第24話


「……あれ?」


 ここはどこだ……?

 視線の先には見覚えのない天井が映っていた。

 辺りを見渡すと自分がいる部屋は広いが、なぜか敷布団で寝ている。いつもならベッドで寝ているはずだが……。


「ってそうだ……旅館だ」


 食事が終わって布団を敷いてもらってすぐに寝てしまったようだ。

 食べ過ぎで重いと感じていたお腹は落ち着いたようだ。


 部屋の中は真っ暗で静寂そのものだった。

 咲耶も寝ていると思うので夜遅い時間だろうとは思うけど……。


「……さすがにもう一回寝るのは厳しいか」


 目を閉じて、もう一度寝ようとしたが寝付くことはできなかった。


「少し起きて眠くなるのを待つか」


 体を起こそうとするが、片腕が重く感じて上手く起き上がることができなった。

 まさかと思い、かけてある布団を捲る。


「……やっぱりな」


 布団の中には重いと感じていた俺の腕を掴んでいる咲耶の姿があった。

 しっかり帯で締めていなかったのか、浴衣がはだけていた。

 部屋が暗いからはっきりとは見えないが、下着であろう生地が見えている。


 目を逸らしながらゆっくりと腕を上にあげて、咲耶の腕から離していく。

 

「うぅ……蒼にぃ」

 

 完全に抜けた直後に咲耶が声をあげる。


「起こしちゃったか……?」


 俺は咲耶に声をかけるが、咲耶は目を開けることなく、体をくの字に曲げ


「激しいのもいいけど、やっぱり優しい方が〜」


 寝言だった。

 ってかどんな夢を見ているんだ……。


 俺は布団からでると咲耶のはだけている箇所が見えないように首元まで布団をかけた。



 スマホをとって時間を確認するともうすぐ日があけるのではないかと思える時間だった。

 ざっと計算してもかなりの時間を寝てしまっていたようだ。

 

「気づかないうちに疲れてたんだな……」


 腕を上に伸ばしながら隣の部屋に移動して椅子に腰掛ける。

 窓のから外を見ると、空に無数に輝く星空が広がっていた。


「すごいな……」


 滅多に見ることのない景色に俺は声に出してしまっていた。

 地元はこんな星空を見るなんてできやしない。


「外に出てみるか」


 すぐに立ち上がり、テラスへと足を運ぶ。

 外にでると、時間も時間だが、海から風が来ているためか涼しく感じられた。

 日中の茹だるような暑さに比べれば、このぐらいがちょうどいいと思える。


 テラスにあるベンチへ腰掛ける。

 辺りが静かであるせいか、ザアァァという波の音が響いていた。

 

「なんか気持ちいいな……」


 

 暫く、ベンチに座ったまま波音に耳を傾けているとテラスのドアが開く音が聞こえてきた。

 ドアの奥には驚いた表情の咲耶が立っていた。

 俺が起こしちゃったかと聞くと、咲耶は驚きから安堵へと顔を変えていた。

 

「よかったぁ……蒼にぃいたよ」


 寝起きのためか、フラフラと歩きながら俺の隣に腰掛けると、そのまま俺の方に頭を傾ける。

 驚いたと同時に動き出したのか、先ほどと同じように浴衣が着崩れしており、今度ははっきりと薄色ピンクの下着が見えていた。


「……咲耶、浴衣乱れてるぞ」


 俺が目を逸らしつつ伝える。どうやら今まで気づかなかったようだ。

 確認するが、元に戻そうとはせず俺の顔をみていた。


「蒼にぃに見せるためにわざとだよ」

「……いいから直せ、みっともないぞ」

「別に蒼にぃに見られるならいいんだけどなぁ」

 

 咲耶はぶつぶつと何かを呟きながら直していく。

 大丈夫なのを確認すると再度体全体を俺の方に寄せる。


「眠いなら部屋に戻ってたらどうだ?」

「蒼にぃに寄り添っていたいの!」


 咲耶はしがみつくように俺の腕を組み始める。


「何か、夜中にこんな星空の下でしかも波音が聞こえてるのってすごくロマンチックだよね」

「たしかにな」

「今なら雰囲気に飲まれて何かするならウェルカムだよ?」

「何かって何だよ……」

「えー……それを女のほうから言わせるの? もしかして蒼にぃそういう趣味?」


 咲耶の話に俺はため息で返す。

 ロマンティックな雰囲気が音を立てて壊れてしまいそうだ。

 

「蒼にぃ」

「今度は何だ?」


 またどうせくだらないことを言うのだろうと思っていたので適当に返答していた。


「こうして蒼にぃと一緒にいられることが今の私にとって一番の幸せだよ」


 咲耶は下を向いて話す。


「何だかずいぶんと小さな幸せだな」

「小さくなんかないよ!」


 咲耶は声を強めて答えると俺の顔をじっと見ていた。


「柏葉美琴になってずっとずっと蒼にぃに会いたかったんだよ」


 天城咲耶の記憶があるから余計、いっそのこと咲耶の記憶が無くなってれば楽だったかと思えるぐらいと口にしていた。

 

「だから蒼にぃの顔を見た時はとても嬉しかった、嬉しすぎて蒼にぃを押し倒しちゃおうと思ったぐらい」

「……ぐらいじゃなくて実際にやっていただろ」


 俺が話すと、咲耶はそうだっけと言って俺から視線を逸らしていた。


「だからもう、蒼にぃと離れるなんて嫌……! 離れるぐらいなら——」

 

 俺は手を伸ばし、咲耶の肩に手を置いて俺の方へ引き寄せると驚いたのか咲耶の言葉が止まる。

 ……それ以上の言葉を咲耶の口から聞きたくなかったから咄嗟にでた行動だった。


「これからはずっと一緒だ」


 それは俺の本心だった。

 もう会えないと思っていたけど会うことができたんだ——

 大事にしていた妹に。

 

「あっ!」


 咲耶がふと遠くに向けて指を差しながら声を上げていた。

 その方向を見ると地平線から微かにだが太陽が昇ろうとしていた。


「きれい……!」


 少しずつ日が昇っていくと徐々に辺りが明るくなっていく。


「ねぇねぇ蒼にぃ」

「どうした?」

「洋画とかでこういうシーンをバックに主人公とヒロインが必ずといっていいほどあることするよね?」


 咲耶は立ち上がると、俺の手を引っ張ってきたのでそのまま立ち上がる。

 

「何だよそれ……?」

「ほら、ネットでも言われるでしょ? 『二人は幸せなキスをして終了』ってやつ」

「……つまり?」

「もう、蒼にぃは鈍チンすぎるよ!」


 咲耶は俺の体に抱きつくを顔を俺の方に向けてゆっくりと目を瞑る。


「誰がそんなことするか!」


 咲耶の言っている意味がわかると大声をあげて咲耶の体を引き離そうとする。


「やだああああ! 私は蒼にぃと幸せなキスをするのが一番の幸せなの!」

「さっきと言ってることが違ってるだろ!」


 新しい1日の静寂な空間で俺たちの叫びが辺りに響き渡っていた。


==================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!


お読みいただき誠にありがとうございます。

何か終わりそうな雰囲気だしてますが、まだまだまだ続きますよ!

 

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

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