第6話

「どうしたんだろう、依田さん」


 ほぼ毎日のように継続していた亜美からのメッセージがパタリと途絶えたのは、亜美が夜中にスマホを取りに来てから半年程経った頃。

 亜美は、健太郎にとって唯一心を許せる異性の友人ではあったものの、その位置づけはあくまでも友人。それ以上の踏み込んだ関係にはなく、手すら繋いだことはない。

 時折男としての衝動に駆られることがない訳ではなかったが、曖昧な気持ちのままその衝動に身を任せることが健太郎にはどうしてもできず、なによりその結果、今のこの良好な関係を失ってしまうことを、健太郎は怖れていた。


「既読にもならない」


 ただの挨拶や他愛のない言葉であっても、亜美とのメッセージのやりとりは心躍る楽しいものであったのに、そのメッセージが突然途絶えたことに、健太郎は酷く狼狽えた。

 おまけにここ最近、ゼミでも亜美の姿は見かけていない。


「どうしたんだろう?具合でも悪いのかな。まさか、事故にでも遭ったとか?!それとも、病気っ?!」


 心配になってゼミ仲間に聞いてみたものの、返ってくるのは『さっき会ったよ』『元気そうだったよ』の答えばかり。


「もしかして僕、依田さんに避けられてる?!何か嫌われるようなこと、しちゃったかな・・・・」


 呟いた言葉が、思ってもいなかった程の胸の痛みを伴ったことに、健太郎自身が酷く驚いた。

 そして、ようやく気づいた。

 自分の中でいつの間にか育っていた、亜美への想いの大きさに。


 既読にならないメッセージのあとにも、


『おはよう』『元気?』『どうかしたの?』


 などとメッセージを送ってみるも、全てが見事に既読スルー。

 しばらくの間悶々とした日々を過ごした健太郎は、意を決して亜美にメッセージを送信した。

 これで返信がなければ、今更ながらに気づいてしまった亜美への想いは、きっぱりと諦める覚悟で。


『僕はどうやらあなたのことを好きになってしまったようです。でも、あなたが僕を嫌いになってしまったのであれば、諦めます。メッセージももう、送りません。だからお願いします。あなたの気持ちを教えてもらえませんか?お返事、待ってます』


 時間をかけて何度も打ち直したメッセージを送信後、ドキドキしながら待つこと数分。

 ピコン、とスマホがメッセージの受信を告げる。

 恐る恐る手を伸ばし、確認したスマホの画面には。


『ばーか』


「・・・・えっ」


 意味が分からず固まる健太郎の手の中のスマホが、次々とメッセージを受信する。


『遅いっ!』

『そんなわけないじゃんっ!』

『今から行く!』


「・・・・えっ?今からっ?!嘘でしょ・・・・」


 時計を見れば、もう深夜12時近く。

 シンデレラの魔法だって、解けてしまう時間だ。

 ここまで来る電車はあっても、帰りの電車など無い時間。

 だが、亜美は本当にやってきた。健太郎の元に。

 そしてその日。

 二人は晴れて結ばれたのだった。

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