第4話

「フラれたか」


 なるほど、随分とくるものがあるな。


「だ、大丈夫?体とか変な場所ない?」


 先程、俺をパーティーに勧誘した少女が心配そうに駆け寄ってくる。


「大丈夫。呼吸が苦しくて体が動かなくて目がチカチカして吐き気がするだけだから」

「全然大丈夫じゃないよね!!」


 あたふたとしている美少女を眺めながら、これからの展望を想像する。


 あの様子から見るに、何度かこうして手を伸ばす人間がいたのだろう。


 だがその度に、痛い目をみたような、そんな仕草だった。


 俺は他人の気持ちとかは一切読み取れないが、恐怖の形だけはなんとなく分かるんだよな。


「さて」


 呪い持ちは古来より心に闇を抱えているものだが、はてさて次のアプローチはどうすべきだろうか?


 そんなことを考えていると


「あ、あの、少し触るね?」


 突然エッチな言葉が飛んできた。


 純情少女と思いきや、かなりのやり手か?


 と、邪な考えが恥ずかしくなるように


「よっと」

「プライドのない人生を送っててよかった」


 自身よりも一回り小さな少女に担がれる。


 どんな怪力してんだ。


「文清軽いね。ちゃんとご飯食べてる?」

「一般男性の平均体重だよコンちくしょう」

「そうなの?男の人持ち上げたことないから分かんなかったんだ」


 そして、名前すらまだ聞いてもいない少女にエッサホイさと冒険者ギルドに設立されている医療室へと運ばれるのであった。



 ◇◆◇◆



「悪いな、ここまでしてもらって」

「ううん。元々声を掛けたのは私だし、むしろ時間を取らせちゃった恩返しが出来て嬉しいよ」


 なんともよく出来たお嬢さんである。


 きっとご両親により良い教育を受けたのだろう。


「母さん元気にしてるかな……」


 おっと、少しセンチメンタルになってしまった。


 生命力とやらを奪われた反動だろうか?


「それじゃあお別れだな。短い付き合いだったけど、君のことは多分忘れないと思う。また機会があれば会えるとーー」

「愛菜」

「いい……愛菜?」

「私の名前は君ではなく愛菜」

「お、おう。愛菜か。いい名前だな」

「えへへ、ありがとう」

「……(なんか喋った方がいいのかな?)」

「……?(ニッコリ)」

「……(苦笑い)」


 なんだこの空気。


 ゲームならフラグが立ったと分かるが、俺はゲームと現実は一緒にしないタイプ、むしろ一緒にするなんて烏滸がましいと思うタイプだ。


 そんなわけでこんな短時間で俺みたいなヤバい奴(自覚あり)を好きになる筈がない。


 つまり愛菜には何か裏がある!!


 推理系のゲームを得意とする俺が、完璧に答えを導き出してやるぜ(現実とゲームを混在する男)。


「そ、そういえば愛菜はさ、あの子のこと知ってるか?」

「あの子……ってさっきの?」

「そうそう」

「もちろん知ってるよ。だから文清が近くに行った時はビックリし過ぎて動けなかったよ」


 申し訳なさそうに凹んでいるが、これもブラフだ。


 そもそも性格の良い美少女なんて存在する筈がない(偏見)


 闇を暴け。


「でも愛菜は駆け寄ってくれた。それだけで俺は嬉しいんだ」

「そ、そうかな?わ、私はただ動かなくちゃって思っただけで、大したことをしたわけじゃ……」


 照れた様子が可愛いが、それも見せかけに違いない。


 ここで一気に勝負を仕掛けるぞ!!


「いやいや、ホントに感謝しても仕切れない。やっぱり何かお返しさせてくれないか?金なら多少あるんだ」


 ここで俺は金貨を10枚程見せる。


 流石に全て見せつければ逆に怪しまれるだろうし、世間知らずの子金持ちという設定でいけばバレないだろう。


「凄い大金!!もしかして文清ってお金持ち?」

「ま、まぁそんな感じ?」

「そっか、でもそのお金は受け取れないかな」


 愛菜はソッと金貨を俺の手に戻す。


「最初にも言ったでしょ?私はただ恩返ししただけ。むしろ何だか気を遣わせちゃったみたいでごめんね?」


 ……もしかして


「い、いやでも気持ちだから。これくらいの金、俺からしたら大したことないっていうか」

「あ、じゃあ教会に寄付にしてくれない?あそこならきっと、私よりも上手にお金を使ってくれると思うから」

「……天使か?」


 俺には愛菜の後ろに後光が差しているのが見えた。


 グッ、直視できない!!


 そもそも教会から貰ったお金だなんて口が裂けても言えない!!


