第7話


「あ、蒼にぃ」


 咲耶が天城家に来てから1週間ほど経った、金曜日の夕方。

 帰宅するとすぐ私服に着替え、夕飯の準備のために台所に向かうと

 既に着替え終わっていた美琴……もとい、咲耶が椅子に座ってスマホを見ていた。


「どうした?」


 俺は夕飯の材料を見繕うために冷蔵庫の中を覗いていた。


「家からの荷物が明日の午前中に届くんだけど、蒼にぃ用事あったりする?」

「明日って土曜だろ? 何もなかったはず」


 冷蔵庫からベーコンと適当に野菜を取り出す。

 

「それなら荷解き手伝ってもらってもいい?」

「別にいいぞ」


 卵を3個ほど取ってから、体を使って冷蔵庫を閉めた。


「ホント! ありがとう蒼にぃ!」

 

 明日はたぶん家でゴロゴロしてるだけだと思うし、一緒に住むんだからそれぐらいはしておかないとな。

 

「じゃあお礼に、今日は蒼にぃの好きな服で添い寝してあげる!」

「そういうのは結構だ!」


 野菜を切りながら大声をあげる。

 

「あ、そっか! 下着だけのほうがいいんだね! わかったよ!」

 

 咲耶は閃いたと言わんばかりに手をポンと叩きながら声をあげる。


「わかってないだろ……」


 俺はボウルに取り出した具材を入れながらため息がでてしまう。

 


 ちなみにその夜、咲耶は宣言通り下着姿で俺の部屋にやってきたのはいうまでもない。

 必死の説得により服を着させることはできたものの、咲耶と一緒のベッドで寝ることまでは避けることはできなかったのである。


 

「柏葉美琴様宛のお荷物になりますー!」

 

 ドアホンには白いネコがトレードマークの帽子を被った業者の姿が映っていた。 

 午前中と聞いていたので、正午ぐらいかと思っていたのに、ずいぶん早くないか!?

 

 対応しようとおもっていたが、さすがにパジャマ姿で応対するのも気が引けたので

 

「咲耶、任せた!」


 既に着替え終わっていた咲耶に任せると……

 

「うん、いいよー」

 

 と快く引き受けてくれた。

 

 咲耶が応対するとすぐに業者が荷物を咲耶の部屋まで運び始めた。


「とりあえず、その間に朝飯作っておくか……」

 


 1時間ほどで荷物の搬入が終わり、業者は足早に帰って行った。

 遅めの朝食を取るとすぐに咲耶の部屋に向かう。


「……思っていた以上に多いな」


 部屋に入ると目についたのは部屋の大半を占める白いダンボール。

 机や本棚は先週の休日、父親が珍しく休みだったので車をだしてもらった際に購入済みだ。

 

 ……何もないと広いと思ったが、荷物が増えると狭く感じてくるな。


「とりあえず始めるとするか」

「うん!」


 目についた段ボールを開けていくと、中身はデスクトップ型のPC。


「PCは机でいいんだよな?」

「うん!」


 咲耶は段ボールに入っていた本を本棚の中にしまっていく。

 タイトルを見ると全て日本語以外の文字で書かれていた。


 デスクトップ筐体を机の上に置いて、キーボードとマウスを設置してから配線をしていく。

 咲耶の許可をもらって起動させて問題ないことを確認する。


「……ってか随分いい性能のPCだな」


 スペックを確認すると、グラフィック重視のゲームや動画編集などができそうなぐらいの性能をしていた。


「……俺もそろそろPC変えるかな」


 俺のは父親が新しく買ったのでそのお下がりだ。

 翔太曰く、それでも充分ゲームが最高品質でプレイできるぐらいのスペックだと話していたな。

 ……かと言ってゲームをしようとは思わないが。


 ダンボールをまとめれるように折りたたんでから、次のダンボールを開けたのはいいが……。

 

「……咲耶、これ任せた」


 そのまま後ろにいる咲耶の方へスライドさせた。


「どうしたの蒼にぃ?」


 不思議そうな表情でスライドしてきたダンボールを開ける咲耶。


「あ、やっとでてきた!」


 ダンボールの中身を見て喜びの声をあげていた。

 中身は咲耶の衣類だった。それだけなら良かったんだが……。


「ねぇねぇ蒼にぃ、これどう思う?」


 声のする方に顔を向けると、咲耶は黒い下着を自分の胸元にあてていた。

 しかもニヤニヤと俺を揶揄うような表情をしていた。


「そんなこと俺に聞くなぁぁぁぁ!」

「蒼にぃがそういうってことは似合ってるってことだね、ヨシ!今日はこれで布団に入ってあげるね!」


 咲耶は小さくガッツポーズをしていた。



「さてと、これが最後のダンボールか」


 そう呟きながらダンボールの口を開けていくと中には……。


「……マイクロフォンにポップフィルター、ショックマウントとヘッドフォン」


 動画配信でよく見かける機材が中に入っていた。

 見た感じ、動画サイトの有名な歌い手たちに人気のあるメーカー製だ。


「咲耶、動画配信でもやってたのか?」


 開けたダンボールを畳んでいる咲耶に向けて声をかける。


「あー……それ?」


 咲耶は機材を指差す。


「興味があってやろうとしてたんだけど、難しくてやめちゃったんだよ」


 咲耶は気まずそうな顔をして自分の頬をかいていた。


「ってもったいな、結構しただろコレ」

「値段はわからないよ、お父さんが買ってきたものだし」


 ……マジかよ。


 

 荷解きが終わると俺は部屋に戻り、夕飯まで時間があったのでコードレスヘッドフォンをかけてPCから音楽を流す。

 流れてくるのはある歌手のカバー曲。歌っているのは動画サイトで活躍している歌い手『398《ミクヤ》』だ。


 歌い方や声が好きで、出始めの頃からずっと聞いていたが、最近になって配信が止まっていまっていた。

 ……プライベートが忙しくなったか、何かしらの理由があって活動を辞めたのか定かではないが、悲しい限りである。


「蒼にぃー!」


 ドアを開けると同時に俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「そろそろお腹がすい……」


 PCの画面をみた咲耶は驚いた顔をしていた。


「どうした?」

「……蒼にぃ、その歌い手さん知ってたんだと思って……」

「まあな、出始めの頃からずっと聞いているぞ」

「う、うそ! ホント!?」


 咲耶は目を大きく開いて驚いていた。

 そんなに意外なことなのか??


「って、それより何か用があったんじゃないのか?」

「そうだよ、お腹空いた! って言いにきたんだよ!」


 PCの画面で時間を見るが、いつもより少し早い気がするが……。

 今日はずっと部屋のことで動いていたから仕方ないか。


「しょうがない、そろそろ準備するか」

「わーい! 今日は特盛サイズでも充分いける気がする」

「……マジかよ」


 ちなみに咲耶はいつもご飯大盛りで食べている。

 軽くでも動いたから相当お腹が空いたのだろうか……。


「……蒼にぃ、聞いてくれていたんだ」


 部屋を出ようとすると、咲耶が何かを呟いていた。


「何か言ったか?」

「ううん! 今日の夕飯は何だろうなって言ってんだよ!」


 どんだけ食い意地はってんだ……と心の中で思いながら階段を下りていった。


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もどうぞ、お楽しみに!

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