幕間

「どこに行ったんだよ」


 シンは苛立った言葉を吐き出す。


 ライラがハーレムから出たと門番から連絡があった。それなのに、シンはライラの姿を見つけられないでいた。親でもあり部下でもあるザルツにも命じて、王宮内を捜索させているが、ライラは煙のように消えてしまった。


「ザルツ、見つかったか?」


 祈るような気持ちで報告を促す。けれど、ザルツは苦い表情を浮かべ、首を振るだけだ。

 ライラには第七王子からの命が届いているはずだ。だから、自分に会いに来てくれるのではと、最後の希望を抱いていた。けれど、今のシンは頭を抱えて座り込むしか出来ない。


「ライラの……強制なんかじゃない、本当の気持ちが知りたかっただけなんだ……」


 だからシンは待った。その結果がこれだというのか。


 何者かに拉致されたとしたら命の保証はない。王子から求めがあったライラを、邪魔に思っている者が犯人なら尚更だ。だが、もし王子の求めが嫌で王宮内から逃げだしたのなら、王子への裏切り行為として裁かれるだろう。この可能性は限りなくゼロだろうとは思うが。ライラの性格を考えると、ただ逃げ出すという選択をするとは思えないからだ。


 でも、いなくなったのは事実だ。早く見つけなくてはとシンは焦る。


「シン様、追い打ちをかけるようなことは言いたくないのですが」


 ザルツが言いにくそうに視線をさまよわせている。


「何だよ、早く言えって」


 苛立ちに任せて急かすが、それでもザルツは言いあぐねている様子だ。


「命令だ、報告しろ」


 シンが声を張ると、ザルツがぴくりと反応する。そしてため息を吐くと、シンの方を真っ直ぐに見た。


「報告します。ライラ嬢の弟君と妹君達が、王都内の路地で失踪しました」

「……なんだって?」

「だから、王宮に向かっていたサリム君たちが、いなくなっ――」


 シンは、思わずザルツの胸倉を掴みあげていた。


「バカ言うな! 護衛は? ちゃんと付けてたんだろ」

「付けてたさ。でも裏切られた……。古狸も一人一人ならどうとでもなるが、結託されたらさすがに手に負えない。シン、新参者の俺たちにはまだ敵が多い」

「古狸どもが結託だ? 何のための権力だよ。肝心なときに言うこと聞かせられなくて、何の役にも立たねぇじゃねえか!」


 シンはザルツから手を離すと、思い切り壁を拳で殴った。鈍い痛みが走る。けれど、そんなことではこの憤りは治まらない。


 するとシンの元に、疲れた様子で近づいてくる人物がいた。


「すみません……少し、お話よろしいでしょうか」

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