あこがれの女教師は娼婦(その31)

エリカは1週間だけ実家に滞在して、日曜日の夜の便でニューヨークへもどることになっていた。

同級会のあった日の翌朝から、長いこと車庫に眠っていた父親のオンボロ車を引っ張り出し、エリカの実家の斜め前の路地に停め、病院と実家の入口を見張った。

エリカはすぐにオンボロ車に気がついて、コーヒーをなみなみと注いだマグカップを持って来て車のガラス窓を叩いた。

翌日には、二階の自室に招き入れ、ニューヨークの医科大の同級生が昨夜送って来たというカリフォルニアの猟奇的連続殺人事件の捜査資料を、PCの大きなモニターで見せてくれた。

生々しい殺人現場の写真を見て、胃の中のものをぜんぶ吐き出しそうになった。

東京での事件のように、モーテルのベッドに仰向けに横たわる娼婦は、上半身は着衣のまま、スカートはお腹の上までたくし上げられ、股間がむき出しになっていた。

「犯人は銃口を女の口に咥えさせてことに及んだ後に拳銃を発射して殺し、そのあと性器を切り刻んだ。拳銃にはサイレンサーがついていたので、発射音は隣の部屋には届かなかった」

エリカは平静を装って、グロテスクな何枚もの写真を早送りしながら、友人のコメントを読み上げた。

「殺害状況はだいたい同じだけど、東京では、拳銃ではなくナイフで喉を真一文字に切っていた」

それに東京では性交後に殺したのかどうかは情報がないと、こちらも機械的に知っている情報を伝えた。

「もし、犯人が森本なら、娼婦と性交をするのは彼の信じる宗教の教義に反するよね」

と問いただすと、

「ああ、あれは異端も異端。KKKみたいな白人至上主義のインチキ宗教よ」

森本の宗教の話をすると、エリカは憤慨した。

これ以上こんなグロテスクな話をエリカとしたくなかったので、車にもどろうとすると、

「本気で守ってくれるなら、この部屋にいっしょにいてもいいのよ。それなら私も安心」

エリカは引き留めた。

「いやあ・・・」

妙にどぎまぎしたので、逃げるようにして階段を駆け下り、オンボロ車にもどった。

事情を聞いたエリカの父親は、交番に行って夜間の特別巡回を頼み、警備保障会社にはアラームシステムを強化するよう要請した。

日が暮れて家に帰ると、封書が届いていた。

「8ヒ20ジDサカ」

4年前と同じ白い封筒に定規とボールペンで宛名が書かれ、同じレポート用紙を切り取った紙片に同じように金釘のような文字が躍っていた。


「奴は、連日連夜盛り場をうろついて女を漁っているようだが、今のところは不漁だ」

携帯に電話をすると、すぐに脇坂は森本の動向を伝えた。

「ああ、4年ぶりの殺人予告か」

手紙が届いたことには、呆れたような口ぶりで答えた。

「『8ヒ20ジ』って、川崎さんがニューヨークへ帰る日曜日の便の出発時刻と同じではないか」

「森本はそれを知っていて、D坂の娼婦の殺人予告をしたのか?川崎くんのことを諦めて、再びそっちに走ったということ?」

「いや、陽動作戦かもしれんぞ」

脇坂は慎重だった。

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