第13話

 とある森の中。


 道中には俺を瞬殺する様なモンスターが蔓延っている。


 だが、そんな怪物共も彼女の前では赤子も同然だ。


「なんか悪いな、付き合ってもらって」

「別に、暇だったからいいけど」


 勿論俺一人じゃ余裕で死ぬ為、最強の芽依さんに同行してもらった。


 と言っても最初は一人で行くつもりだったのだが


「依頼も無しに遠出?」

「おう。今からレギアの森に行くつもりなんだけど、知ってるか?」

「死にに行くの?」


 そんな感じで芽依も同行してくれる運びとなった。


 自分の足で帰ろと言った芽依が付いてくるレベルってどんだけやばい場所なんだよ。


「街の外はモンスターだらけだから、行く場所の情報くらい抑えるべき」

「いやまさかそんな危険な場所に案内されると思わないじゃん?てかそんな場所に住んでる人ってどうなの?」

「私に聞かないでよ」


 芽依がいるとモンスターどころか虫すら寄って来ない為、呪いって本当に便利だなぁと思い始めて来た。


 いや


「芽依は虫刺されの心配は大丈夫か……」

「バカにしてる?」


 相変わらず全身武装を固めている為、虫も芽依のことを生物と認識するかだな。


「家でもそんななの?」

「さすがに家では脱いでるけど」

「……今度家に行っていい?」

「死ね」


 グオ!!


 まぁまぁ距離を開けてるはずがめちゃくちゃ息苦しい!!


 もしかして芽依を本気で怒らせたら俺死ぬ?


「芽依肩揉もうか?」

「本当に死にたいの?」


 呆れた声を漏らす芽依。


 でも少しだけ笑ってるのを俺は見逃していないぞ?


 このツンデレちゃんめ。


「なんかよく分からないけど、清のこと凄く殴りたい気分」

「芽依の攻撃って全部即死技だからやめてね」


 そんな感じで森の中を歩いていると


「あ、本当に家がある」


 目的の場所に着いた。


「レギアの森は本来A級でも近寄らない程の危険地帯なはずなのに……」

「それだけの自信があるんじゃないか?早速訪ねてみようぜ」

「ちょっと!!そんな不用心に行ったら!!」


 俺は走って玄関に向かう。


「どうもこんにちバブビッ!!」


 何もない空間で顔をぶつける。


 あ、鼻血出てきた。


「大丈夫?」

「ぶつけただけだ。それにしても……なんだこれ?」


 何もない空間に、透明な壁の様なものがある。


「結界」

「結界?もしかして魔法か?」

「そう。私は魔法について詳しくないけど、多分かなりの技術を持った人のもの」

「へぇ、じゃあどっかにピンポンとかないのか?」

「ピンポン?あぁ呼び鈴のことね。さぁ、どこかにあるんじゃない?」


 俺はグルグルと周りを歩くが、家を中心にぐるっと結界に囲まれていた。


「こりゃダメだ。中に入れん」


 しょうがない、今日は諦めて明日ネインにどうするか聞いてみるか。


 帰ろうかと後ろを向く俺に反し、芽依は前へと進む。


「面倒だから壊す」

「えっと……芽依さん?」


 芽依が結界の前に立つ。


 そしてスッと手を前に出すと


「ほら、行こう」

「芽依さんマジぱねぇっす」


 空間が捩れ、結界に大きな穴が空いた。


 マジで敵無しだな。


「でも怒られないか?」

「まぁ殺されるわけでもないし、殺してきても負けないから大丈夫」


 強者の余裕カッケェ〜。


「俺、芽依に一生ついて行く!!」

「やめて」


 そして俺達は近かったようで遠かった家の前に立つ。


「私は向こうで見とく。危なそうだったら走って来て」

「了解」


 俺は扉の前に立ち、軽くノックをする。


「誰かいますか〜」


 ……返事はない。


「すみませんN◯Kの者ですが、お宅テレビ置いてますよね?中に入れて下さい」


 返事はない。


「あなたは今幸せですか?今ならこの幸運を呼ぶ猫を百金貨で買えますよ」


 返事はない。


「宅配便でーす。えっと、商品の魔炎龍ロザリックホリデーナイトフィーバーをお持ちしました」

「魔炎龍じゃと!!」


 奥の方からドタドタと足音がする。


 そして


「ま、魔炎龍が復活したのか!!」

「えっと……こんにちは」


 髪はネインと同じ緑色で耳も長いエルフ。


 だが、ネインと違う要素を上げるとすれば


「小さい」

「魔炎龍はどこじゃ!?」


 身長は目算だが、130くらいしかない。


 しかも見た目もめちゃくちゃ若い。


 だがこの口調、まさかこの人!!


「ロリババアですか!!」

「初対面でババアとは失礼なガキじゃな」


 大きな欠伸をし、よれよれの服が少しズレて肩を大きく出すロリ。


 どうしよう俺、犯罪で捕まらない?


「どうやら大丈夫そうじゃな」

「その、魔炎龍は俺が適当に言った言葉ですが、もしかして実在します?」

「魔炎龍はおよそ百年前に王都を襲った……むぅ、立ち話も面倒じゃ。中に入れ」


 ロリに手招きされるが、俺は入るのを躊躇う。


「ん?ああ、向こうにいる子も連れて来なさい」

「あの子一応呪い持ちなんですが、大丈夫ですか?」

「呪い?なんじゃ、あれは英雄の末裔に見えたが気のせいじゃったか」

「!!!!」


 この人まさか!!


