第6話

「いや嘘だろ」

「実は俺もそう思ってる」


 話を聞き終わった後の俺の感想だ。


「全員死んだなら、誰がこの話を流してるんだ」

「みんなもそう思ってるさ。だけど信じられてる理由があるんだよ」


 冬夜は少し焦らし


「生き残りがいたんだよ」

「生き残り?」


 いつの間にか皿は空っぽだった。


「たった一人、その事件から逃げ仰せた奴がいたそうだ」

「その言い草だと」

「死んだらしい。精神がいかれちまって、そのままな」

「そうか」


 それが真実かどうかは、まだハッキリとしないが


「お前らがビクビクしてた理由もなんとなく分かった」


 生き残りがいた。


 それを知った彼女が、逆恨みで街の人々に危害を加える可能性がある。


「あまり言いたくないが、討伐されないのか?」

「何度もされてる。だが、危険の察知が凄まじく、本気であれが力を解放すれば数百メートルの人間が立つことすらままならなくなる」

「それは凄いな」


 正にチートだな。


 しかも限界はそれだけじゃない。


 アテネが言っていた通り、最後には世界すら覆うだけの力を持っているのだから。


「……益々話したくなってきたな」

「正気か?」

「むしろなんで皆んな気にならないんだ?俺は今すぐ色んなことを聞いてみたい」


 村のこと、力のこと、そして人々に思う気持ち。


「話を聞いてもやっぱり、俺には普通の女の子にしか見えなくてな」

「どう考えても普通じゃないだろ。文清、深く関わりすぎれば死ぬぞ?」

「問題ないな」


 俺は席を立つ。


「死はもう怖くないんだ」


 そして俺は椅子に足をぶつけ、盛大に転んだのだった。



 ◇◆◇◆



「「煎餅せんべい美味」」


 丸いテーブルの前に、俺と神はお茶と煎餅を食べる。


「年寄りの休日かよ」

「冒険者になるんですか?」

「進路相談みたいにだな」

「ある意味同じですよ。既に文清はこの世界の住民。これから先も世界が滅びなければ、文清の新たな生活が始まるのですから」


 凄く真面目な話をしているはずなのに、さっきからこの神様足ピクピクさせるの絶対正座で足痺れただろ。


「えい」

「!!!!」


 足を押すと爆発した。


 そしてめっちゃ怒られた。


「フゥー、次やったら軽く殺します」

「重く死ぬよりはマシだな」


 さて、質問を返すとするか。


「俺が冒険者になっても生きていけるのか?」

「十中八九無理ですね。文清には魔力がありませんから」

「魔力か」


 やっぱそうなのか。


 冬夜や愛菜に引っ張られた時、俺は全く抵抗出来なかった。


 あれは異世界あるあるの万能魔力のせいだったのか。


「魔力は地球では一切の力を発揮しませんが、こちらでは身体の強化と、魔法という奇跡を起こす力を持っています」

「でた魔法!!やっぱりあるんだ!!」

「もちろんです。種類は様々ありますが、知りたければ自分で調べて下さい。それも異世界の楽しみですから」

「当たり前だ。ネタバレされたら怒るとこだったぜ」

「あの世界では銃火器なんかよりも斬ったり、魔法放った方が強いですし安上がりですからね。ですので兵器に関しての技術はそこまで進んでいないのが現状ですね」


 魔法か〜


 やっぱり憧れるよなぁ。


 でも俺は魔法使えないのか……


 ん?


「待ってくれ神様。さっきの口ぶりから考えるに、俺にも魔力があったのか?」

「はい。魔力のない人間はいませんから」

「じゃ、じゃあ俺も魔法がーー」

「いえ、今の文清には魔力がありませんよ?あの時彼女に触れた瞬間、文清の魔力という生命は全て奪われました」

「マジかよ……」


 え、何やってんだ俺。


「じゃあ俺は、魔法を使える機会をみすみす逃したのか!!」

「その通りです」

「クソォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 そんなのってねぇぜ神様!!


 俺が何をしたっていうんだ!!


「初対面の女の子に気軽にナンパするからです」

「困ってると思っただけじゃん!!」


 いいことしたよね?


 普通放置するとか出来ないじゃん!!


「魔力与えられないの?」

「そこまでは無理ですね。病気と死を無くので精一杯でした」

「はぁ、それならしょうがないけどさぁ」


 俺の夢が一つ消えた。


 なんか無性に悲しくなってきたな。


 なんで異世界来たんだろ……


「と言っても一つだけ、魔力を取り戻す方法があります」

「なんだって!!」


 なんだよ神様。


 あんたとんだエンターテイナーだな!!


 さぁ、早速教えてくれ!!