 教会から貰ったお金を教会に寄付するって、それなんてマッチポンプだよ。


「ど、どうしたの!!まだどこか痛むの!!」

「い、痛む。罪悪感という呪いで胸が痛くて仕方ない!!」


 自身の過ちを呪う。


 天使相手の心の闇を暴くなんてバカのすることだったんだ。


「もう一回先生呼ぶ?」


 俺の背中を摩《さす》る天使。


 あまりにも恐れ多いので、ソッと手を離すよう促す。


 俺が大丈夫と分かると同時に、ニコニコし出す天使だが、そうなってくると益々愛菜の気持ちが分からない。


 未だにここに居座るのは何か理由がある筈。


 お礼でないとしたら一体……


「ね、ねぇ文清」

「どうした天……愛菜」

「ひ、一つお願いと言うか、もしよかったらなんだけど……」


 モジモジとし出す愛菜。


 可愛らしい仕草だが、若干トイレに行きたそうな動きだなぁと思う俺の感性は自分でもバクってると思う。


「友達に……なってくれない?」

「フレンズ?」

「なんで複数形かは分からないけど……うん、フレンズだよ。ダメ……かな?」


 さて、またまた考察タイムだ。


 何故、天使からの好感度が爆盛りされているのか不明。


 だが相手は天使。


 その言葉は純正のものである。


 となれば俺の答えは一つ


「あ、ごめんなさい」

「そんな!!」


 断るだ。


 了承する理由も断る理由も山程ある。


 だが決定的なものはやはり


「さっきの俺の行動見ただろ?俺は自分で言うのもあれだが、死ぬのが怖くない」


 もう一回死んでるし。


 命を粗末にするなと言ったが、俺は俺なりに悔いのない人生を送っている。


 その道中で死ぬならば本望だ。


「だから多分、俺は簡単に死ぬタイプの人間だ。だから愛菜とは一緒にいられない」


 何様だよって感じだが、俺の言葉に愛菜は


「……えへへ、思ったよりも……心にくるね」


 苦笑いを浮かべる。


 俺も胸の方がキュッとなる。


 これってもしかして恋?


「でも、その理由じゃ諦めきれないかな」


 愛菜は真っ直ぐな目で


「そうやって死にゆく人を放って置けるほど、出来た人間じゃないから、私」


 そう言って少し怒りながら立ち上がる愛菜。


「あとパーティーの件も諦めないから!!絶対文清をパーティーに入れるからね!!」


 そう言って愛菜は病室から出ていった。


「……なんか色々負けたな」


 大きなため息が溢れた。


「痴話喧嘩終わった?」

「痴情は一切ありませんので」


 最後に検査して、俺も部屋を出た。



 ◇◆◇◆



「嵐のような子だったな」

「どうした急に?」


 俺は昼に出会った冬夜の宿屋に来ていた。


 店の名前は海竜という俺の心をくすぐる名前だ。


 中は普通だが、値段が安くしばらくはここにお世話になることにした。


「いや、今日冒険者ギルドに行ったんだよ」

「冒険者になるのか?」

「まだ決まってないが、出来るだけ頑張ってみるつもりではある」

「冒険者は度胸だ。その意志は大事にしとけよ」


 冬夜は仕事中らしいが、今はまだ暇なため俺の食事に付き合っている。


 てか普通に美味いな。


「何の肉だこれ」

「ヘビースネークの肉だ」

「ヘビースネーク?」

「体長が3メートルある巨大な蛇のモンスターだ。C級冒険者三人でようやく狩れるレアな肉だ。ありがたく食え」

「なるほど、俺は自分よりも強いものを既に食らっていたのか」


 これも冒険者が儲ける所以なんだろうな。


 日本で食ったどの肉よりも美味ぇや。


「それで?嵐が何だって?」

「ああ、嵐のように現れて去っていく美少女がいたんだ。なんでアイドルやらずに冒険者になってんだろ」

「何か事情があるんじゃないか?俺の宿屋に泊まる客にも訳ありはいっぱいいるぜ。貴族なのにお忍びで街を散策してる奴とか、体が不自由なのに冒険者の奴とか色々とな」

「へぇ〜、やっぱ宿屋の息子は経験が違うな」


 俺は極上肉を食う。


「それと、ギルドで白鷺芽依にあったな」

「マジか……そりゃ災難だったな……」

「なぁ、どうしてそこまで呪い持ちを恐れるんだ?あいつが何かやったのか?」

「そんなもん!!……そっか、文清は田舎から来たから知らねぇのか」


 冬夜が取り乱すのは、最初に会った時で二回目。


 どちらも呪いという言葉が関わった時だ。


「これから話す内容が本当かは分からない。だが、必ず胸の中に刻み込んどけ」


 そして冬夜から語られた物語は


「マジかよ……」


 あまりにも衝撃的で、悲惨なものだった。

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