第17話

 昼ドラが始まったと錯覚したが、俺は別に不貞を働いたわけじゃない。


 ただ、とある女の子をキープしながら、他の女の子とくっついただけのこと。


 全くもって問題はない筈だ!!(開き直り)


「詳しく聞かせてもらおうかな!!」


 グイグイと近くに寄ってくる愛菜。


 それに反して、俺の後ろに隠れる芽依。


「明るい人、怖い」

「間接的に俺のこと暗い人間って言った?」

「話聞いてるの!!」


 後ろからの呪いと、前からの圧によって息が出来なくなる。


 何これ怖い。


「せ、説明も何も、俺が誰とパーティーを組むのかなんて俺の自由だろ?」

「あ、バカだ」


 後ろからボソッと声がした。


 それと同時に、愛菜の顔がドンドン赤くなる。


「もう知らない!!文清なんて…えっと……なんか嫌なことが起きちゃえ!!」


 そのまま愛菜は走り去ってしまう。


「……俺、またなんかやっちゃいました?」

「バカやった」


 また対人能力の低さが露天してしまった。


「私が言うのもあれだけど、もう少し人の気持ちを考えた方がいいと思う」

「ごもっともで」


 でも分からんものは分からん。


 とりあえず謝りたいが、何を謝ればいいかも分からない。


 勉強のどこが分からないか分からない状態だ。


 だって俺はCランクの前にはパーティーは解散すると決めているわけで、約束を破ったつもりはない。


「私は事情をよく知らないけど、パーティーを組むと約束した人が一時的とはいえ、他のパーティーに入るのは頭では分かっても心がモヤモヤすると思う」


 久しぶりに芽依が饒舌に喋ったかと思えば、かなり的を得たような発言をする。


「なんにせよ、私のせいでごめん」

「いやさすがに悪いのは俺だろ。まさかこんなことになるなんてな」


 しかも何がまずいって


「あれ、例の……」

「本当にあれと一緒に……」


 周りからコソコソと声が聞こえてくる。


「変な噂が立たないといいんだがな」


 俺は少し先の未来に憂鬱になりながらも、とりあえず芽依と冒険に向かった。



 ◇◆◇◆



「本当に魔力が無いの?」


 芽依にそう言わしめる程、俺の成長は著しいものだった。


「俺、凄い?」

「うん、凄い」

「おぉ」


 いつも毒を吐く彼女が素直に賞賛してくれた。


 これは自惚れでなく、本当に凄いってことだ。


「多分一般人よりも全然弱いけど」

「ウグっ」

「それでも、魔力無しの人と比べると桁違い」


 どうやらこの爆炎剣がかなり優秀らしく、実力でいえば俺はD級の真ん中くらいの強さはあるらしい。


「芽依は人付き合いがないのに、他の冒険者の実力とか魔力無しの力量が分かるんだな」

「ウッ」


 芽依も俺のように心臓を抑える。


 もしかしてボッチ気にしてたりするの?