「芽依!!この人多分本物だ!!ちょっとこっち来い」


 芽依は中に入ることを渋るが、結局内容が気になって中に入ることになった。



 ◇◆◇◆



「汚いですね」

「最近の子供は素直じゃの」


 中は色んな物が散乱していて、足の踏み場もないといった感じだ。


「それで、誰の紹介じゃ?」

「ネインです」

「あの子か。元気でやっとるかの」

「まぁ楽しそうではありましたよ?」

「そうか。なら安心じゃの」


 なんか普通に優しそうな人そうだけど、なんでこんな場所に住んでんだろうか。


「あ、俺の名前は文清って言います。こいつは相棒の芽依」

「何相棒って」

「ほら、挨拶しろ電気ネズミ」

「叩くよ?」

「儂の名前はライネット・バルファルク・ネネ。ネネちゃんと呼んでくれて構わん」

「バルファルクさん」

「おい」


 結局怒られて、ネネちゃんと呼ぶことになる。


 まぁそんなことはどうでもいい。


「魔炎龍の話を教えて下さい!!」

「カカっ、最近の若者は好奇心旺盛じゃの」


 ネネが何かをブツブツと唱え始めると


「凄い……」

「これって神様の……」


 そこには少し画質が荒いながらも、神様が見せたように映像が映りだす。


「これが百年前に突如現れたモンスター、魔炎龍」


 そこには全身を真っ黒な鱗で覆った、巨大な竜の姿があった。


「その力は凄まじく、武器は全て奴の体に触れる前に溶け、魔法はまるで避けるかのように近付くと消えて行く」


 俺が芽依の方を向くと、目が合う。


 どこか、こいつの能力は芽依に似ている気がした。


「儂も当時はこいつの討伐に参加したが、力不足でな。腕を一本落とすくらいしか出来なかった」


 それって十分ヤバいんじゃない?


 映像を見ている限り、みんなが一生懸命攻撃してもこいつノーダメそうだし、この人もしかしなくても化け物だな。


「でも国は滅んでない。何が起きたの?」

「うむ、案外そちらも興味津々のようじゃの」

「うちの芽依は真面目さんだからな」

「何急にキモい」

「そこで現れたのが、英雄じゃった」


 映像が切り替わる。


 魔炎龍が国を焼け野原にしている中、それは現れる。


「スゲェ!!空、空飛んでるよこの人!!」

「うるさい清。少し黙って」


 空を歩く一人の少女。


 地獄のような景色には不釣り合いな程、綺麗で、美しく、儚げであった。


『ーーーーー』


 映像では分からなかったが、何かを喋った。


 すると


「消え……た」


 まるで最初からいなかったかのように、魔炎龍は姿を消した。


「今、何が起きたんだ?」

「儂も知らん。これはあくまで儂の記憶を再現しただけに過ぎんからの」


 ここで映像は終わる。


 今のが魔炎龍か。


「確かにネネちゃんが飛んで来るのも分かった気がする」

「そうじゃろ。全く、最悪な目覚めだったんじゃぞ」

「すんません」


 俺は素直に謝る。


「それともう一つ教えて欲しいんですが」

「なんじゃ?」

「英雄の末裔とはなんでしょうか」


 俺の言葉に芽依は分かりやすく反応する。


「教えて……下さい……」


 芽依も頭を下げる。


「そうかしこまれても、儂の知っていることはただその特別な力を持つ者を英雄の末裔と呼ぶことだけじゃ」


 ネネの話を要約すると、時々芽依の様な馬鹿げた力を持つ人間が生まれる。


 その力はモンスターを一掃したり、戦争を終わらせたりなど、数え切れない程の活躍をした。


 その人達を人々は英雄と崇め、そして同じような力を持って生まれた子達を英雄の末裔と呼んだ。


 それがおよそ百年前までの常識だったらしい。


「うむ、今では呪われた子……か。嫌な世の中になったものじゃの」

「何か原因に心当たりは?」

「さぁの。世情の変化まではさすがの妾でも分からないからの」


 うーん、進展なしか。


「本当に……私が英雄の?」


 いや、多少はいい方向に進んだかもな。


「それで?主らはこんなことを聞くためにわざわざこんな場所まで来たのか?」

「あ、実はカクカクシカジカで」

「魔力のない主が、冒険を続ける為に強くなるにはどうすればよい……か。中々の難題じゃの」


 芽依が俺の魔力がないことに驚いているが、原因が芽依だと知られれば更に困ってしまう為、俺は生まれつきだと説明した。


「やっぱり厳しいか?」


 いつの間にか敬語が無くなってしまう。


 なんか敬語って面倒なんだよな、長いし。


「厳しいの」


 返ってきたのはあまり嬉しくないニュース


「目の前にいるのが儂でなければの話じゃがな」


 などではなかった。


「本当か!!バルファルク!!」

「おいガキ少し座れ」


 正座する。


 そして一発頭を叩かれ


「儂に教えを乞いたいか?」

「はい!!」

「なら、今日から儂のことを」

「師匠!!ご教授お願いします!!」


 こうして苦虫を潰した様な顔をする幼女が、俺の師匠となった。

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