第1話

 とある理由で死んでしまった俺こと文清17歳オタク(早口)。


 死んだ俺は謎の空間で、自分のことを神様だと名乗る女ことアテネ(583)、年齢=彼氏なし(可哀想)と出会った。


「ちょっと待って下さい。何故私に今まで彼氏が出来たことないのを知ってるんです?」

「いや、なんか俺と同じで色恋よりも趣味を優先する神に見えたもので」

「間違ってませんが、なんか癪なのでこれ以上の問答は受け付けないことにします。それと私はまだピチピチの83歳です」


 そう言って煎茶を飲む姿は完全にお婆ちゃんだが、見た目は本物の美人なのでなんとも言えない。


 正座をしながら、その長く白い髪が地面に少し触れている。


 確かにこれは神だなぁって感じだ。


 そして目の前の神様が本物だとすれば


「まさか本当に異世界に行くなんてな」

「正確に言えば、ここはまだ異世界ではありませんが」


 確かに、この机と椅子しかない空間が異世界と言われたら萎えるな。


「異世界転移についての話は、概ねメールに書かれた通りですが、もう一度説明しますね」

「おなしゃす」


 アテネはコホンと咳をし


「今現在、異世界は滅亡の危機に瀕しています。滅亡の原因は、呪いと呼ばれる力によるものです」


 呪い


 俺の記憶に例の少女の姿が浮かぶ。


「お察しの通り、あなたが先程会った少女はあなたの世界の住人ではありません」

「やっぱり」


 おかしいと思ったんだ。


 あんな姿では必ず目立つし、街灯を知らないこともこれで納得できる。


「そして彼女の呪いは……そうですね。ビデオで見た方が分かりやすいですね」


 アテネはそう言って重い腰を上げる。


「重くないです!!」


 俺の心の声聞こえるの!!


