第5話


「編入生?」

「そう、しかも帰国子女だって話だぜ! こりゃ絶対に美人に違いないだろ!」


 翔太はグイグイと俺に顔を近づけながら興奮気味に話していた。

 

「だからって女と決めつけるのはどうなんだ?」

「え? 帰国子『女』っては女を指す言葉だろ?」


 翔太の話に俺は頭を抱え込んでしまった。

 

「え? 俺なんか変なこと言った?」


 首を傾げる翔太。

 俺は黙々と検索したページを翔太に見せる。


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 『帰国子女』

 親の仕事の都合などで長年海外で過ごして帰国した子供。


 子女」の「子」は「息子」と言う意味で。「女」は「娘」という意味を持っています。

 つまり「帰国子女」は「帰国した息子や娘」という意味になります。

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「な、なんだってー!?」


 後ろにのけぞりながら大声で騒ぐ翔太。


「じゃ、じゃあ……もしかしたら編入生が男って可能性も!?」

「充分にありえるだろうな」

「マジかよ、俺もう今日帰って家に引き篭もるわ」

「じゃあな、日誌に『静原くんは帰国子女の意味を知ったショックでサボりました』って書いとくわ」

「文章で残すのやめてくれない!? ってか止めろよ!」


 そう言って翔太は肩を落としながら自分の席に戻っていった。


 気がつけば教室内にクラスメイトが登校しており、どこから聞いたのかわからないが

 翔太と同じく、クラス中、編入生の話題で盛り上がっていた。


 

 始業を告げるチャイムが鳴り出すと、クラスメイトたちは自分たちの席についていった。

 それからしばらくしてに担任が教室に入ってきた。


「どうせおまえらのことだから耳に入ってると思うが、今日このクラスに編入生がやってくるぞ」


 担任の言葉に教室内がドッと騒がしくなった。


「せんせー! もちろん編入生って女の子ですよね!!」


 クラスの目立ちたがり屋の男子が大声で担任に聞くと担任は呆れたと言った表情で


「あぁ、そうだな。 喜べ男子共」

「いやったあぁぁぁぁぁぁ!」


 なんか数人の男子でウェーブまで作ってんだが……。

 そこまで嬉しいのか!?


「そろそろ黙れおまえら、そんなんじゃ編入生が入りづらいだろうが」


 ため息をつきながら、入口のドアを開けて教室の外にでる担任。

 すぐに教室の中に戻ってきた。

 そしてその後ろには——


「え……!?」


 俺は担任の後ろを歩く編入生の姿を見て、驚きの声を上げる。

 ……と、言っても一部の男子の叫び声でかき消されたが。


「えーっと……それじゃ大きな声で名前を言ってもらえるかな」

「はい!」


 担任が黒板に編入生の名前を書くと同時に自己紹介を始める。


 柏葉美琴です。 みなさん宜しくお願いします!」


 咲耶……ではなく美琴が名前を言うと同時に頭を下げる。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 その姿を見て、クラスの男子と女子は大歓声をあげていた。

 その中でただ一人俺は頭を抱える。



「えっと席は……お、天城の隣が空いてるからそこでいいか」


 担任は俺のいる方を見て話していた。

 ってか決まってなかったのかよ!


「はい、わかりました!」


 美琴は元気な声で返事をすると、そのまま席へと向かった。

 そして、俺の席の前に立ち……


「宜しくね、天城くん!」


 わざとらしく俺の名前を呼ぶと椅子に座った。


「マジかよ、天城のやつ羨ましすぎだろ!?」

「休み時間になったら真っ先に話しかけに行こうぜ!」

「ってか彼氏とかいるのか、いなかったら俺が……!」

「おいコラ、抜け駆けはゆるさねえぞ!」


 男子共の熱気のような視線が俺に降り注いでいるんだけど……

 美琴はそれに気づくわけもなく椅子に座ると俺の方をじっとみていた。


「びっくりした……?」

 

 美琴は小声で話しかけてくる。


「そうだな、おかげで今日の日誌のネタに困ることはなさそうだ……」

「何それ?」

 

 ふとポケットの中が震え出したので、中にあるスマホを担任に見つからないように取り出してみると翔太からLIMEメッセージが届いていた。


 Shota.S

『この裏切り者! お前には一生苦しむ呪いをかけてやる!』


 そう言って翔太は黒いローブを着た女の子が呪文を唱えてるスタンプを送ってきた。

 それならとお返しに少し前に上映されたホラー映画のスタンプを翔太に向けて送信する。


「うぎゃああああああ! こええええええええ!」


 スマホの画面をみていた翔太が叫び出していた。


「おい、静原! スマホ没収するぞ」

 


「『人間は考える葦である』これはフランスの哲学者であるパスカルの言葉で……葦というのは」


 本日最初の授業が始まった。

 チラチラとこちらを見てくる男子共の視線に耐えながら黒板に書かれた内容をノートに書き留めていく。


「ねぇ、天城くん」


 隣に座る美琴が小さな声で俺の名前を呼ぶ。


「……どうした?」

「教科書まだないから見せてもらっていい?」

「そっか、まだ教科書届いてないのか」


 そう言って俺は教科書を見せるために俺と美琴の机をくっつけ、その間に教科書を置く。


「ありがとう!」


 それだけならよかったんだが、しばらくして……。


「なあ……?」

「どうしたの?」

「何で肩を俺の方に寄せているんだ?」


 美琴は俺の方に肩を寄せて教科書を見ていた。

 おかげでさっきから美琴の肩と吐息がよく当たるわけで。


「えー、だってこうでもしないと見れないでしょ?」

 

 そう言いながらさらに肩を寄せる美琴。

 近すぎなせいか、彼女の髪が俺の鼻にあたり、ほどよい香りが鼻腔を刺激していた。


 おかげでさっきからこちらを見る視線がさらに増えているんだけど……。

 ってか……今パキって何かが折れる音までしたような気がするんだけど!?


 うまく美琴に伝えることができなかったので、美琴の行動と男子の視線に耐えながら

 最初の授業をうまく乗り切っていくことに。


「辛すぎる……」


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もどうぞ、お楽しみに!

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