「わ、私はこれでもA級だから。モンスターの集団討伐とかで、他の人の動きを見ることがある」

「なるほど」

「魔力無しは、文献では少なくともゴブリンに手こずるって話だから、それと比べただけ」

「なんか、俺よりも年下なのにホントしっかりしてるな」

「清がダメなだけじゃない?」


 そんな気もしてきたが、俺の心の平穏を保つために芽依が凄いということにしておこう。


「それにしても、依頼のオーク見つからないな」

「でも、倒した分は報酬になる」

「ま、そうだな」


 依頼をする道中で倒したモンスターがいた場合、そいつらを倒した証拠をギルドに持っていくと少額だが報酬が出る。


 もし受けていない依頼のモンスターとかを倒した場合、依頼を受けた人と半分で山分けになったりもする。


 それからレアモンスターの素材とかも高く売れたりする為、モンスターは見つけたら狩っておくといい小遣い稼ぎになるのだ。


「でもゴブリンの素材なんて溢れ過ぎて買い取ってもらえないし、効率悪いんだよな」


 ゴブリン一匹から取れるお金は、せいぜい銅貨一枚くらい(日本なら大体百円くらい)。


 10分に一体倒しても時給六百円は渋過ぎるな。


「オーク、オーク、早く出て来い」

「この前負けたくせに」

「ふふん、あれから俺も成長したんでな。今度は圧勝してやるよ」


 ウッキウキで歩いていると


「右」

「みーー」


 思いっきり吹っ飛ばされる。


「これが圧勝する人の最初の景色ね」

「うっせぇ!!てか気付いてたならもっと早く言ってくれよ!!」

「言ったでしょ、私はあくまで清が死なないように見てるだけって」

「ウギギ」


 俺の横腹にクリーンヒットさせたオークが現れる。


「リベンジマッチじゃボケカスゥ」


 怪我は師匠の回復薬で数日で治ったとはいえ、あの痛みは忘れられない。


「あれから俺も色々鍛えたもんでな。今度はお前にもあの苦しみを味わってもらうぜ」


 相変わらずの大振りで攻撃をするオーク。


 あの時よりも軽く躱す。


 そして隙だらけの腹に剣を


「おりゃ!!」


 ぶち込まず、敢えて掠らせる。


 オークは痛そうな顔をするが、特に致命傷ではない為構わず攻撃する。


「ほらほら来いよ」


 俺は攻撃を躱しつつ、何度もオークの体に傷を増やす。


 もしオークに直接攻撃すれば、前のように筋肉で剣を奪われてしまうだろう。


 だからこそ、筋肉の手前くらいを攻撃し続け、爆炎剣を保持し続ける。


 このままではお互いにジリ貧だが


「おやおや?動きが鈍くなってきましたなぁ」


 持久戦となれば、出血量の多いオークが不利になるのは一目瞭然である。


「これぞ必殺、劣化芽依アタックだ!!」

「ダサい技名に私の名前使わないで」


 芽依の呪いのように、オークの動きは鈍くなり次第に呼吸も荒くなっている。


 生命の源である血液を失えばそうなるよなぁ。


「グヘヘ、このまま決着だぜ」

「どっちがモンスターか分かったものじゃない」


 そしてオークの決死の一撃が飛んでくる。


 これを回避すればおそらく俺の


「むむ!!」


 ここで俺はなんとなく後ろを切りつける。


「グギャアアアアアアアアアアア」

「ゴブリンか」


 あの時のように、背後を取っていたゴブリン。


 今回はなんとか倒すことができたが、このままではオークの攻撃に当たってしまう。


 だが、今から回避は間に合わない。


 なら


「死なば諸共アタック!!」


 ゴブリンを切り裂いた勢いをそのままに、オークへと剣を振りかざす。


 そして


「俺の勝ちだ」


 先に攻撃が命中した俺は、そのままオークの内臓を切り裂く。


 その後、オークの攻撃も当たるが


「弱っちいな」


 死にかけの生き物の攻撃なんぞ、鍛えた俺の体には全く効かない。


「嘘、ちょっと痛いかも」

「バカ」


 でも


「勝ったぜ」


 D級の一つの壁を突破した。


 魔力が無いと言われた時は軽く絶望しかけたが、こうして俺は戦えている。


 それがどうしようもなく


「俺、夢が叶ったよ」

「清?」


 いや、俺の夢はまだまだ無限にある。


 世界を救うなんて壮大で、前の人生では絶対に出来なかったことも待っている。


 それでも


 それでも俺は


「異世界に来て……よかった」

「最終回?」


 俺は涙を流し、最近知ったゴブリン特有のダンスを真似しようと躍り出すと


「あ」

「どうした芽ーー」

「ひだ……ごめん、言うの遅れた」


 そして二体目のオークの攻撃により、俺はまたまた惨敗してしまうのであった。

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