「その方法とは」

「その方法とは!!」

「それは」

「それは!!」

「あ」

「あ?」

「もう朝ですね」



 ◇◆◇◆



 光が部屋に差し込む。


「どんなタイミングだよクソが」


 異世界生活二日目の寝起きは最悪であった。


「おはよう……って、機嫌悪そうだな」

「最悪な夢を見た。起承転結の転を目前に急に打ち切られた気分だ」

「そりゃ可哀想に。ほら、朝食少し増やしといたから機嫌直せ」


 冬夜は俺に料理を渡す。


 第一印象最悪だったが、話すと本当にいい奴だ。


 悪いなカツアゲとか思って。


「それで?今日はどうするんだ?」

「昨日は結局有耶無耶になって冒険者になれなかったからな。登録して依頼を一つ受けてみる」

「いいんじゃないか?でも危険な場所だけは気をつけろよ」

「ああ」


 そして俺は料理を片し、宿を後にした。



 ◇◆◇◆



「冒険者登録おめでとうございます」


 渡されたプレートは銅色。


 これはE級の冒険者を表すもの。


「依頼はあちらで確認出来ます。お決まりになりましたらもう一度こちらで申請して下さいね」

「うっす、あざっす」


 受付のお姉さんに見送られ、俺は冒険者となった。


 まぁそれでもE級、おそらく受けられる依頼は簡単なものしかないだろう。


「薬草採取、猫探し、それから店番か」


 なんかE級らしい依頼ばかりだ。


 報酬も日銭程度であり、コツコツ頑張れという意志を感じた。


「とりあえず無難な薬草採取からだな」


 俺は一枚の紙を取り、受付に向かおうとした。


「もしかして、武器も持たずに行こうとしてないよね」


 声のする方を向けば


「なんか息苦しいと思ったら君か、芽依」

「……あんまり馴れ馴れしくしないで」


 相変わらず全身を馬鹿みたい着込んだ少女。


 熱中症で倒れたりしないのだろうか。


「昨日は全力で逃げたのにどうした?意外と嫌じゃなかったとか?」

「……キモい死ね」


 中々の暴言厨だな。


 俺のメンタルが豆腐だったら死んでたぞ?


「野外での依頼は武器が必須。そんな装備じゃ死ぬ、確実に」

「なるほど、一番いいのを用意しないといけないってわけか」

「別に適当なのでいいと思うけど……」


 表情は見えないが、呆れているにだけは伝わる。


 やっぱこの子


「真面目だよな」

「急に何?」

「人付き合い避けてるくせに、わざわざ俺のこと心配して声掛けたんだろ?」

「……自意識過剰すぎ。なんとなく気分だっただけだから」

「ふ〜ん(ニヤニヤ)」

「な、何その顔。バカにしてるの?」

「いんや。面白いな〜と思っただけ」

「キモッ、やっぱ声かけなきゃよかった」


 そのまま俺の隣を通り過ぎ、一枚の依頼を持っていく。


 なんかキラキラとした宝石が写っていた。


「金色のプレート」


 それはA級を意味するもの。


「せいぜい死なないようにね」


 そう言って芽依は依頼書を受付には持って行かず、そのまま外へと出て行った。


「なんか雰囲気違うなぁ」


 あの日会った時とは違う。


 人が死ぬのを嫌がったり、見た目の変化もない。


 だがあの時はどこか弱々しい感じだったが、昨日と今日はどこか気を張っている。


 ピリピリとした空気が漂ってる感じだ。


「……まずは友達になる。それからだな」


 俺は依頼書を持ち、受付へと向かった。



 ◇◆◇◆



「ども」

「おう兄ちゃん。冒険者になったのか」

「憧れだったもんで」


 俺は例の武器屋へと向かった。


「それで武器か?E級に討伐依頼はでないはずだが?」

「外に出るなら剣の一本でも握ってろと言われて、せっかくなら買っておこうかと」

「なるほど、そりゃ正解だ。好きなの見てけ」


 ドワーフのおじさんが店の中に入る。


「うひょおおおおおおおおおおおお、相変わらず凄いな!!」


 中は店の前に飾ってあるもの程高価ではないが、それでも俺にとっては変わらず宝の山であった。


「出来るだけカッコいいのがいいが」


 俺は自身の手持ちを確認する。


 まだまだ余裕はあるが、貰い物だと考えると気がひける。


「これは商売目的じゃなくアドバイスだ。俺の店に今まで何百人と冒険者が来た。そこで妥協し、安いもんを買った奴は大抵俺の店に来なくなった。そして良いもん買った奴は、次来た時にはもっと高値のもんを持ってく。冒険者は思ってるよりも博打だぜ、兄ちゃん」

「そうだよな……」


 ここで安物を買って損するのは自分。


 かといって、魔力のない俺が強大な敵を倒せるとは思えない。


 なんて


「弱気なこと言ってられるかい!!」


 一本の剣を手に取る。


「あ、兄ちゃん!!そりゃ流石に!!」

「いいんだドワーフのおじさん。俺は後悔だけはしない生き方をすると決めてるんだ」


 俺の持ってるお金の九割の値段。


 この店でもかなり高額な部類のものだ。


「……いいのか?」

「男に二言はねぇぜ!!」

「心意気やよし!!持ってけ!!兄ちゃんきっと大物になるぞ!!」


 俺は値段通りの金貨を出すが、ほんの少し返ってくる。


「死ぬなよ兄ちゃん」

「任せろ。いつかこれより良いもの買うからよ」


 そして俺は分不相応の剣を持ち


「さぁ行くぞ!!薬草狩りじゃ!!」


 こうして俺の最初の冒険が始まるのだった。

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