第30話

「体の使い方はなってないが、目がいい。かなり鍛え込んでこんいるな」

「こちとら弾幕ゲームで鍛えた力をロリババアに実戦形式で試し打ちされてるからな!!回避だけは一丁前よ」


 俺は魔法と剣の連鎖攻撃を躱す。


 大口を叩いているが、逆に言えば回避しか出来ていない状況。


 爆炎剣を取り出す暇すら与えてくれない。


 その上こいつ、絶対本気を出してない。


「舐めプしてると本気出しちゃうよ?」

「なら是非出してくれ。最近はこっちも色々疲れてんだ」


 言葉とは裏腹に、鋭い一撃が何度も来る。


 こいつ、強いな。


「ところで何で不法侵入なんかするんだ?犯罪者なら速攻で捕まえるが、そんな雰囲気じゃ無さそうだし」

「こっちは呼ばれた場所がここだったんだよ!!わけも分からず来たらこんな仕打ちはあんまりじゃないか!!」


 浅い傷が出来る。


 イテェ〜


「そりゃ可哀想だ。だがこっちも仕事でな、お前を捕まえなきゃいけないことになってる」

「そうですか!!お勤めご苦労様ですね!!」

「そういう小さな言葉が、今の俺には染み渡るんだ」


 なんか涙を浮かべているが、攻撃の手は緩まるどころか加速する。


 何がムカつくって、手加減されてることもだがそれ以上に


「俺が弱いという事実だ」


 悔しい。


 最強だと自惚れたつもりはないが、こんな道端にいる相手にすら手加減されるなんて状況が悔しくて仕方ない。


「このままじゃ嫌なんだよ」


 俺が弱いことは認める。


 だが、ここで何も出来ずにボコボコにされるなんてことは、努力した俺に、鍛えてくれた師匠に申し訳が立たない。


 だから


「一矢報いてやんよ!!」

「お」


 爆炎剣を抜く。


 代わりに魔法が直撃する。


 全身に痛みと鈍い衝撃が走る。


 目の前がチカチカし、軽く意識が飛ぶ。


 だが


「慣れてんだよ!!」


 悪いがこちとら痛み、苦しみに関してはスペシャリストなもんでな!!


「死ねやボケカスゥウウウウウウウウウウ!!」


 俺は渾身の一撃をお見舞いする。


 完全に虚を捉えた一撃だった。


 そして見事に


「いいな」


 剣一本で簡単に止められる。


「いいなお前!!めちゃくちゃいい!!」


 騎士の男が突然笑い出す。


 そして俺は力尽き、地面に倒れる。


「最近全く手応えのある奴がいなくてな。お前みたいな奴がずっと欲しかったんだ」

「そりゃ……どうも……」


 騎士は腰の方から手錠に似た何かを取り出す。


「安心しろ、お前の無罪は俺が勝ちとってやる。釈放されたら騎士にならないか?」


 今までの死んだ目とは一転、キラキラした瞳で俺に手錠をかける男。


 そんな騎士の勧誘を断る声が一つ。


「そいつはいかんのぉ〜。このバカには拷問した後に儂の元で色々と仕込むつもりなんじゃ」

「グヘッ」


 空から舞い降りた幼女が俺の腹に座る。


「もしや……ライネット様?」

「久しぶりじゃの、ケイン。剣の腕は上がったようじゃな」

「は、はい!!」


 先程までの気怠げな態度が切り替わり、姿勢を正す騎士。


「何?師匠この人と知り合いなの?」

「し、師匠!!」

「悲しいことにこやつは儂の弟子じゃ。弱くてビックリじゃろ」

「おい師匠。あんたの可愛い弟子がこんなボロボロになって頑張ったのにその言い草はなくないか?」

「確かに弱かったですが」

「おい!!」

「何か、他にはない強みを感じました。ただの強さだけでは測れない、一本の軸が」


 おお、凄いな。


 一瞬で俺の素養に気付いちまったのか。


 抽象的過ぎて何言ってるか全く分からんが。


「気付いたか」


 師匠分かり手みたいな顔してるけど、ホントに分かってる?


 適当言ってない?


「さてバカ弟子。なんとなく雰囲気は掴んだかの?」

「なんだ雰囲気って?敗北の味的な?」

「何故主をここに連れて来たのかまだ気付いておらんのか?」

「知らん!!」

「全く」


 師匠は俺の腹から飛び降りる。


「ここはカース学園。魔法や剣技を始めとした、戦いに特化したことを学ぶ場所じゃ」


 学園。


 前の世界では馴染みのなかった言葉だ。


「もしかして俺、ここに通うのか?」

「もしかしなくてもそうじゃな」


 初耳なんだが?


