴嶺さんが聞いてきた。


「気になる人……?」

「そうそう、付き合いたいって思える人」

 

 もちろん生まれてからずっと想い続けている蒼にぃなんだけど。

 それを言えたらなぁ……。

 

「今はいないかな……」


 もちろん言えるわけもなかったので私はそう返すことに。

 

「でもみこっちって天城くんに興味あるんじゃないの?」

「んぐ!?」


 高田さんの一言に私は飲んでいたアイスハーブティが変なところに入ってしまい咽帰ってしまう。


「みこっち大丈夫!? ほらペーパー!」


 鶴嶺さんがテーブルにあったペーパーを束で取り出して渡してくれた。

 そのおかげで顔もテーブルも汚さずに済んだ。


「アスカが変なこと言うからみこっちが大変なことになったろ、謝罪しろ」

「ウチはみこっちの思っていることを代弁しただけだよ!」


 またもや対面で押し相撲が始まっていた。


「まさかみこっちに限って天城のことを——」


 そう言う鶴嶺さんだったが、私の顔を見ると言葉を失っていた。


「……みこっち、もしかして天城のこと」


 高田さんがここで蒼にぃの名前を出したのは単に隣の席だからなのだが 

 この時の私は自分の想っていることがバレたと勘違いしてしまっていた。


 鶴嶺さんは私の真っ赤になっている顔を見て驚いたようである。


 ……考えていることが顔にでてしまう自分が嫌だと思ってしまったのは言うまでもなかった。

 

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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!


もーいーくつねーるとー!

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