第21話~深夜清掃パート編(2022年12月16日のお話)勤務二日目~

2022年12月25日更新


今日は初日の勤務の疲れが取れず、おそらく体内時計が狂ったせいにより頭のボケが取れず眠気が消えずにいた。昼間ずっと眠っていてとうとう太陽の光を見ることはなかった。出勤する23:00に妻に起こしてもらった。

慌てて支度をし会社に着き、深夜0:00になり、その日の清掃担当者が一堂に会し、顔を合わせ、各担当の持ち場が発表される。そして体操が始まる。「1,2,3」と声を合わしながら体操やストレッチをしていく。


今日の私の業務内容は、先輩二人と私の三人で定期清掃という共用部の掃除を行う。まずは3階から地下1階までの各階の上下のエスカレーターの除塵を行う。手すりの装着部分のデッキガードと呼ばれる部分に長い棒状の埃取りの道具を手で持って当て、そのまま擦り付けながらエスカレーターを上り下りする。3階から降りて地下1階まで下りのエスカレーターのデッキガードの埃を取る。地下一階まで降りたら今度は3階まで一気に登って埃を取る。これがかなり足腰を使う。一気に汗が噴き出す。


その次は一変する。一階の吹き抜け部分の買い物客や駅を利用する人達が通行する共用部分の通路の清掃。冷たい風にさらされる。先輩がまず除塵をする。そしてポリッシャー機械で汚れを浮かせた後に私がモップがけをする流れ。深夜1時過ぎくらいだが、人通りが結構ある。

モップがけしてやっと綺麗にした通路を通行人は容赦なく歩いて足跡を残していく。先輩からは「やり直し~」と言われ、少しイラっとしながら再度同じ個所をモップ掛けする。


過去を思い出した。清掃のおじさんやおばさんが掃除した箇所を何のためらいもなく歩いていた自分を思い出した。人間いつか同じ目に遭わされるのだと痛感した。


深夜2;15から30分間休憩した。三人でタバコを吹かしながら世間話をした。私が結婚して子供が二人いると言うと、みんな一様に驚いていた。

一人の先輩がジョギングをしていると言った。しかも勤務が終了した後、帰宅してすぐに20キロ走るという。

「夜勤明けで走るのは凄いですね。とても真似できませんよ」と褒めた。

気になっていた事を聞いてみた。

「昨日トイレ掃除をしていたんですけど、吐しゃ物を掃除することはないですよね?」。

「あるよ」と年配の男性が陽気にあっさり言った。

「そういうので時々呼ばれるけど、慣れてくるよ!あはは」と笑っていたが、とても笑えなかった。


今日は体調不良で休んだ人がいた。その埋め合わせを社員は自分の休憩時間を削ってフォローに当てる。社員になりたくないと思った。毎日、いつ辞めるか分からないパート従業員を管理し、急に欠勤されたら自分の休憩時間を削り、勤務時間が長くなり肉体も酷使されるだろう。

私はこのパートの仕事をいつまでやるんだろうと現実を考え出してしまった。とにかく、今はそんな事を考えるな。まだ始まったばかりだ。仕事に集中しろと自分に言い聞かせた。仕事を辞める癖を直すために来たのだ。


休憩の後、商業施設の中に入り、テナントのフロアについている汚れ(ヒール痕)を除去する作業をした。作業靴のつま先に布製の道具をつけ、洗剤を軽くスプレーする。それで床を踏みつけ、つま先やかかとに力を込めて擦るとヒール痕は取れる。最初は楽な作業だと思っていたが、下を向きながら腰を使って、常に力強く踏んづける体勢を強いられる。これが地味だが腰に負担がかかる。1時間作業をしたが、一気に腰砕け状態になった。


最後は使った機械や道具類を倉庫でクリーニングして終わる。仕事はきついが早く終わればその分休憩を多く取らせてもらえるのでありがたかった。契約では実働7時間の休憩90分だが、今日は2時間30分も休憩があった。


朝になり仕事を終え、地下2階の事務所から暗い階段を上り外に出た時、やっとシャバに出られたような解放感を味わえる。まだ入社したばかりなので明日は一日休みだ。心の余裕からコーヒーショップに入った。


一昨日、河童先輩から頂いた手作り作業マニュアルを見返した。

よく見ると「ガンバレ」の文字が手書きされている事に気付いた。


人の優しさって嬉しいなと感じた。また次の出勤日は頑張ろうと思った。

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