「勘です」


 鋭すぎだろ。


 アテネは奥からテレビを一台持ってくる。


「今時テレビは古くない?」

「最近の電子機器は操作が難しいので」


 こういうとこはお婆ちゃんなんだ。


「それではこちらを」


 視線を向けると、テレビが起動した。


「これは……もしかしてモンスターか!!」


 そこには猪を五倍くらいにした巨大な生き物が立っていた。


「すげぇ、リアルモンスターだ。どんくらい強いんだ?」

「戦力で換算するなら、地球での戦車4、5台分の強さをしているモンスターです」

「俺死ぬよ?こんな世界行ったら」


 そんなモンスターの正面に立つのは


「誰?」


 背中しか見えないが、あのロングブーツ。


 もしかして


「彼女の名前は白鷺芽依。見ての通り15歳です」

「20代前半の見た目で83の例がいる時点でちょっと……」


 俺の年齢感覚が既にバグってしまった。


 てかそんなことより


「これ危ないんじゃ」

「見てて下さい」


 猪型のモンスターが少女に向かって突進していく。


 あんなもんが人にぶつかればミンチ肉になってしまう。


 逃げろと叫ぼうとしたが


「なんか動きが」


 最初はダンプカー並みの速度で走っていた猪だったが、今では赤ちゃんのよちよち歩きと同じ速度である。


 女の子は何もしてない。


 ただ立っているだけ。


 そして遂にモンスターは少女の前で動きを止める。


 そして


「ごめんなさい」


 少女がそう言ってモンスターの頭に触れると、モンスターはピクリとも動かなくなった。


「彼女の呪いは生命力の奪取」

「生命力?」

「生命力とは、簡単にいえば活動エネルギーです。朝起きた時、頑張れる気がするぞ!!って日と、今日は無理だ〜って日がありますよね?」


 頑張れるで小さな力瘤を、無理だ〜で地面に寝転がる演技をする神様。


 案外可愛いらしいものである。


「聞いてます?」

「効いてる効いてる」

「煽り文句みたいに言うのやめて下さい」


 少し怒られた。


「ですので、彼女の近くにいれば次第に元気が無くなります。と言っても離れていれば回復しますし、そこまで脅威ではないですね」

「ふ〜ん」

「安全そうだと思いましたか?」

「いんや。さっきの映像を見てそれが言えるのは、バカか俺かのどっちかだ」

「それは元々一択ですね。そう、逆に言えばかなり接近、皮膚に触れるともなれば植物状態に近い状態にまで陥ってしまいます」


 少なくとも人間が彼女に触れる=実質的な死というわけか。


「それで?結局俺はこれを見てどうすればいいと?」

「あなたには彼女を……いえ、彼女達を幸せにしてもらいます」

「幸せ?」

「願望込みで言うと恋に落としてもらいます」

「何故に?」

「説明しましょう」


 するともう一度テレビの画面が点く。


 そこには先程のように、ある意味現実離れした光景が広がっていた。


「世紀末?」

「これは三年後の未来。白鷺芽依が恋に落ちなかった未来です」


 そこには一面の砂漠。


 何もない。


 生命も、物も、何も存在しない。


 ただの静寂だけがそこにはあった。


「呪いとは思いの強さ。彼女の心身が弱れば弱る程、その効力は増し、最終的にはあらゆる生命を枯らしてしまいます」


 あらゆる生命……ね。


「無機物にまで及んでいる気がするが」

「無機物の維持という生命が淘汰され、崩壊します」

「なんでもありだな」


 こりゃ確かに呪いだ。


 たった一人の少女が持つにしては過剰な力。


 こんな世界を破壊する爆弾みたいな女の子を攻略するね〜。


「ワクワクするな!!」

「さすがですね」


 なんか本当に異世界って感じがする。


 やべぇ、なんかめっちゃ興奮してきた。


「てか待て。心が弱ると世界が滅んで、それを神様は止めたいんだろ?」

「その通りです」

「じゃあわざわざ恋に落とす必要あるのか?」

「ないですね」

「……」

「完全に私の趣味です」


 この神様、もしかして暇してるの?


「でも一番効率がいいんですよ?」

「恋愛を効率で考える辺りが彼氏ができない理由なんだろうな」

「あなたにだけは言われたくありません!!」


 失敬な!!


 俺はあくまで優先順位が下なだけだ!!


「私と変わらないのでは?」

「うるさいなぁ。結局他人の恋愛見てる時が一番面白いだろ?」

「確かにそうですね」


 俺は神様としばらく恋愛漫画の話で盛り上がった。


 だけど途中から自分達の人生がどこで間違えたのかと慰め合う展開になる。


「コホン、話を戻しましょう」


 神様が、俺様系が好きだと分かったところで話は軌道を取り戻す。


「これからあなたには異世界に行ってもらいます。体は元のままですが、病気は既に取り払っています」

「マジ!!助かるよ!!」


 あれ結構辛いんだよな。


「辛いどころか、一般的な成人男性でも動くことが難しいレベルの痛みですよ?」

「神経も鈍ってたんじゃね?知らんけど」

「やっぱり頭おかしいですね」


 神様にまで頭おかしいと言われたらどうするの?


「そんなあなただからこそ、選んだのですが」

「あのメールか。嫌がらせかと思ったよホント」

「すみません。私が直接行くわけにもいかず、メール以上の干渉方法が管轄外の地球では難しかったので」


 よく分からないが、神様内のルールなのだろう。


 神も世知辛な。


「異世界は文清のいた世界のような文明技術はありません」

「まぁ別に、俺はどちらにせよ魔法やらモンスターがいるだけで十分だから文句はないね。むしろ世界観的にはバッチリだ」

「それと、先程のようなモンスターが地上と海中の半数を占めています」

「既に世紀末じゃねーか!!」


 戦車4、5台の化け物が半分て、人間よく生きてるな。


 いくら現代の技術があろうとかなり厳しいだろ。


 核でもぶち込めばいけるのか?


「これ呪いの前に人類滅びないのか?」

「これまでの歴史では何度も人類は滅びかけました。ですが、その度にモンスターを一掃する英雄が現れたのですそれが」


 もしかして


「「呪い」」


 やっぱり


「よく分かりましたね」

「かつての英雄が、平和な世の中で厄災になるのは王道展開だろ?」

「そしてフィクションだけの話だったそれらが、本当に起きてしまった」

「そして英雄が今、世界を滅ぼうとしている。なんともまぁ皮肉的だな」


 かなりアイロニーを感じる。


「さて、改めまして文清。あなたに世界を救う意志はあるますか?」

「ないね」

「そうですか、ではーーえ?」

「ない」

「え!!嘘!!世界を救うんですよ!!あなたが一番好きな展開では!?」

「確かに世界を救うのは好きだが」


 俺はあの時を思い出す。


 自分の生に意味を見出せない彼女の姿。


 それは、まるでかつての


「俺が救うのは世界じゃない」


 空に向かって拳を握る


「ただの普通の女の子だ。違うか?」

「……フフ、やっぱりあなたを選んで正解でした」


 厨二はカッコつけるもの。


 胸の奥にある闘志だけは誰にも負けない。


「あ、ちなみに特殊能力といった一切の能力は与えられません。書いてありましたよね?」

「いや書いてたけど……マジ?普通に死なない?」

「大丈夫です。多分どうにかなります」

「不安だなぁ」


 でも


「まぁいっか」


 何もない状態で始めるのも一興だろう。


 何故なら俺の行く場所は異世界。


 不可能が可能になった世界だ。


「冒険の準備は出来ましたか?」

「冒険の準備?そんなもん」


『お前を助けに来た』


 ニヤリと笑い


「あの日からずっと準備万端だ!!」

「それならば参りましょう」


 何もない空間に白い扉が現れる。


 俺は扉に触れ


「行ってきます」


 新たな世界へと踏み入れた。




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