「儂は魔法に関して天才、最強、敵なしじゃが」


 実際師匠の魔法がヤバいことは知ってるが、ここまで言うと腹立つな。


「主を鍛えるにはそれじゃダメじゃ。全てをねじ伏せる肉体、あらゆる手段を嘲笑う技術、敵を翻弄する知識。これが今の主に必要なものじゃ」


 師匠が視線を向ける。


「先程戦ったこやつが、この学園の上澄みじゃ」

「どうも」


 騎士はペコリと頭を下げる。


 俺も一応頭を下げた。


「そして主には、こやつを倒すくらいには強くなってもらわねば困る」


 師匠は回復薬を取り出す。


「この学園で学び、鍛え、成長するんじゃ。それが次に与える課題とする」


 俺は回復薬を手に取り


「上等だよ。俺に止まる選択はねぇ」


 俺は赤髪の少女を思い出す。


 彼女に追いつくため。


 隣に立って、一緒に冒険をする為に。


 そして俺の知るあの子に真の意味で並び立つには、その程度じゃ足りない。


 俺が目指すべきは


「トップだ師匠」


 俺は回復薬を飲む。


「俺は必ず、この学園の頂点に立ってみせる。異論はないだろ?」

「カカっ、それでこそ我が弟子じゃ」


 師匠は笑いながら俺の手に何かを乗せる。


「それならこれも安心して渡せるの」

「……へ?」


 俺の手には、どこかで見たことのある指輪が九つ乗っていた。


「王都に来た理由の一つがこれじゃな」


 何かの起動音がし、俺の指に固定される。


「ノルマが……10倍……」

「さて、今日はしっかりとノルマをこなしたのかの?」

「まさか、今からこれを全部?」


 師匠は腹を抱えて笑う。


「死んでこいバカ弟子。この程度で諦めるようじゃトップなんぞ夢のまた夢じゃぞ?」

「絶対いつかぶん殴ってやるからな!!」


 そして俺は夕日ではなく、90キロという意味の分からない距離に向かって走り出したのだった。


「久方ぶりに下りて来た理由はあれですか?」

「ん?いやいや、例の回復薬が大量に作れての。そろそろ戻るかと思ってたところ、更に面白いものが見つかっての」


 ネネは笑みを浮かべる。


「楽しそうで何よりです」

「なんじゃ、大人になりおって。最後に会った時はこんな小っこかったろうに」

「逆にライネット様は変わらずですね」

「まぁの」


 ネネは過去を思い出す。


「やはりあの力は恐ろしいものじゃな」

「……そういえば、セイバー様にはお会いに?」

「相変わらずじゃの、あやつは。会って早々儂と戦おうとするバカはあやつくらいじゃ」

「さすがセイバー様ですね。世界であなた様と正面から戦えるのはあの方だけでしょう」

「ま、そんな儂らも英雄の力の前じゃ無力じゃ。少しだけ悲しいの」

「英雄の力……すみません、少し勉強不足でして」


 申し訳なさそうにするケインをネネは訝しむ。


「やはり、主もか……」

「?」

「おそらく何か裏があるの」


 ネネはどこからともなく大量の資料を引っ張り出す。


「杞憂でないといいんんじゃがな」



 ◇◆◇◆



「999……1000」


 かなり遅い時間に、よくやくノルマを達成させる。


「無理だ。これを毎日とか死ねって言ってるようなもんだろ……」


 俺はボロボロな状態で家に帰る。


「あ、お帰りなさい」

「何かあったの?」


 家に帰ると、エプロン姿の凛と心配した様子の芽依が迎えてくれた。


「な、なんだ!!回復薬を飲んでいないはずなのに、体にみるみる力が湧いてくる!!」


 今なら第三の目すら開眼出来そうだ。


「……いつも通りでよかった」

「ご飯出来てますが、先にお風呂沸かしてきますね」

「お、おう。ありがとう」


 安心して読書タイムに戻る芽依と、俺の為に風呂の準備までしてくれる凛。


「なんか違くないか?」


 おかしい。


 俺はもっと殺伐とした世界に来ていた筈だ。


 呪いだとかモンスターだとか、そんなシリアス方面が売りじゃなかったのか?(一番のシリアスキラー)


 それがこんな……


 こんな……


「日常系みたいになってしまうなんて……」

「文清君どうしたんでしょう?」

「いつもの持病」


 違う、俺の生きる世界はこんなんじゃない!!


 もっと、もっと暗い感じの方が俺は好みなんだ!!


 ダークファンタジー系が俺は好きなんだよ!!


「芽依!!」

「何?」

「凛!!」

「何でしょう?」

「勝負だ!!」


 俺は二人に襲い掛かる。


 だが二人は特に動揺することもなく


「ん」


 芽依が手を前に出すと


「グヘッ」


 全身の力が一気に抜け落ちる。


「少々お待ち下さい。まだ慣れていないので」


 凛は少し息を吐き


「文清君、大人しくお風呂に行ってくださいね」


 俺の体が勝手に動き始める。


「ど、どういうことだ!!凛の呪いは克服したはず!!」

「あんなもの力を抑えただけ」

「普段は力を抑えようと必死でしたが、こうして呪いを強めようと試みたのは初めてです」


 その後俺は風呂から上がり、めちゃくちゃ美味い料理を食わされ、大人しく部屋で眠ったのだった。


「やっぱり日常系は最高だぜ!!」

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